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思惑と正義
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「うん。君の言うことは概ね当たっていると言ってもいい。概ねね! だけど、いただけないのが私のこの行為を拷問と称したところ。これはいただけない! 私はね、そんーな醜い私利私欲を満たすためにこんなことをしたわけではないんだ。
私の活動は、私の本心から獣人を助けたいという気持ちの元行っているものなのだよ? だって、私たちの主張を聞かせるには確かな証拠が必要だ。この国が行っていることがいかに非人道的かを知らしめる必要があるんだよ。
でも、獣人が連れ去られて実際何をされているか分からない。見えないようにしているんだ。見たくないものを見ないために、見せないために必死に隠してる。
見えないのなら作り上げて明らかにすればいい。こいつらはこんなことをしているんだってね? あぁ、君が言いたいことは分かる。ここまでのことを本当にやってるのかも分からないのに、こんなことをするなんて最低だ、と言ったところだろう?
確かにそうかもしれない。だけど、ここまでしないと分からない奴らばっかりなんだ! 皆そうだった! もしこんなひどいことをしていないとしても、殺されるだけでも可哀そうだろう? でもみんなは、国を守る兵士たちの強化のためには致し方ないと思っている。
そうやって自分たちが残酷な行為の上でのうのうと生きていることを正当化して生きている! 蓋をしてるんだ。ぐつぐつぐつぐつ、残酷な鍋で煮込まれた幸せの根源からね?
おかしい! 醜い! あさましい!
私は何度も主張したんだ。何度も言い聞かせたんだ! だけど……、だけど聞く耳を持たなかった。
だから待ったんだ! この地下に何らかの方法でたどり着き、この現場を発見し国に対して不信感を抱く者が表れることを……! けど、やってきたのは獣人の子供。
これでは、私以上にペテンだと言われるのがおちだ。嘆かわしい。残念ながら君も証拠になってもらわなければならない。大丈夫、私は君のことを無駄にしないしっかりこれからの獣人の権利のための礎になってもらうからね?」
男は平和賞でも片手に持っているような、多幸感と自信に満ちた身振り手振りで忙しくなく動きながら、語りつくした。この人は自分をいかに尊大で正しいように見せるのかを熟知しているのだろう。
「あなたも同じでしょう。自分のやってることを理念を盾に正当化してる」
「何?」
「まぁ、何でもいいです。私はあなたを見てるとムカつくので、ぶっ殺します」
ムイは別段言い訳をするわけでもなく、すぐさま男の額めがけて銃口を向け、なんの躊躇いもなく引き金を引こうとしたのだが、何かが引っかかったような感覚がして引けなかった。
銃が故障したのか、私には銃に関する知識がないからわからなかった。強引に引き金を引こうと指に力を込める。しかし引けない。
「クックック。それは子供が扱うものじゃないですよ」
この男はとことんまで私を見下していた。その笑みも、態度も、何もかもが私の心臓をチクチクと刺激し、はち切れそうな程にフラストレーションが昂まる。
冷静さを欠いた。一瞬呼吸さえ忘れて、知性や理性の鎧を脱ぎ捨ててしまった。
私は昂った感情を拳に乗せて、まっすぐ、ただまっすぐ叩き込む。空っぽの感触。いや、当たらなかった。
ただの愚直な拳など、当たるわけがない。空を突き破る空っぽな感触に、目覚めさせられる。
拳が目前に迫っていた。視界が殺意のこもった拳に潰される。躱すことも、防ぐことも叶わない。ぴしゃりと強い衝撃。だけど、さっきのカイライよりは弱い。
多少ふらつきはしたが、私はすぐに臨戦態勢に戻れた。背後に跳んで距離をとる。男はいつの間にか大きな鎌を片手に持っていて、先ほどまでの優しい笑みと打って変わって、この戯れを心底から楽しむような強烈な笑みだった。
カチ、カチ、と引き金を引いてみようと試みるが、やはり引ききれない。なんで? いや、間違いなく魔術だ。
でももしそうなら、必ず距離をとればいつか魔術の射程から外れることができるはず!
そう思い背後にちらりと目を見やると、壁に何やら線が描かれていたことに気が付く。あれは元々あったのだろうか? さっきまで暗かったせいで分からない。
だけど、確実に何かある!
そう思った私は急いでその線の方に向かった。レンも私が奇妙な線の方に向かっていることに勘づいたのか、血相を変えて追いかけてくる。やはり何かある。そう確信した瞬間、その線の位置がぐんと高くなった。
レンが走ってくるのに比例して高さが変わった。
……なんとなく分かった。これはレンを中心に広げられた領域を展開する魔術。その領域内では武器が使えなくなるみたいな感じだろう。
いや、でもだとしたら鎌を持った理由が分からない。銃だけに限定した?
「ふん!」
私がレンの魔術について考察をしていると背後から大ぶりの鎌が、弧を描きながら私を貫かんと振られる。反射的に膝を曲げ回避する。髪の毛が数本切れて地面に落ちてしまう。
しかし、鎌が壁にぶつかっても壁はひび割れることはなく、この男自身に大した力がないことが分かった。
そんなことはどうでもいい。問題は領域内でも武器が使えていること……。ここまでのことを考えると、たぶん、領域内にいる自分以外の対象に、ルールを強制する魔術……。かなり強い術式だ。
だが、隙があるのだとしたら、領域がそこまで広くないというところ……。
私の予想は的中していた。私が全力で踏み込み、一気にその脇腹の下をかいくぐり、領域の外に出た瞬間、引き金を引けるようになった。私の得意分野である近接戦闘ができないのは痛いが、この銃なら問題なくレンを倒すことができる。
私はいつもより少しだけ重く感じた引き金を引いた―――。
私の活動は、私の本心から獣人を助けたいという気持ちの元行っているものなのだよ? だって、私たちの主張を聞かせるには確かな証拠が必要だ。この国が行っていることがいかに非人道的かを知らしめる必要があるんだよ。
でも、獣人が連れ去られて実際何をされているか分からない。見えないようにしているんだ。見たくないものを見ないために、見せないために必死に隠してる。
見えないのなら作り上げて明らかにすればいい。こいつらはこんなことをしているんだってね? あぁ、君が言いたいことは分かる。ここまでのことを本当にやってるのかも分からないのに、こんなことをするなんて最低だ、と言ったところだろう?
