カフェ・ロビンソン

夏目知佳

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第5章

謎解きを始めましょう

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その時、ロビンソンの入り口のドアがそっと開いた。
私は息を呑む。
「宇都さんですね。どうぞ、お待ちしておりました」
マリさんが、掌で店内へ導く。
「話を聞きに来ました」
宇都さんがちらりと私を一瞥してから、マリさんを見据える。
「チロルが散歩に行かなくなった理由を話して下さるんですよね。島田さんが原因ではないと証明してくれる人がいるとお聞きしました。それは……」
宇都さんの視線をしっかり受け止めて、マリさんは落ち着いた声音で言った。
「ええ。私がお話します。まずは自己紹介ですね。私はここ、カフェ・ロビンソンの店主マリと申します。本日はお越し下さりありがとうございます」
「……」
「まずは何かお飲み物を用意しますね。宇都さんはコーヒーは平気な方ですか? ホットとアイス、どちらにしましょう?」
「……じゃあ、ホットで」
柊真君が席に案内する。宇都さんはストールを取って畳んだ。
「かしこまりました。お連れ様はオレンジジュースをご用意しておりますがそちらでよろしいですか?」
マリさんは視線を合わせて問いかける。
宇都さんが何かを言おうと口を開きかけたのが見えた。
しかしそれより、マリさんが早かった。
「初めまして、杏里さん。今日は来てくれてありがとう」
宇都さんの娘、杏里ちゃんはマリさんの言葉に小さく頷いた。
杏里ちゃんはロビンソンの店内が物珍しいのかきょろきょろ視線を巡らせている。
柊真君がマリさんの淹れたホットコーヒーと、たっぷり氷の入ったグラス、そしてオレンジジュースの瓶を運んでくる。
私にはこの間飲んだカモミールティー。治りかけの胃を痛めない様にとの配慮だろう。
「100パーセントのオレンジジュースだ」
嬉しそうに杏里ちゃんが言って、自分のグラスにジュースを注ぐ。
コーヒーの癒される香りが鼻腔をくすぐって、そわそわした気持ちが、ほんの少し落ち着きを取り戻す。
宇都さんも同じだったのかもしれない。
淹れたてのコーヒーを1口含んで、強張っていた表情が一瞬緩んだ。
味わう様に2口目を含む。
胃が完治したら、絶対にロビンソンオリジナルブレンドを飲もう、そう決めて、私はマリさんの方を見た。
エプロン姿のマリさんは、濡れた手をペーパーで拭くとこちらへやって来た。
「また、雨が少し降り始めましたね」
その言葉に一同窓の方を向く。
糸のような小雨が曇り空から幾筋も落ちて来た。
本降りにならなければいいけれど、と思う。
杏里ちゃんは白地にピンクの水玉模様の描かれた自分の傘の持ち手部分を、テーブル横にかけていた。
「お足元の悪い中来て頂いて本当にありがとうございます。宇都さん、杏里さん、島田さん、今日は貴重なお時間をくださった事改めて感謝します」
「前置きはいいので」
宇都さんの声はそっけない。
「早く始めてもらえますか?」
「かしこまりました」
マリさんはにこやかな表情を変えず、「まずは」と言った。
「状況を整理したいと思います。今回の問題点は宇都さんの愛犬、チロルがお散歩に行かなくなった事。そして、玩具を壊す事もあるという事。これに間違いはありませんか?」
宇都さんは少し考えてから、「間違いありません」と答えた。
「ここ最近外に連れ出すと、散歩に行こうとしません。少し歩いても、すぐに止まって動かなくなります。玩具の方は毎日ではありませんが、この間は1番お気に入りのぬいぐるみを壊していました」
「成程。分かりました。そして、そのチロルが歩かなくなったのは宇都さんが娘さんとご実家のご両親に会う為、島田さんに預けた直後という事ですね」
「ええ」
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