テイルウィンド

双子烏丸

文字の大きさ
上 下
129 / 204
第十章 Grand Galaxy Grand prix [Action!〕

トゥインクルスター・シスターズ

しおりを挟む
 ――――
 フィナ・アルトリッジとティナ・アルトリッジ、二人はスカイライト星系第二惑星、ハイクラウド出身のレーサーだった。
 そこは大気と自然を持つ惑星であり、大きな特徴は通常の十倍以上の大気の厚さを持ち、その地質の一部は、高い浮力を保持している特殊な地面を持っていた。
 その浮力は地面そのものを天高く浮かび上がらせる程に強く、ハイクラウドでは、雲海広がる天空に浮かぶ大地……『空の島』が多く存在していた。島の大小は様々、中には『大陸』と呼ばれるほどにまで、巨大なものがある。
 二人は暮らしていたのは、そんな惑星だ。


 島にも多くの人々が暮らし、空すら身近な生活の場となっていた。
 また、濃厚な大気は、航空機の独自の発展を促した。
 惑星エアケルトゥングではウィンドボートのように、風に乗って動く帆船の仕組みを用いたが、ここでは無数の羽がついたフィンを回転させる事で動力を得るプロペラと呼ばれる物を用いた、プロペラ機が主流となっていた。広大な空を飛び回るには、ある程度の動力を持っていた方が、都合が良かったのだろう。
 ……そして、ここでも小型プロペラ機による、レースが流行していた。
 伸びた機体に、両側には一対の翼と言った、大昔の航空機らしいフォルム。そして後部には、ブースターの代わりにプロペラが備わっていた。
 それこそウィンドボート以上に制御を必要とし、より機体らしい機体を駆るこの惑星のレース、フィナとティナは元々は、そのレースで活躍していた訳だ。



 当時から高い操縦技術とレースの素質、そして、双子は生まれつき言葉を使わずとも離れた場所で心を通わす事の出来る……所謂『テレパシー』のような物を持っていた。
 レースでその力は強く発揮され、二人の息の合った連携に敵うものは、当時だれもおらず、ハイクラウドの航空機レースではまさに、無敵を誇った。
 だが……叶う相手がいない中、二人は退屈していた。 
 レースが大好きであることには、もちろん変わりはないが、これでは続ける意欲もなくなりかけた時……、当時海賊の身分を隠していた、サイクロプスにスカウトされた。
 それから後は、知っての通り。
 二人は宇宙レースにおいてもその才能を発揮、多くの活躍の末にG3レースの出場権を獲得し――今に至る。


 
 ――――
 フィナの機体『アトリ』と、ティナの『ヒバリ』、二機は小惑星を飛行する第二陣のレーサーを相手にする。
 ……が、どれも相手にならず、次々とリードを重ねて行く。
 ――ははっ! どいつもこいつも、全然相手にならないじゃないか! なぁフィナ!――
 ティナの考えに、フィナも同調する。
 ――ええ、意外に簡単だね、お姉ちゃん。フウマさんにも、負けなかったもの――
 ――そうだな! それに、リッキーにさえ負けなかったしな! ……まぁ、ジョンの奴には逃げられたのが、残念だけど――
 

 そう、二人はフウマと会う前に、リッキーとジョンを、惑星サファイアで相手にしていた。
 結果、リッキーのリードは防げたものの、ジョンに対しては先を越されてしまった。
 ――まさかあいつ、あそこまでやるなんてな……。さすがに二対二は、ちょっと厳しかったか――
 ――リッキーさんは、猪突猛進が主な取り柄みたいでしたし、私たちには簡単な相手でしたね――
 ――ああ、いくらスピードが高くとも、私たちのコンビネーションで防げばいいだけだからな――
 二人一組でレースを行う強みは、先ほどテイルウィンドを相手に見せたように、同時に相手を攻めることはもちろん、守る側においても発揮する。
 二機のディフェンスを破るには……おそらく、並外れた性能が必要を要するだろう。
 

 
 そして、再び一機、二人の目の前に現れた。
 ――ふふっ、また一機、私達の前に出てきたわね――
 ティナは頷く。
 ――ああ! しかも今度は、第二陣のヤワな連中じゃないぜ――
 その機体は、槍のような流線型の、深紅色の美しい機体…………マリン・フローライトのクリムゾンフレイムだ。
 ――親善試合での活躍、見させてもらったぜ! だが……この地形は苦手と見えるな。ふっ、私たち『トゥインクルスター・シスターズ』の実力も、伊達ではないことを見せてやるぜ――
 ――私とお姉ちゃんだって、一流のレーサーですもの。頑張ります!――
 自信満々なのは、二人とも変わらない。
 さすが……双子と言うべきだろうか。


