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第5章
犬の気持ち
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「島田さんにお聞きします。チロルを預かった時、お散歩には連れて行きましたか」
「連れて行きました」
私は思い出しながら答えた。
「15分から20分程度だったと思います。近所をぐるりと1周しました」
「チロルはその時は歩いたんですね」
「はい。歩いてくれました」
「その時、途中で動かなくなるなんて事もなく?」
「お肉屋さんの前で少し歩みが遅くなりましたけど、動かなくなるという程では……。終始、いい子でした」
「チロルは島田さんが預かった直後、歩かなくなった。けれど、話を聞くとこうも言い換えられます。島田さんが預かって、宇都さんの家に戻った直後お散歩に行かなくなった」
「どういう意味ですか?」
宇都さんが凄む。
「私の所為だとでも? チロルは島田さんに預けるまで、喜んでお散歩に行く子だったんです。きっと島田さん、何かしたに決まっているわ。何か、チロルが嫌がる事を……」
「私はまだ、どちらの所為だとも言っていません。……ここで、確認です。宇都さんは正社員からパート勤務になられたそうですね」
突然の話題の転換に宇都さんが面食らった顔をした。
「え? ……はい。本当は退職する気でしたが、会社に引き止められて。今はパート勤務で働いています。けれど、それが何か?」
訝しがる宇都さんにマリさんは再度確認する。
「私はこういうカフェで働いているから分からないんですけど、正社員とパート勤務だと宇都さんの会社では勤務時間は異なるんですか?」
「まぁ……。そうですね。やっぱり正社員はフルタイム+残業がありますけどパートだと朝少し遅く出勤して、正社員の方達よりは先に帰ります」
「ちなみにパート勤務になられたのはいつからですか?」
「確か、杏里を実家に連れて行った後の週からだったと思いますけれど」
「ちょうどチロルを島田さんに預けた翌週?」
「多分」
「ここに状況の変化が1つあります。杏里さんとご実家に帰られて、島田さんにチロルを預けた。そして、翌週散歩に連れて行こうとするとチロルが散歩に行かなくなった。それはいつも通りの散歩でしたか?」
「どういう事でしょう」
「パート勤務になられて、お散歩の時間に変更は?」
宇都さんがはっとする。
「ありました……。正社員の頃より早い時間にお散歩に行くようになりました」
でも、それが? と宇都さん。
「チロルが今までより早い時間に散歩に行くのは嫌だ、とでも言っていると?」
「近いです」
「え?」
「今のお言葉はチロルの気持ちに1番近いかもしれません」
「どういう事ですか?」
思わず私は口を挟んだ。
「早い時間に散歩に行くと、何か嫌な事でもあるんでしょうか? 大きな犬が散歩してるとか」
「それはないわ。チロルはそんなに他の犬を怖がらないから」
宇都さんが私の言葉に首を横に振った。
マリさんが困惑する私達へ向かってヒントを投げた。
「お散歩に行かない=怖い物や嫌な物がある、ではないと私は考えました」
「それって……」
柊真君が私達の気持ちを代弁してくれる。
「チロルはお散歩で嫌な思いを過去にした訳ではない、という事ですか?」
「そうなるわね」
ますます分からない。
「はじめ、島田さんからお話を伺った時私もチロルがお散歩中にある何かを怖がったり、嫌がったりしていると思いました。チロルがお散歩に行かなくなったのは宇都さんがパート勤務になり、お散歩の時間が早くなり、島田さんが預かった後の事。そして、島田さんがお散歩に連れて行った時には喜んでお散歩に行っています。どういう事か。島田さんが連れ出した時には、チロルをお散歩に行かせない何かがなかったからです」
「お散歩に行かせない何か?」
私は必死で考える。
「連れて行きました」
私は思い出しながら答えた。
「15分から20分程度だったと思います。近所をぐるりと1周しました」
「チロルはその時は歩いたんですね」
「はい。歩いてくれました」
「その時、途中で動かなくなるなんて事もなく?」
「お肉屋さんの前で少し歩みが遅くなりましたけど、動かなくなるという程では……。終始、いい子でした」
「チロルは島田さんが預かった直後、歩かなくなった。けれど、話を聞くとこうも言い換えられます。島田さんが預かって、宇都さんの家に戻った直後お散歩に行かなくなった」
「どういう意味ですか?」
宇都さんが凄む。
「私の所為だとでも? チロルは島田さんに預けるまで、喜んでお散歩に行く子だったんです。きっと島田さん、何かしたに決まっているわ。何か、チロルが嫌がる事を……」
「私はまだ、どちらの所為だとも言っていません。……ここで、確認です。宇都さんは正社員からパート勤務になられたそうですね」
突然の話題の転換に宇都さんが面食らった顔をした。
「え? ……はい。本当は退職する気でしたが、会社に引き止められて。今はパート勤務で働いています。けれど、それが何か?」
訝しがる宇都さんにマリさんは再度確認する。
「私はこういうカフェで働いているから分からないんですけど、正社員とパート勤務だと宇都さんの会社では勤務時間は異なるんですか?」
「まぁ……。そうですね。やっぱり正社員はフルタイム+残業がありますけどパートだと朝少し遅く出勤して、正社員の方達よりは先に帰ります」
「ちなみにパート勤務になられたのはいつからですか?」
「確か、杏里を実家に連れて行った後の週からだったと思いますけれど」
「ちょうどチロルを島田さんに預けた翌週?」
「多分」
「ここに状況の変化が1つあります。杏里さんとご実家に帰られて、島田さんにチロルを預けた。そして、翌週散歩に連れて行こうとするとチロルが散歩に行かなくなった。それはいつも通りの散歩でしたか?」
「どういう事でしょう」
「パート勤務になられて、お散歩の時間に変更は?」
宇都さんがはっとする。
「ありました……。正社員の頃より早い時間にお散歩に行くようになりました」
でも、それが? と宇都さん。
「チロルが今までより早い時間に散歩に行くのは嫌だ、とでも言っていると?」
「近いです」
「え?」
「今のお言葉はチロルの気持ちに1番近いかもしれません」
「どういう事ですか?」
思わず私は口を挟んだ。
「早い時間に散歩に行くと、何か嫌な事でもあるんでしょうか? 大きな犬が散歩してるとか」
「それはないわ。チロルはそんなに他の犬を怖がらないから」
宇都さんが私の言葉に首を横に振った。
マリさんが困惑する私達へ向かってヒントを投げた。
「お散歩に行かない=怖い物や嫌な物がある、ではないと私は考えました」
「それって……」
柊真君が私達の気持ちを代弁してくれる。
「チロルはお散歩で嫌な思いを過去にした訳ではない、という事ですか?」
「そうなるわね」
ますます分からない。
「はじめ、島田さんからお話を伺った時私もチロルがお散歩中にある何かを怖がったり、嫌がったりしていると思いました。チロルがお散歩に行かなくなったのは宇都さんがパート勤務になり、お散歩の時間が早くなり、島田さんが預かった後の事。そして、島田さんがお散歩に連れて行った時には喜んでお散歩に行っています。どういう事か。島田さんが連れ出した時には、チロルをお散歩に行かせない何かがなかったからです」
「お散歩に行かせない何か?」
私は必死で考える。
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