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第5章
その後のお話
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「こんにちは!」
私が再びカフェ・ロビンソンを訪れたのはマリさんが謎を解決してくれた日から1ヵ月ほどたった昼下がりだった。
入口のドアを開けて挨拶するとマリさんがにっこり笑いかけてくれる。
「こんにちは、島田さん」
「あ、島田さん。いらっしゃいませ!」
「お久しぶりです、島田さん」
マリさんに続いて柊真くん、花梨ちゃんが笑顔を向けてくれるのが嬉しい。
「早くお礼を言いに来たかったんですけど、あれから同じ部署の子が寿退職しちゃって。バタバタしてました」
「あら。そんな、いいのに。それにお礼なら、あの日何度も言って下さったじゃないですか」
「言い足りなくて」
柊真君が私のセリフにふき出す。
「島田さん、律儀ですね! お礼を言い足りないって。俺もあの日すごい沢山感謝の言葉を聞きましたよ」
それから、安心して下さい、と付け加える。
「あれからマリさんも小説の締め切りでバッタバタで。今日、久々に朝から店にいるんです。タイミングが良かったですね」
「柊真君、うるさい。余計な事は言わなくてよろしい」
「今度こそ、危なかったですね。なんでいつもそんなに綱渡りみたいな締め切りの守り方するんですか」
耳に手を当てて柊真君の声をシャットアウトするマリさんは、この間の謎解きの雰囲気とはまた違って、チャーミングだ。
花梨ちゃんが「島田さん、今日はどこにされますか?」と聞いてくれて、私はロビンソンに初めて来た時の窓際の外が見渡せる席にした。
おしぼりで手を拭き、私は皆に報告した。
「皆さんのおかげで無事、誤解が解けて。宇都さんが謝ってくれました。疑って、迷惑かけて本当に申し訳なかったと」
「そうですか。良かった」
「あれから宇都さんも杏里ちゃんと話し合ったみたいで。結果どうなったかまでは聞いてないですけど、杏里ちゃんもお父さんとお母さんに我慢していた胸の内を打ち明けられたみたいです」
「いい具合に、話がまとまるといいなぁと思うけど。やっぱり杏里ちゃんの望む通りには……少し難しいでしょうね」
「でも、前進する為の1歩にはなったんじゃないでしょうか」
杏里ちゃんの事を案じる柊真君に対し、花梨ちゃんが前向きな言葉をかける。
「前進する為の1歩。本当に花梨ちゃんの言うとおりね。子供だって、大人だって恋をする。どういう形であれ、それぞれがそれぞれを思い合って幸せの形を見つけられるといいわね」
「私もそう思います」
自分の幸せを祈る様に、誰かの幸せを祈りたい。それが出来る自分でありたい。
「なんだか私も犬が飼いたくなりました」
「わぁ! いいですね。毎日がもっと楽しくなりそう」
転んで、傷ついて、間違って、失敗して、泣きそうになりながら、でもやっぱり許し合って。
「そういえば胃が全快したんですよ」
「本当ですか? それじゃあ、今度こそ、試してみます?」
マリさんが優しげに目を細める。
私はここに来る前から決めていた注文を口にする。
「ロビンソンスペシャルブレンドを下さい」
「かしこまりました」
誰かの為に。自分の為に。明日の為に。1度しかやって来ない今日の為に。
私は私を抱きしめる。
精一杯、抱きしめる。
私が再びカフェ・ロビンソンを訪れたのはマリさんが謎を解決してくれた日から1ヵ月ほどたった昼下がりだった。
入口のドアを開けて挨拶するとマリさんがにっこり笑いかけてくれる。
「こんにちは、島田さん」
「あ、島田さん。いらっしゃいませ!」
「お久しぶりです、島田さん」
マリさんに続いて柊真くん、花梨ちゃんが笑顔を向けてくれるのが嬉しい。
「早くお礼を言いに来たかったんですけど、あれから同じ部署の子が寿退職しちゃって。バタバタしてました」
「あら。そんな、いいのに。それにお礼なら、あの日何度も言って下さったじゃないですか」
「言い足りなくて」
柊真君が私のセリフにふき出す。
「島田さん、律儀ですね! お礼を言い足りないって。俺もあの日すごい沢山感謝の言葉を聞きましたよ」
それから、安心して下さい、と付け加える。
「あれからマリさんも小説の締め切りでバッタバタで。今日、久々に朝から店にいるんです。タイミングが良かったですね」
「柊真君、うるさい。余計な事は言わなくてよろしい」
「今度こそ、危なかったですね。なんでいつもそんなに綱渡りみたいな締め切りの守り方するんですか」
耳に手を当てて柊真君の声をシャットアウトするマリさんは、この間の謎解きの雰囲気とはまた違って、チャーミングだ。
花梨ちゃんが「島田さん、今日はどこにされますか?」と聞いてくれて、私はロビンソンに初めて来た時の窓際の外が見渡せる席にした。
おしぼりで手を拭き、私は皆に報告した。
「皆さんのおかげで無事、誤解が解けて。宇都さんが謝ってくれました。疑って、迷惑かけて本当に申し訳なかったと」
「そうですか。良かった」
「あれから宇都さんも杏里ちゃんと話し合ったみたいで。結果どうなったかまでは聞いてないですけど、杏里ちゃんもお父さんとお母さんに我慢していた胸の内を打ち明けられたみたいです」
「いい具合に、話がまとまるといいなぁと思うけど。やっぱり杏里ちゃんの望む通りには……少し難しいでしょうね」
「でも、前進する為の1歩にはなったんじゃないでしょうか」
杏里ちゃんの事を案じる柊真君に対し、花梨ちゃんが前向きな言葉をかける。
「前進する為の1歩。本当に花梨ちゃんの言うとおりね。子供だって、大人だって恋をする。どういう形であれ、それぞれがそれぞれを思い合って幸せの形を見つけられるといいわね」
「私もそう思います」
自分の幸せを祈る様に、誰かの幸せを祈りたい。それが出来る自分でありたい。
「なんだか私も犬が飼いたくなりました」
「わぁ! いいですね。毎日がもっと楽しくなりそう」
転んで、傷ついて、間違って、失敗して、泣きそうになりながら、でもやっぱり許し合って。
「そういえば胃が全快したんですよ」
「本当ですか? それじゃあ、今度こそ、試してみます?」
マリさんが優しげに目を細める。
私はここに来る前から決めていた注文を口にする。
「ロビンソンスペシャルブレンドを下さい」
「かしこまりました」
誰かの為に。自分の為に。明日の為に。1度しかやって来ない今日の為に。
私は私を抱きしめる。
精一杯、抱きしめる。
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