テイルウィンド

双子烏丸

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第十章 Grand Galaxy Grand prix [Action!〕

嵐の遭遇

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 ――――
「…………へくしっ!」
 フウマは軽い、くしゃみをした。
――ううっ、風邪かな? それとも例の、噂話って奴? 今はそんな時じゃないってのに――
 途端、強風が船体を襲い、強く揺れる。
――くっ! ただでさえ重力で重いって言うのに、こんなんじゃ、やってられないよ! いくら近道と言ってもね――


 激しく吹きすさぶ嵐、荒れ狂う海に、響く雷鳴――。
 飛行するのは、フウマ・オイカゼのテイルウィンド。
 これまでにもこんな場所を飛んだ経験は、無いことは無かった。が、それでもこの嵐はこれまで以上のものだった。
 ――さすが、あのG3レースの会場だけあって、楽じゃないか。他のレーサーだって――
 嵐を飛ぶのは、何もテイルウィンドだけでない。
 他にも、この激しい嵐を飛ぶ、何機ものレース機。先ほど多くの機体が耐え切れずに逃げ出したが、それでも幾らかは、相変わらず奮闘を続けている。


 特に、今厄介な機体が一機……、すぐ近くに飛んでいた。
 見た目は箱型で、特徴と言った特徴はない、それに古めかしい機体ではあるが、その動きはそれに似合わず機動力も、加速性能、どれを取ってもテイルウィンドに引けを取らない。
 ――あれは、確かジョセフの、玄武号だったかな。……やるじゃないか――
 フウマと同じく、嵐をものともせずに飛ぶ玄武号。
 何機もの機体とともに先を競うが、特にその機体は僅かに、テイルウィンドの先を行っていた。
 これにフウマは舌打ちする。
 ――あんな旧型の民間機で! ……僕のテイルウィンドよりも先に行くなんて、生意気な!――
 フウマの悪い癖と言うべきか、変な対抗意識を、ジョセフと玄武号相手に燃やす。
 そして、どの道ここで足止めを受ける訳にもいかない上、少しでもリードするため先を急ぐことには変わらない。
 ――ふっ、楽に嵐を、抜けさせはしないよ!――
 彼の瞳は、ディスプレイ上の玄武号へと向かう。

 

 ――――
 嵐の上は、迂回すれば安全だが、その分幾らか遠回りとなる。
 一方で……確かに嵐は危険でもあるが、上を行くよりは近道で、何より……、中に吹き荒れる強い風に乗ることが出来れば、より先へとリードが出来る。
 まぁ、多くの場合は、先に出発していたはずの、何機もの第三陣のレース機体のように、嵐の乱気流へと阻まれる結果となる。
 だがこれでも、一応はG3レースの参加資格を手にしたレーサー達だ。足止めは食らったとしても、リタイヤになるような真似は起こさないはず……。
 ……いや、少し訂正だ。
 たった今、一機の機体が、乱気流へと巻き込まれて制御を失い、強い勢いで海面に叩きつけられた。あの勢いなら、幾ら頑丈に作られている宇宙船だろうと、バラバラではないにしろ大破は免れない。
 ――ふっ、それなりには腕があったとしても、やはりダメな時はダメってことだな――
 玄武号のコックピットで、ジョセフは余裕な大人の表情を見せる。


 
 
 確かに、この嵐は厳しい所があるが、もっと危険な場所をジョセフは、飛んだ経験もある。それに比べれば……大したことはない。
 だが――。
 ――さすが、レーサーの皆さんと言うべきか、なかなかやるじゃない? よくあんな速さで飛べるものだよ――
 それでも、同じく嵐の中を飛行するレース機、その幾らかはそれを物ともせずに、高い速度で飛行を続ける。
 しかし玄武号も負けてはいない。
 この中の機体では、その順位は高い。前にはまだ数機いるが、無理に越す必要も、ないだろう。
 ――最も、頑張っているレーサーも、いるみたいだけどね――
 ディスプレイには、シャトル型のレース機が一機、こちらに向かう様子が分かる。
 ――へぇ? 先を越そうって事? 出来る限りトップに近づきたいとは、レーサーらしい奴と言うか、短絡的と言うべきかな――
 ジョセフはシートにもたれかかるも、面白い様子を見せる。
 その機体は直ぐに玄武号へ接近する。
 そして、あと少しで追い抜けそうだ。
 ……と、恐らく相手は思っただろう。が――
 その寸前、玄武号も高出力の加速をかけ、それを阻んだ!


 ――ははっ! 残念でした! 正直ここまでする必要はないんだが……意外にレースって、やってみて面白いからな。いい機会だから、少し楽しんだって、バチは当たらないだろう?――
 少し性格は悪いのだろうか、ジョセフはあえてそのギリギリのタイミングで、相手のリードを阻んだ。
 彼はクックッと、含み笑いをこぼす。
 見ると、追い越し損ねたシャトル機は、加速を増して追って来ていた。
 ――案の定、こっちに意識が向いたな。まさかこんな挑発に乗るとは、やはりパイロットは若いねぇ? 
 だが、そう来なくちゃ面白くないな。悪いがこっちも、この仕事でストレス溜まっているんだ。こう会ったのも、何かの縁って事で、せいぜいレースをしようじゃないか。
 なぁ……テイルウィンドの、フウマ・オイカゼ――
 機体と、パイロットの詳細については、既に調査済みだ。
 まだ子供ではあるが、レースの腕は中々らしい。今回の件には関係ないものの……レーサーとしてなら、立場は等しい。
 ――ふっ、レーサー云々はちょっと小遣い稼ぎや……調査の一環程度だったが、たまには本気で、腕を振るうのも、悪くはないさ。大人の実力を、たっぷり見せつけようじゃない?――


 
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