テイルウィンド

双子烏丸

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第八章 本番へ――

別れの挨拶

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 ようやくフウマが来たところで、改めて全員は彼の前に集まった。
「……さてと、それじゃあフウマ、これから大きいレースがあるんだってな。一緒に行くことは出来ないけど、俺たちも応援しているぜ!」
 キースがそう伝えた次は、ミリィが握手して来た。
「そうそう! ちょっと抜けている所があるけど、レースの腕前は一流なんだから、自信もっていいわよ。きっとフウマなら、優勝だって夢じゃないはずよ!」
 そしてリアンも、こんな事を言う。
「ミリィの言う通り、私だって期待しているんですから、どうか頑張って来て下さい。
 それに――ミオも、レースに行けない私たちの分まで、よろしくね」
「うん、ありがとうリアン。戻って来たらまた話を聞かせるわ」
 ミオはリアンに、嬉しそうに笑いかける。
 G3レースに問わず、他の惑星で開催される宇宙レースを直接観に行くには、それなりに金がかかる。
 しかし今回ミオは、メカニックとしてフウマに付いて行く形で、レースへと行くことになる。レーサーやサポーターには入場料など、免除される事が多い、大きいレースだと特にだ。
 

 それから他のみんなからも、応援の言葉を、色々と貰った。
 そして、ミオの父親、ミハエルとは握手を交わす。
「どうかレースを頑張って来てくれ、フウマ。何しろ私の可愛い娘のために頑張るんだ、きっと君なら大丈夫だ」
 フウマは頷いた。
「……ありがとうございます。まだまだ未熟な僕だけど、少しでもミオに釣り合うように……」
 そう言葉を続けようとしたフウマの身体を、ミハエルは丈夫な腕でハグをする。
「はははっ! フウマはずっと前から、十分に娘に見合う立派な男さ! それに、頑張るのもいいが、無理はするなよ? もはや君一人だけの、身体でないのだからな」
「お父さん……まだそこまでは、早いじゃない」
 愛娘の言葉に、ミハエルは笑って頭をかく。
「……だが、やっぱり早い方がいいだろ? せっかく二人の仲も深まったし」
「そ・れ・で・も! もう……後でちゃんと連絡を入れるから、もういいでしょ? みんなだって変な目で見ているし」
 恥ずかしがりながら怒鳴るミオ、確かに周囲はミハエルの思わせぶりな言葉に、視線が注目していた。
「……ああ、分かった。それじゃあ二人とも、元気でいろよ」
 終わりに彼は、フウマとミオにそう伝えた。


 最後はやはり、フウマの母親だった。
「……母さん」
「ふふっ、私からは今さら、言うことはないわ。いくら規模が大きいからって、レースなのはいつもの事でしょ?」
 母親は愛する息子に、いつもと変わらない優しい言葉をかける。
 応援の言葉も嬉しいが……こうした優しさは、フウマをとても安心させた。
「まぁ、言ってしまえば、そうなんだけど――ね」
「だからいつも通り、やればいいの。……と、言いたい所だけど、やっぱりフウマの事だから、そうはいかないかもしれないけど」
 そして、母親はフウマの頭を撫でる。
「フウマは自分の好きなようにしなさい、もう立派な大人ですもの。きっと…………何があっても、大丈夫だから」
 何があっても、大丈夫――。はっきりした根拠はないけれど、フウマにはそれを、信じて疑うことはなかった。
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