確かにそうかもしれない。だけど、ここまでしないと分からない奴らばっかりなんだ! 皆そうだった! もしこんなひどいことをしていないとしても、殺されるだけでも可哀そうだろう? でもみんなは、国を守る兵士たちの強化のためには致し方ないと思っている。
そうやって自分たちが残酷な行為の上でのうのうと生きていることを正当化して生きている! 蓋をしてるんだ。ぐつぐつぐつぐつ、残酷な鍋で煮込まれた幸せの根源からね?
おかしい! 醜い! あさましい!
私は何度も主張したんだ。何度も言い聞かせたんだ! だけど……、だけど聞く耳を持たなかった。
だから待ったんだ! この地下に何らかの方法でたどり着き、この現場を発見し国に対して不信感を抱く者が表れることを……! けど、やってきたのは獣人の子供。
これでは、私以上にペテンだと言われるのがおちだ。嘆かわしい。残念ながら君も証拠になってもらわなければならない。大丈夫、私は君のことを無駄にしないしっかりこれからの獣人の権利のための礎になってもらうからね?」
男は平和賞でも片手に持っているような、多幸感と自信に満ちた身振り手振りで忙しくなく動きながら、語りつくした。この人は自分をいかに尊大で正しいように見せるのかを熟知しているのだろう。
「あなたも同じでしょう。自分のやってることを理念を盾に正当化してる」
「何?」
「まぁ、何でもいいです。私はあなたを見てるとムカつくので、ぶっ殺します」
ムイは別段言い訳をするわけでもなく、すぐさま男の額めがけて銃口を向け、なんの躊躇いもなく引き金を引こうとしたのだが、何かが引っかかったような感覚がして引けなかった。
銃が故障したのか、私には銃に関する知識がないからわからなかった。強引に引き金を引こうと指に力を込める。しかし引けない。
「クックック。それは子供が扱うものじゃないですよ」
この男はとことんまで私を見下していた。その笑みも、態度も、何もかもが私の心臓をチクチクと刺激し、はち切れそうな程にフラストレーションが昂まる。
冷静さを欠いた。一瞬呼吸さえ忘れて、知性や理性の鎧を脱ぎ捨ててしまった。
私は昂った感情を拳に乗せて、まっすぐ、ただまっすぐ叩き込む。空っぽの感触。いや、当たらなかった。
ただの愚直な拳など、当たるわけがない。空を突き破る空っぽな感触に、目覚めさせられる。
拳が目前に迫っていた。視界が殺意のこもった拳に潰される。躱すことも、防ぐことも叶わない。ぴしゃりと強い衝撃。だけど、さっきのカイライよりは弱い。
多少ふらつきはしたが、私はすぐに臨戦態勢に戻れた。背後に跳んで距離をとる。男はいつの間にか大きな鎌を片手に持っていて、先ほどまでの優しい笑みと打って変わって、この戯れを心底から楽しむような強烈な笑みだった。
カチ、カチ、と引き金を引いてみようと試みるが、やはり引ききれない。なんで? いや、間違いなく魔術だ。
でももしそうなら、必ず距離をとればいつか魔術の射程から外れることができるはず!
そう思い背後にちらりと目を見やると、壁に何やら線が描かれていたことに気が付く。あれは元々あったのだろうか? さっきまで暗かったせいで分からない。
だけど、確実に何かある!
そう思った私は急いでその線の方に向かった。レンも私が奇妙な線の方に向かっていることに勘づいたのか、血相を変えて追いかけてくる。やはり何かある。そう確信した瞬間、その線の位置がぐんと高くなった。
レンが走ってくるのに比例して高さが変わった。
……なんとなく分かった。これはレンを中心に広げられた領域を展開する魔術。その領域内では武器が使えなくなるみたいな感じだろう。
いや、でもだとしたら鎌を持った理由が分からない。銃だけに限定した?
「ふん!」
私がレンの魔術について考察をしていると背後から大ぶりの鎌が、弧を描きながら私を貫かんと振られる。反射的に膝を曲げ回避する。髪の毛が数本切れて地面に落ちてしまう。
しかし、鎌が壁にぶつかっても壁はひび割れることはなく、この男自身に大した力がないことが分かった。
そんなことはどうでもいい。問題は領域内でも武器が使えていること……。ここまでのことを考えると、たぶん、領域内にいる自分以外の対象に、ルールを強制する魔術……。かなり強い術式だ。
だが、隙があるのだとしたら、領域がそこまで広くないというところ……。
私の予想は的中していた。私が全力で踏み込み、一気にその脇腹の下をかいくぐり、領域の外に出た瞬間、引き金を引けるようになった。私の得意分野である近接戦闘ができないのは痛いが、この銃なら問題なくレンを倒すことができる。
私はいつもより少しだけ重く感じた引き金を引いた―――。
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