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第五章 深紅の炎
雑談と解説
しおりを挟む会場では相も変わらず。レース映像の放送と、レイとリオンドの実況が行われていた。
つい先ほどなど、ジンジャーブレッドとクリムゾンフレイムの一騎打ちが放送され、大いに盛り上がっていた。
「……凄いね、本当にフウマの言っていた通りだよ。一流のレーサーが多く集まっているはずなのに、ジンジャーブレッドはずっと首位で、大差でリードし続けているんだから。乗っている機体だって、私にも全然分からない技術だもの」
もともと彼女は機械技術に興味があり、これもミオがメカニックをしている理由の一つだった。
そのため、ある程度の機械類について詳しかった。しかし、そんな彼女でもブラッククラッカーについては、よく分からないらしい。
「へぇ、機械の類でミオが分からないなんて言うなんて、珍しいね」
「ふふっ、少し恥ずかしいけど……。ああして、企業が開発した最新技術なんて、表に出ないものも多いから。でも、あんな風に飛ぶことが出来るなんて……。そう言えば、前にフウマに見せてもらった、現役の頃のジンジャーブレッドの飛び方と……似ている気もするわ」
フウマはミオに同意した。
「そうそう。新しい機体はともかく、ジンジャーブレッドの腕は、昔と変わらないさ。鳥や魚を思わせる、まるで生き物のような飛び方も……」
「……普通の操縦系統なら、機体のスラスターやブースターに、制御系にセンサー、各種システムを自分の手足や目のように、あそこまで効率的に使いこなしたような飛行は、出来ないもの。
何か別の、操縦システムを使っているのかしら? フウマはテイルウィンドで、あんな風に飛べる?」
実際、ジンジャーブレッドの乗る機体、ブラッククラッカーの動きは、普通の手動操作では不可能に近い。
けれどもフウマは、幾らか見栄を張って言う。
「それはもちろん、僕とテイルウィンドなら当然さ!」
「フフッ、もうフウマってば……。いくら何でもあれは難しすぎるわ」
もちろん、フウマと長い付き合いのミオには、彼のそんな様子は分かっていた。
「でも、多少頑張れば、僕だって。……まぁ、あれに近い動きくらいは、何とかしてみせるさ……」
つい自分の腕が疑われているかと思い、フウマは少し拗ねた。
そして、ミオもこれに気づいたようだ。
「ごめんごめん、そんな気はなかったの。私が言いたかったのは、パイロットの問題ではなくて、機体の方なのよ。多分、フウマも分かっているでしょ?」
「……ああ、少しはね」
何か心当たりがあるらしく、フウマは頭を抱える。
「そもそも操作系統のソフトウェアもそうだけど、あんな動きをするなら、機体構造や各部姿勢制御スラスターの位置と数なんかの、ハードウェアの問題だってかなり大きいのよ。
航空機に近い船体で、そこまでスラスター数も多くないテイルウィンドには、色々と無理があって当然なの」
ミオは続ける。
「フウマならきっと、今みたいな機体の点を踏まえて、操縦技術でそれを補ってジンジャーブレッドに近い動きは、出来ると信じているわ。
でも、あんな動きをする事を全く考慮に入れていないテイルウィンドで、もしそんな無理なんてしたら、それこそ船体のあちこちに負担がかかるわね。空中分解とまでは行かないけど、レース中に機体不調になんて陥ったら、たまらないでしょ?」
「ううっ……まぁ、もちろんそれは、僕も知っているさ。何しろ自分が乗る機体の事だからね。
でも、やっぱりあんなの見せられたら、レーサーとして憧れるじゃないか。それに、機体の性能で足りない部分は、操縦者の腕で補うものだろ?」
「けど……ブラッククラッカーは飛行の効率化と柔軟さ、機動力は突出しているだけで、最高速度はシロノのホワイトムーンの方がまだ高いはずよ。
機体はそれぞれ、ゲルベルト重工とスリースターインダストリーの最新鋭機。でも普通に考えれば、開発しているブースターなど出力系統の性能は、スリースターインダストリーの方が高いからね。
ねっ? シロノといい勝負が出来たんだから、ジンジャーブレッドとだって相手に出来るわ。
フウマの気持ちも分かるけど、テイルウィンドはブラッククラッカーと違って、むしろマリンのクリムゾンフレイムのように、加速重視型の機体なのよ。もちろん飛び方を参考にするのはいいけど、機体とパイロットにはそれぞれ合った相性があることを忘れないでね?」
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