 ――――
 ――こんなに障害物が多いんじゃ、厳しいわね。あちこちに小惑星とは……邪魔ね――
 コックピットで僅かにいら立っている、マリン。
 彼女の機体、クリムゾンフレイムは加速こそ強いが、機動性はあまり良いとは言えない。
 サファイアでは気流こそはあったが、物理的に邪魔となる存在はなかった。
 だが……ここでは違う。
 回避運動は何とかこなせるものの、無駄な動きが多い、それがスピードを殺し、自慢の加速を活かせないでいた。
 ――遅れっぱなしね、サファイアでも距離を取られたっていうのに、もう――
 現状に、不満を持ちつつもマリンは、何とかここまで上手くやって来た。
 


 ……が、ここで後方から迫る、二機の機体が見えた。
 クリムゾンフレイムよりも遥かに上手く、小惑星を切り抜けて迫る。
 ――早速新手ね、しかも二人か……。機体はアトリと、ヒバリって言うんだ、パイロットもフィナ、そしてティナ……ふふっ、可愛らしい名前じゃない――
 とは言ったものの……その相手は、相当な実力者だろう。
 ここまで追って来たのが、その証拠だ。


 まるで鳥のように、翼を羽ばたく二機、アトリとヒバリは小惑星を挟み左右から回り込む。
 そんな中、どうにか逃れようとするのは、クリムゾンフレイム。
 ――二対一なんて卑怯よ! 正々堂々勝負しなさい!――
 苦戦するマリンは、息つく暇もなく操縦に集中する。
 最低限の回避で済ませるためにギリギリを攻め、無理をしすぎたために
、何度か岩肌に機体が当たりそうになるが、それでも善戦している。
 クリムゾンフレイムと、アトリ、ヒバリ……、三機はほぼ平行に並び、宇宙空間を飛翔する。
 


 ――――
 フィナ、ティナは上手く、マリンのクリムゾンフレイムを追い込んでいた。
 しかし……それでも向こうは善戦し、中々追い越せずにいた。
 ――なかなか、やるね。……お姉ちゃんも、そう思うよね――
 ――ああ! だけどそれも、時間の問題だぜ。何しろ、向こうの機体は元々ここでは、不向きだしな――
 ティナは頷く。
 ――ここで私たちが追い抜いたら、もうこっちの物です。スピード重視の機体みたいですが……私たち二人なら、先へは行かせませんしね――
 ――まぁすぐに、追い抜いてみせるさ。……そうだ、ここでちょっと挨拶でもしゃれこもう、きっと……面白いぜ。最も、向こうに通信をする余裕があればの話だけどな!―― 
 そうティナが大笑いしているイメージが、フィナにも伝わった。
 ――もう……お姉ちゃんってば。……でも、少しなら試してもいいかもね――
 

 二人は通信を、クリムゾンフレイムに送った。
 もしかすると通信を入れる余裕もないとも考えたが、それでも、向こうは通信を受諾したらしい。
〈……へぇ、あなた達があの二機のレーサーね。なかなか、やるじゃないの〉
 現在進行形で苦戦しているため、余裕がなさそうな様子ながらも、それでもモニター越しのマリンは、表情に笑みを見せていた。
「そっちもな、マリン! アンタだってなかなかに実力者だと、俺は思うぜ」
「……お姉ちゃんが乱暴な言い方で、ごめんなさいね。それに……忙しいのに通信をつないでくれてありがとう、マリンさん」
〈ふふっ、来るものは拒まずって言うのも、私の信条だから〉
 そんな会話をしている中でも、レースは続いている。相変わらず、三機は拮抗した状態のままである。
「レーサーとして先輩の、マリンさんには、私たちの憧れです。……正直、こうして一緒にレースが出来るなんて、光栄に思います」
〈あら? 嬉しいことを言ってくれるじゃない〉
 しかしフィナは、こうも続けた。
「でも今、地の利を得ているのは、私たちです。さすがのマリンさんでも……一体、どこまで持ちこたえられますか?」
「こう見えても、レーサーに関してはフィナは俺より、負けず嫌いだぜ! 幾ら私たちが宇宙レースでルーキーでも、腕には負けないくらい、自身はあるんだからな!」
 恐らく、プロレーサーの中では特に若い、フィナとティナ。しかし……その実力そして気迫は、誰にだって、引けを取りはしない。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

逆算方程式

双子烏丸
SF
 星から星を渡り歩き、依頼された積荷を運ぶ、フローライト・カンパニーの社員ライゼル。  この依頼も、いつもと同じく,指定された星へと積荷を運ぶ、ただそれだけだ。  その筈だったが、彼に預けられた積荷、その正体は……。

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

処理中です...