テイルウィンド

双子烏丸

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第八章 本番へ――

星空の下で(1)

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 あれからシロノは、プリンにパフェ、アイスクリームにケーキなど、遠慮ない多くのリクエストを全て叶え、幾つものデザートを全員に振舞った。
 その後はパーティー恒例のプレゼント交換会を兼ねたビンゴ大会、それぞれ包みで中身を隠したプレゼントを持ち寄り、先にビンゴの数が揃った人間からプレゼントを選べる訳だ。
 先にビンゴを揃えたキースが欲を出し、人間大のプレゼントボックスを選んだ所……中には巨大なテディベアが入っていて困惑していたのは、正直笑えた。
 

 パーティーはもう、終わりに近い。
 料理の片づけは全員で手伝い、もう部屋は綺麗に片付いている。
 それからは、希望者はトランプカードでババ抜きをして遊んでいた。後はそれを横で見ているか、勝手に話などしている。
「……ううっ、また俺の負けかよ」
 キースの手元には、残ったババのカード、ジョーカーが手元に残っていた。
 ちなみに彼の後ろには、先程のビンゴ大会の景品、巨大なテディベアがキースを無表情で見下ろしている。……何だか、少し不気味だ。
「ハハハ! 相変わらずキースはトランプが弱いな」
 友人の一人が、そんな風に笑っている。
「もう、うるさいな。今度こそ勝ってやるさ」
「でもキースがそう言った時って、大体、またキースはビリになるのよね」
「言うじゃないかミリィ……見てろよ、泣き面をかかせてやるぜ」
 そんな会話を聞きながら、フウマはトランプカードを切って、全員に配っている所だった。
 しかしそんな時、さっきからババ抜きを眺めていたリッキーが、突然席を外して、どこかへ行こうとした。
「……どこに行くんだ、リッキーの奴?」




 二階のテラスではシロノが一人、星空を眺めていた。
 手元には小型のホログラム装置があり、惑星ギャザーロードを出発する前に撮影した、集合写真の映像が映されていた。
 玄関前に集まった百人近い子供達の中央には、シロノとアイン、そして院長である老婦人の姿がある。残念ながらアインは、科学者としての別の仕事で、最高責任者のクラウディオとともにスリースター・インダストリーの大型船、ブルーホエールにいる。最も、G3レースの開催地で後程、合流する予定だが。
 シロノはそんな集合写真を横目に見ながら、つい笑みがこぼれる。
「……何だ、シロノもここにいたのか?」
 そこに現れたのは、リッキーだった。
「ええ。少しだけ、外の空気を吸いたくてね。それに……」
 シロノはそう話ながら、手元のホログラムに目を移す。
「なるほど、シロノもフウマと同じか。見たところ……何処かの孤児院みたいだな。
 こうして応援してくれる人間が、身近に大勢ってのは、いいものじゃないか」
「……そうですね。私は此処の出身ですから、こうしてレースをしているのも、そこで育ててもらった恩返しもありますからね」
「ほう? まさかそんな理由があったなんてな。気取った奴だからてっきり、目立ちたいためにレースをやってるのかと、俺はおもっていたぜ」
 少し心外そうに、シロノは苦笑いする。
「もうリッキーさん、失礼ですよ。それに、子供だって大好きですからね。……会いに戻った時には、色々とちょっかいされたり苦労しますが、可愛いですもの。
 アーグリム・ハウスの子供達も期待してくれていますから、子供たちのために、それに応えないといけません。……将来、孤児院を出て行った後に、生きていく希望にだって、なりますものね。
 丁度パーティーで、フウマが恋人のミオの為に、レースで優勝してみせると言ったのと同じですよ」


 リッキーはうんうんと頷く。
「誰かのために……か。勿論、俺達のようなレーサーにはあちこちの星に数多くのファンがいて、その応援してくれる人のためにってのもあるが、やっぱり身近な人の為ってのが一番の力になるよな。そうだ、シロノのそれも見せてもらったからな、俺のも見せてやるよ」
 そう言って懐から、一枚の写真を取り出す。
 写真は、リッキーと快活そうな女性、そして二人の間に癖毛の少女と強気そうな少年の二人が、集まって笑顔でピースサインをしている写真だった。
「俺の愛する家族だ。愛妻も、息子と娘も、目に入れても痛くないくらいに大好きさ。俺がレースで頑張っているのは、俺の家族の為だ。みんな応援してくれるし、優勝したら自分の事のように喜んでくれるものな。まさに、父親冥利に尽きるってやつさ!」
 シロノはリッキーの写真を、微笑ましい様子で眺める。
「リッキーさんの大切な人は、自分の家族なのですね」
「ははっ! シロノだって、いつか家庭を持ったら分かるだろうさ」
「家庭……ねぇ」
 その言葉を聞いた途端、ふと、何故かマリンの事が頭に浮かんだ。
「……どうした、シロノ? いきなり顔を赤くして? まさか心当たりがある相手でも、いたりするのか?」
 リッキーの言葉に、シロノは慌てて否定した。
「……いいえ! まさか全然、何でもありませんよ」





 それとほぼ同時期、何十光年も離れたとある惑星では……
「――くしょん!」
 風呂上りの寝間着姿で、小さい四つ足を生やした白毛玉のようなペットと、自室で戯れていたマリンは可愛いクシャミを一つした。
「うーん、風呂上りでちょっと風邪を引いちゃったとかかなー。それとも……誰か噂していたりして! ねぇ、スノゥはどう思う?」
 ベッドでうつ伏せになりながら、マリンは目の前の白毛玉に話かける。
 白毛玉のスノゥは、キョロっとした一つ目を、パチクリさせて「ピー」と鳴く。
「ふふっ、でしょでしょ! きっとシロノが、遠くで私の事を想ってくれているのよ!
 待っていてね、今度こそ貴方を私のものに、してみせるんだから……」
 マリンは人差し指で、ツンツンと白毛玉を突きながら呟く。
 突くとくすぐったそうに、また小さく、「ピー」と鳴いた。
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