テイルウィンド

双子烏丸

文字の大きさ
上 下
79 / 204
第七章 反省会

―進展―(3)

しおりを挟む
「えっ!?」
 真っすぐ自分を見つめるフウマの瞳、ここまで真剣なのは、初めてかもしれない。
「ミオは僕を、ただの幼馴染か、友達か、どう思っているか知らないさ。けど……僕は、君が誰よりも大切で、大好きなんだ!」
「……大好き? フウマが……私を?」
「こんなに子供っぽくて、ミオに助けられっぱなしで……レースしか能がないような情けない僕だけど、これからは僕だって昔のように、君から頼りにされるように頑張ってみせる。だから……だから……」
 ここまで一気に言い放ったフウマは、この後に続ける言葉を必死に考えるように下を向く。
 そして、顔を上げて告白する。
「どうか――僕の恋人になってくれ」
 告白は男らしく決めようとした。


「…………たら、とても嬉しい……かな」
 しかし告白した瞬間、衝動によってさっきまで感覚麻痺になっていた、緊張が襲う。そのせいで最後は、つい弱気に、俯いて小声でそんな事を呟いてしまった。
 途端にフウマは我に返り、羞恥さですぐ目の前のミオから顔を反らした。そして無理な空笑いで、何とか誤魔化そうとする。
「あ、あはは……、何か変な事を、言ってゴメン。僕の言った事は……うん、やっぱり忘れてくれないか」
 そんな彼に、ミオは優しく声をかける。
「フウマ、顔を私に向けてもらえないかしら」
「そんな……あんな事言った後じゃ、恥ずかしくて……」
「大丈夫だから、お願い。少しだけでいいから」
 ミオから強く言われて、フウマは折れた。ゆっくりとミオに向けたその顔は、余程恥ずかしかったのか顔を真っ赤に、両目に涙を溜めて半泣きしていた。どうりで、顔を見せたくないわけだ。
「ううっ、あまり見ないでよ……」
 そんなフウマに、ミオはニコッと笑う。そして――




 フウマの額に、柔らかいものが当たった。
 それがミオの唇であることに、一瞬理解が追いつかず、彼がそれに気づくのは、少し遅れた。
 しかし気づいた後も……あまりに突然で、衝撃的だったせいで、しばらく固まっていた。
 唇を離し、ミオはフウマを見つめる。
 ようやく正気を取り戻したのは、それから7、8秒後。何とかフウマは慎重に、言葉を選ぶように口を開いて、こうたずねた。
「どう言う……事。……まさか」
 ミオは頷く。
「本当は、私から告白しようと思っていたの。一週間前に空中帆船で話していた時も、さっき会場にいた時も、フウマに話したかったんだけど……タイミングが悪くて。
 あーあ、先を越されちゃって、ちょっと残念。でも――それ以上にとても嬉しいの! フウマが私を、そこまで思ってくれていたなんて! ふふっ……両想いね、私たち」  
 窓に映る宇宙を背景にして、微笑む彼女。その姿は、普段よりも、ずっと綺麗だった。
「なら、僕たちは――」
 しかしフウマの言葉を、ミオは遮る。


「でも今はダメ。だって、まだ大事なレースが一つ、残っているでしょ」
 彼女は諭すように続けた。
「別に、優勝出来なくったっていいの。ただ、後悔しないように、全力を出すことが出来たら……。
 私がフウマの恋人になるのは、その後。さっきは額にだったけど、レースが終わったら、ちゃんとここに、キスしてあげるからね」
 ミオはそう言って人差し指を、フウマの口元に当てて、ニコッとする。
 そんな仕草に、フウマはドキドキした。……が、その気持ちを何とか抑えると、いつものように、自信たっぷりに笑ってみせた。
「ふっ! 言われなくても当然、全力で挑むさ! それに、ミオは優勝なんて出来なくてもいいって言ったけど僕は必ず……優勝する。
 シロノにも、ジンジャーブレッドにも、他の誰にも、このレースだけは譲れない」
 真っすぐフウマは、自分の愛した相手を見据える。
「今までは自分が好きでレースをしていた。けど今度は――ミオのためにレースを行う。僕を好きでいてくれた……君のために、勝利してみせる!」
 これは自分の気持ちに応えてくれた、彼女に対する初めての誓いだった。
 照れながらも、やはりミオは幸せそうにしている。
「ふふっ、ありがとう。今のフウマ、とても格好良かったよ。
 私もいつも以上にフウマを応援するわ、だから、レースでもあまり無理しないくらいで、頑張って来てね。きっとフウマなら、優勝だって夢じゃないから」
 いつものように優しく、自分を信頼してくれるミオ。でも、フウマにとってはいつもより、とても嬉しく、つい顔がほころんだ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

逆算方程式

双子烏丸
SF
 星から星を渡り歩き、依頼された積荷を運ぶ、フローライト・カンパニーの社員ライゼル。  この依頼も、いつもと同じく,指定された星へと積荷を運ぶ、ただそれだけだ。  その筈だったが、彼に預けられた積荷、その正体は……。

ワイルド・ソルジャー

アサシン工房
SF
時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。 世界は荒廃し、辺りは無法者で溢れかえっていた。 主人公のマティアス・マッカーサーは、かつては裕福な家庭で育ったが、戦争に巻き込まれて両親と弟を失い、その後傭兵となって生きてきた。 旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。 ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。 世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。 他の小説サイトにも投稿しています。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

投稿インセンティブで月額23万円を稼いだ方法。

克全
エッセイ・ノンフィクション
「カクヨム」にも投稿しています。

処理中です...