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第八章 本番へ――
訓練飛行(2)
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今度は空の上へ、上へと急速に上り、高度計も二千、三千、四千メートル……と瞬く間に、止まることなく数値が変わる。風景さえ、空に浮かぶ雲を、何度も突き抜け青と白と、代わり代わりに変化する景色。
「……ぐっ!」
惑星の重力と、テイルウィンドの加速の負荷が身体にかかり、フウマは苦しげに呻く。
身体から流れる冷や汗で、僅かに服がにじむ。
――急上昇で一気に大気圏離脱、結構きついな。……でも、今回は、この辺りの対策もしないといけないし――
いつの間にか、機体は遥か高度、十五キロメートルにまで到達していた。今や通常の雲が発生する対流圏を通過し、真下に雲海として広がるのみだが、それもすぐに小さくなっていく。
百キロメートルに近くなれば、温度計は-八十度まで下がり、銀色に輝く巻雲に近い夜光雲が見える。空の青も、一層濃くなる。そして更に数百キロメートルにまで上がれば、青の色もより濃く、暗い色へと変わり、分子解離によるオーロラも時々見える。
テイルウィンドの加速も、多少はマシになった。少しは操縦席に押し付けられる力も弱まり、余裕が出てきたフウマは、改めてディスプレイの景色を眺める。
時間はまだ昼間、本来なら地上では見ることのない夜空と星々が、上には広がっていた。そして同時に、下には青空も見える。テイルウィンドは丁度、空と宇宙の境界線上へと
到達した訳だ。
この光景を見たフウマは、思わず口元が緩む。
今更、初めて見る景色ではないが、それでもこの景色は気に入っていた。こうして……地上から宇宙へと上がって来たと言う実感が、一番湧いてくるからだ。
上昇するに従い、重力は更に低くなる。景色の比率も黒が増え、惑星の地平線もより丸みを帯びていく。
そして、テイルウィンドは惑星の大気圏を、完全に脱出した。
フウマは機体を惑星の周回軌道へと乗せ、ブースターを停止させた。後は惑星を一周したのち、地上へ着陸して今回の訓練は終わる。
ここまでの飛行データは、リアルタイムで自動的に、地上へと送られている。今頃はミオが、それを調べて今後の改良に役立てるはずだ。
しかし、今のところは、特に何かする必要はない。軌道に乗ったテイルウィンドは、数十分後にはそのまま星を一周する。
……だが、流石にこのまま本当に何もしないのは、少し退屈だ。
体を固定する操縦席のベルトを、フウマは外した。途端に、無重力のせいで体が宙へと浮く。
壁を伝いながらコックピット内を移動すると、扉の方にまでたどり着き、 開けて別の部屋に移った。
そこは三方向に扉のある狭い部屋で、内一つはさっき入って来た扉だ。向かい側の扉も
同じような扉だが、右手にある三番目の扉は、とりわけ厳重そうな扉で左手にはヘルメット付きの宇宙服が二着かけられている。
上着を脱ぎ、インナーの上から宇宙服を身に着け、フウマはヘルメットを被り厳重な扉――テイルウィンドのエアロックを開けた。
中に入ると扉は勝手に閉じ、気圧は下がり空気が抜けていく。
完全に空気が抜け、外側のエアロックが開くとそこは宇宙空間。ケーブルで壁と宇宙服を繋げ、外へと出ると、スラスターを使用して空間移動しながら、機体の上へと上った。
足底の磁力ブーツは稼働しているため、無重力でも上に立って景色を眺めることが出来る。フウマが眺めているのは、そこから見える、惑星エアケルトゥングの姿だった。
惑星の大半は大陸部が多く、海洋面積は全体の四割、あるかないかである。大陸部も渓谷が多く刻まれているものの、山間部はほぼ無いに等しく、土地は肥沃な部分が多い。他のテラフォーミング化された惑星は、海が多い傾向にあり青い惑星に見えることが多いが、この惑星エアケルトゥングに関して言えば、むしろ緑が目立つ、新緑色の惑星と言えた。
――僕が暮らす、この惑星。それがこうして、僕の前に浮かんでいる――
自分の機体の真上に立つ、フウマの目の前に浮かぶのは、巨大な緑と青、そして白の混ざった球体だ。
――ここから手を伸ばせば……星が掴めるかも――
彼はついそんな空想をしながら、エアケルトゥングに手を伸ばしてみせた。
……が、当然の事ながら、届くわけはない。
――残念。夜空に浮かぶ星よりも、ずっと大きくてはっきり見えるから、上手く行きそうだと思ったんだけどな――
フッと、口元に薄い苦笑いを、フウマは浮かべる。
実際はそんな事、出来るはずないことは分かっていた。しかし、ちょっとだけの遊び心、試したかっただけだった。
