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第二章 ティーブレイク・タイム
レクリエーション・タイム(3)
しおりを挟む峡谷内部の強い風の流れは、今や広範囲に広がっている。
谷の幅は扇形に次第に広がり、下には森が繁っていた。所々で森に生息している、鳥や小動物などの鳴き声が聞こえる。
そして森に生える、遥かに高い大木のせいで、気流は阻害され、分岐していた。互いの姿さえも、木々に阻まれて時々見えなくなる。
気流に乗りながらも、大木に衝突しないように左右に旋回しながら飛ぶ。
その度に三人の位置は絶えず変化するが、それでも前を飛ぶキースとミリィに対し、後ろのフウマとの距離はなかなか縮まらない。
基本、ウィンドボードの速度は気流によって左右され、状況によって変化する風をどう乗りこなせるかによって、速度は速くも遅くもなり得る。
今のような状況では、気流などの外部環境が共通しているのは勿論の事、技量も互いに同等であるために、その差は固定したままだった。
「ちっ! ちっとも追いつきもしない! 言いたくはないけど二人とも、腕を上げたのは本当らしいね」
フウマの呟きに対し、ミリィから小生意気な返事が返って来る。
「あら、フウマにしては珍しいじゃない? 雨でも降るんじゃないかしら?」
確かに、フウマがしばらくウィンドボードしていない間に、二人の腕は上達している。
つい先ほどキースとミリィに追いついてからと言うものの、それからはなかなかその差は縮まらない。
どうやら二人は、フウマに追いつかれるまでは本気を出していなかったらしい。その本気の実力はフウマとほぼ同じ。さっきの鳥の群れみたいなハプニングや、向こうが何らかのミスをしない限りは、追い越すのは難しい。
「まぁ、仕方ない。これも特訓の成果ってやつさ。特にミリィなんてああ見えて負けず嫌いだからな。俺よりも頑張ってたぜ」
「余計な事言わないでよね、キース。でも、今回は私の勝ちね。これがちゃんとした試合じゃないのが、ちょっと残念だけど」
目の前には峡谷の終わりがあり、その間からは新緑の生い茂る草原が見えた。
「ほら、もうゴールが見えて来た。案外、楽勝だったわね」
「さてと…………それはどうかな?」
ミリィの言葉に対し、フウマは口元に笑みを浮かべた。
そして何を思ったのか、頭のヘルメットを外すと、それを後ろに放り捨てた。
これを見たミリィは、思わず大笑いする。
「プププッ! 往生際が悪いわよ。幾らヘルメットを捨てて重量を軽くしたって言っても、たったそれだけじゃ足りないわ。フウマだったら、それくらい分かっているはずなのに」
そう笑っていると、大きな羽音とともにフウマのすぐ後ろから、無数の鳥が群れを成して飛び立った。
大きな群れは一斉に森から飛ぶ様は、さながらそれが一つの巨大な生物であるようだ。
多くの鳥の羽ばたきで生じた風を受け、彼が乗るボードは速度を増す。
キースは振り返り、後ろの様子を見て感心していた。
「まさか、そんな事を思いつくなんて…………って、げっ!」
だがそれに気を取られていたせいで、キースは前から接近する大木に気づかなかった。
気づいた時には既に遅く、正面から木に激突、ボードごと森に墜落した。
「全くキースってば、後ろに気を取られているから」
そんな彼の様子に、ミリィは呆れたかのように呟く。
フウマの乗るボードは速さを増し、次第に彼女へと接近する。
あと少しで峡谷を抜ける。しかし、あの速度ではその前に追い抜かれそう……。
そうミリィが考えていた矢先、横からフウマが追い抜いていった。
「どうだい! 僕にかかればこんな物さ!」
フウマは上機嫌な様子で、先頭を飛んで行く。
「ううっ……、また私の負けって訳ね。今度こそフウマに勝てると思ったのに」
追い抜かれたミリィは、悔しそうに呟く。
しかし、次の瞬間、更に横を追い抜いて来た物を見てギョッとした。
「ちょっとフウマ! 後ろ!」
「ははっ! キースの奴じゃあるまいし、そんな手には乗らないね」
「違うってば! 本当に危ないんだって!」
「だから、危ないって一体……」
しつこくミリィに言われ、嫌々ながらもフウマは、後ろ振り返った。
そして見たのは、さっきの鳥の群れが、真っすぐに自分の方へと向かって来る光景だった。
「えっ…………嘘だろ?」
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