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第十章 Grand Galaxy Grand prix [Action!〕
スタートダッシュ!
しおりを挟むレース開始と同時に、一斉に飛び立つ機体。
テイルウィンドもそれに続く。だが……。
スタートダッシュで有利なのは、加速性能が高い機体となる。
飛び立つと同時に、七、八機もの機体がテイルウィンドよりも、先へと越して行く。
ブラッククラッカー、ホワイトムーン、クリムゾンフレイム、そしてワールワインドまでもがが、テイルウィンドを追い抜き、開始早々に差をつけられた。
フウマは少し、悔しげな表情を見せる。
……だが、すぐに落ち着き、操縦に集中する。
――まだまだ、始まったばかりじゃないか。レースはこれからさ――
周囲にはまだ三十機以上のレース機体が見える。
二百近い選手を四つのグループへと分けている、つまり第四陣だけでも、五十機ぐらいの機体が共にスタートしている訳だ。
確かに何機か先を越したが、それでもスタートに遅れたわけではなく、現に第四陣の中においては、順位は現在、高い位置にあると言えた。
――まぁ、一応順調……と言えなくもないか。でも――
フウマはテイルウィンドの操縦に、若干違和感を覚える。
――機体が、あまり安定しないな。エアケルトゥングの時より、大気が濃くて、気流も強いみたいだね。どうりで安定させるのが難しいはずだ――
それはつい先ほど、サファイアのオーシャンポリスに向う際、その空を飛行している際に、若干分かっていた。
サファイアの濃厚な大気と――それほど荒れているわけではないにしろ、強く流れる気流。
そして真下には、球体状で水色の島のようなものが、いくつも浮かぶ。
島と呼ぶには、あまりにもすべすべしていて、かと言って人工物とも思えない。
――うーん、何だろうな? 少し余裕があるから、ちょっと確認でもしようかな? それに、なるべく低い方が、距離を稼げそうだし――
見ると他のレーサーも、なるべく低く飛ぶ者もいる。フウマもそれに倣い、テイルウィンドを降下させた。
海面近くを飛ぶテイルウィンドと、幾つものレース機。
大きさは大小異なるが、例の島は意外に大きく、小さい方でも十数メートル超すテイルウィンドを越す程だ。
島々の間を飛びながら、やはりフウマは不思議に思う。
……やはり何なのか、一体分からない。
フウマは分からず仕舞いで、そろそろ島の集まりを抜けようとした。
ところが――その時、島の幾つかが、動き出したように見えた。そして、次の瞬間、異変が起こった。
突如、海面が嵐のように大きく波打ち、揺れる。
そして――島だと思っていたそれは、巨体を大きく飛び跳ねる。
球体上の身体にはボーリング玉の穴(∵)のような目と口に、小さい尾びれに反して大きめな翼のような両びれで空中に跳ねる。つまりこれは……イルカやクジラに近い、サファイアの巨大水生生物だった。
……きっと、巨体の割には身体は軽いのだろう。
フウマ先に抜けたので問題はなかったが、後続の機体はたまったものではない。
レース機を超えるような巨体が突然、進路上を飛び跳ねる様は、恐怖を通り越した衝撃的な光景だろう。
何も分からないレーサーが乗る機体は、次から次へと恐慌状態に陥り、機体同士の衝突と、水面への墜落、さらには生物にまで衝突して行く。
ただ、生物の身体には驚くほど弾力性があるために、機体は弾かれて海へと落ちる。
これには、見ていただけのフウマもギョッとした。
何らかの生物かもしれないとは、少しだけ予想もしてはいたが、こんな動きをする事なんて、想像にもしなかった。
――うえっ! ……何だよあれ! よくもまぁ――
そんな時に、ジョンからの通信が入る。見るとあの中を抜けて来たのか、スワローが後ろを飛行している様子が見える。
フウマは通信を入れた。
〈やれやれ、やってくれるじゃないかフウマ。バルーンホエールを刺激するなんて〉
モニターに映るジョンは、やや苦笑いして首を振る。
「それはこっちの台詞さ。だって、いきなりあれだもんな」
困り切ったフウマに、ジョンは少し呆れた様子を見せる。
「何だ? 知らなかったんだな。あれは巨体の割には臆病な生物でさ、フウマがすぐ近くを飛ばしたせいで驚いたんだよ。
それに、感覚が鈍いと来ているから、驚いて暴れだすにも時間差がある。
だから、そっちは問題なくても、後から来たレーサー達はバルーンホエールの大暴れに巻き込まれて、たまらないさ。まぁ……向こうも無知だったから自業自得か」
改めて、フウマは後ろの惨状に目を移す。水面には機体の残骸が浮かび、中には再出発しようと試みる機体もある。……だが、ここからだと随分遅れる事になるだろう。
あんなに暴れたバルーンホエールは、まるで何もなかったかのように、海面に浮かんでいる。
……やはり少し苦労しそうだ。改めてフウマは気を引き締めた。
それでも、出先は中々悪くない。
いくらかすれば、先を行く第三陣の一部と合流出来るだろう。
テイルウィンドは多くの機体よりも、先をリードして、青いサファイアの空を飛ぶ。
飛行しながら、フウマは海の色と、空の青とが、見分けがつきにくいくらいに似通った青をしていると、改めて思った。まるで海面上ではなく、地上が確認出来ない程の超高高度の上空を飛行しているかのような錯覚を覚える。
――こんな所も、なかなか珍しいよね。……水面の反射が普通より、良いからかな? 下手すると空と間違えて海にドボン! ……何て事もあり得るかも――
ふと冗談めいた想像が、フウマの頭をよぎった。
しかしこの状況は、今の所、彼には好都合。
シャトル型のテイルウィンドは、大気圏内の飛行に向いている。つまり今が好機と言える。
フウマは前方の機体に追いつくために、速度を上昇させた。
――何にしろ、もう少しリードしておくかな。今ならもう少し距離を稼げそうだから、ね――
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