目の前の惑星は、ゆっくりと回転している。いや、厳密に言えばテイルウィンドの方が、惑星上を周回しているのだが……。
「……ぐっ!」
惑星の重力と、テイルウィンドの加速の負荷が身体にかかり、フウマは苦しげに呻く。
身体から流れる冷や汗で、僅かに服がにじむ。
――急上昇で一気に大気圏離脱、結構きついな。……でも、今回は、この辺りの対策もしないといけないし――
いつの間にか、機体は遥か高度、十五キロメートルにまで到達していた。今や通常の雲が発生する対流圏を通過し、真下に雲海として広がるのみだが、それもすぐに小さくなっていく。
百キロメートルに近くなれば、温度計は-八十度まで下がり、銀色に輝く巻雲に近い夜光雲が見える。空の青も、一層濃くなる。そして更に数百キロメートルにまで上がれば、青の色もより濃く、暗い色へと変わり、分子解離によるオーロラも時々見える。
テイルウィンドの加速も、多少はマシになった。少しは操縦席に押し付けられる力も弱まり、余裕が出てきたフウマは、改めてディスプレイの景色を眺める。
時間はまだ昼間、本来なら地上では見ることのない夜空と星々が、上には広がっていた。そして同時に、下には青空も見える。テイルウィンドは丁度、空と宇宙の境界線上へと
到達した訳だ。
この光景を見たフウマは、思わず口元が緩む。
今更、初めて見る景色ではないが、それでもこの景色は気に入っていた。こうして……地上から宇宙へと上がって来たと言う実感が、一番湧いてくるからだ。
上昇するに従い、重力は更に低くなる。景色の比率も黒が増え、惑星の地平線もより丸みを帯びていく。
そして、テイルウィンドは惑星の大気圏を、完全に脱出した。
フウマは機体を惑星の周回軌道へと乗せ、ブースターを停止させた。後は惑星を一周したのち、地上へ着陸して今回の訓練は終わる。
ここまでの飛行データは、リアルタイムで自動的に、地上へと送られている。今頃はミオが、それを調べて今後の改良に役立てるはずだ。
しかし、今のところは、特に何かする必要はない。軌道に乗ったテイルウィンドは、数十分後にはそのまま星を一周する。
……だが、流石にこのまま本当に何もしないのは、少し退屈だ。
体を固定する操縦席のベルトを、フウマは外した。途端に、無重力のせいで体が宙へと浮く。
壁を伝いながらコックピット内を移動すると、扉の方にまでたどり着き、 開けて別の部屋に移った。
そこは三方向に扉のある狭い部屋で、内一つはさっき入って来た扉だ。向かい側の扉も
同じような扉だが、右手にある三番目の扉は、とりわけ厳重そうな扉で左手にはヘルメット付きの宇宙服が二着かけられている。
上着を脱ぎ、インナーの上から宇宙服を身に着け、フウマはヘルメットを被り厳重な扉――テイルウィンドのエアロックを開けた。
中に入ると扉は勝手に閉じ、気圧は下がり空気が抜けていく。
完全に空気が抜け、外側のエアロックが開くとそこは宇宙空間。ケーブルで壁と宇宙服を繋げ、外へと出ると、スラスターを使用して空間移動しながら、機体の上へと上った。
足底の磁力ブーツは稼働しているため、無重力でも上に立って景色を眺めることが出来る。フウマが眺めているのは、そこから見える、惑星エアケルトゥングの姿だった。
惑星の大半は大陸部が多く、海洋面積は全体の四割、あるかないかである。大陸部も渓谷が多く刻まれているものの、山間部はほぼ無いに等しく、土地は肥沃な部分が多い。他のテラフォーミング化された惑星は、海が多い傾向にあり青い惑星に見えることが多いが、この惑星エアケルトゥングに関して言えば、むしろ緑が目立つ、新緑色の惑星と言えた。
――僕が暮らす、この惑星。それがこうして、僕の前に浮かんでいる――
自分の機体の真上に立つ、フウマの目の前に浮かぶのは、巨大な緑と青、そして白の混ざった球体だ。
――ここから手を伸ばせば……星が掴めるかも――
彼はついそんな空想をしながら、エアケルトゥングに手を伸ばしてみせた。
……が、当然の事ながら、届くわけはない。
――残念。夜空に浮かぶ星よりも、ずっと大きくてはっきり見えるから、上手く行きそうだと思ったんだけどな――
フッと、口元に薄い苦笑いを、フウマは浮かべる。
実際はそんな事、出来るはずないことは分かっていた。しかし、ちょっとだけの遊び心、試したかっただけだった。
目の前の惑星は、ゆっくりと回転している。いや、厳密に言えばテイルウィンドの方が、惑星上を周回しているのだが……。
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