21 / 27
第5章
謎解きを始めましょう
しおりを挟む
その時、ロビンソンの入り口のドアがそっと開いた。
私は息を呑む。
「宇都さんですね。どうぞ、お待ちしておりました」
マリさんが、掌で店内へ導く。
「話を聞きに来ました」
宇都さんがちらりと私を一瞥してから、マリさんを見据える。
「チロルが散歩に行かなくなった理由を話して下さるんですよね。島田さんが原因ではないと証明してくれる人がいるとお聞きしました。それは……」
宇都さんの視線をしっかり受け止めて、マリさんは落ち着いた声音で言った。
「ええ。私がお話します。まずは自己紹介ですね。私はここ、カフェ・ロビンソンの店主マリと申します。本日はお越し下さりありがとうございます」
「……」
「まずは何かお飲み物を用意しますね。宇都さんはコーヒーは平気な方ですか? ホットとアイス、どちらにしましょう?」
「……じゃあ、ホットで」
柊真君が席に案内する。宇都さんはストールを取って畳んだ。
「かしこまりました。お連れ様はオレンジジュースをご用意しておりますがそちらでよろしいですか?」
マリさんは視線を合わせて問いかける。
宇都さんが何かを言おうと口を開きかけたのが見えた。
しかしそれより、マリさんが早かった。
「初めまして、杏里さん。今日は来てくれてありがとう」
宇都さんの娘、杏里ちゃんはマリさんの言葉に小さく頷いた。
杏里ちゃんはロビンソンの店内が物珍しいのかきょろきょろ視線を巡らせている。
柊真君がマリさんの淹れたホットコーヒーと、たっぷり氷の入ったグラス、そしてオレンジジュースの瓶を運んでくる。
私にはこの間飲んだカモミールティー。治りかけの胃を痛めない様にとの配慮だろう。
「100パーセントのオレンジジュースだ」
嬉しそうに杏里ちゃんが言って、自分のグラスにジュースを注ぐ。
コーヒーの癒される香りが鼻腔をくすぐって、そわそわした気持ちが、ほんの少し落ち着きを取り戻す。
宇都さんも同じだったのかもしれない。
淹れたてのコーヒーを1口含んで、強張っていた表情が一瞬緩んだ。
味わう様に2口目を含む。
胃が完治したら、絶対にロビンソンオリジナルブレンドを飲もう、そう決めて、私はマリさんの方を見た。
エプロン姿のマリさんは、濡れた手をペーパーで拭くとこちらへやって来た。
「また、雨が少し降り始めましたね」
その言葉に一同窓の方を向く。
糸のような小雨が曇り空から幾筋も落ちて来た。
本降りにならなければいいけれど、と思う。
杏里ちゃんは白地にピンクの水玉模様の描かれた自分の傘の持ち手部分を、テーブル横にかけていた。
「お足元の悪い中来て頂いて本当にありがとうございます。宇都さん、杏里さん、島田さん、今日は貴重なお時間をくださった事改めて感謝します」
「前置きはいいので」
宇都さんの声はそっけない。
「早く始めてもらえますか?」
「かしこまりました」
マリさんはにこやかな表情を変えず、「まずは」と言った。
「状況を整理したいと思います。今回の問題点は宇都さんの愛犬、チロルがお散歩に行かなくなった事。そして、玩具を壊す事もあるという事。これに間違いはありませんか?」
宇都さんは少し考えてから、「間違いありません」と答えた。
「ここ最近外に連れ出すと、散歩に行こうとしません。少し歩いても、すぐに止まって動かなくなります。玩具の方は毎日ではありませんが、この間は1番お気に入りのぬいぐるみを壊していました」
「成程。分かりました。そして、そのチロルが歩かなくなったのは宇都さんが娘さんとご実家のご両親に会う為、島田さんに預けた直後という事ですね」
「ええ」
私は息を呑む。
「宇都さんですね。どうぞ、お待ちしておりました」
マリさんが、掌で店内へ導く。
「話を聞きに来ました」
宇都さんがちらりと私を一瞥してから、マリさんを見据える。
「チロルが散歩に行かなくなった理由を話して下さるんですよね。島田さんが原因ではないと証明してくれる人がいるとお聞きしました。それは……」
宇都さんの視線をしっかり受け止めて、マリさんは落ち着いた声音で言った。
「ええ。私がお話します。まずは自己紹介ですね。私はここ、カフェ・ロビンソンの店主マリと申します。本日はお越し下さりありがとうございます」
「……」
「まずは何かお飲み物を用意しますね。宇都さんはコーヒーは平気な方ですか? ホットとアイス、どちらにしましょう?」
「……じゃあ、ホットで」
柊真君が席に案内する。宇都さんはストールを取って畳んだ。
「かしこまりました。お連れ様はオレンジジュースをご用意しておりますがそちらでよろしいですか?」
マリさんは視線を合わせて問いかける。
宇都さんが何かを言おうと口を開きかけたのが見えた。
しかしそれより、マリさんが早かった。
「初めまして、杏里さん。今日は来てくれてありがとう」
宇都さんの娘、杏里ちゃんはマリさんの言葉に小さく頷いた。
杏里ちゃんはロビンソンの店内が物珍しいのかきょろきょろ視線を巡らせている。
柊真君がマリさんの淹れたホットコーヒーと、たっぷり氷の入ったグラス、そしてオレンジジュースの瓶を運んでくる。
私にはこの間飲んだカモミールティー。治りかけの胃を痛めない様にとの配慮だろう。
「100パーセントのオレンジジュースだ」
嬉しそうに杏里ちゃんが言って、自分のグラスにジュースを注ぐ。
コーヒーの癒される香りが鼻腔をくすぐって、そわそわした気持ちが、ほんの少し落ち着きを取り戻す。
宇都さんも同じだったのかもしれない。
淹れたてのコーヒーを1口含んで、強張っていた表情が一瞬緩んだ。
味わう様に2口目を含む。
胃が完治したら、絶対にロビンソンオリジナルブレンドを飲もう、そう決めて、私はマリさんの方を見た。
エプロン姿のマリさんは、濡れた手をペーパーで拭くとこちらへやって来た。
「また、雨が少し降り始めましたね」
その言葉に一同窓の方を向く。
糸のような小雨が曇り空から幾筋も落ちて来た。
本降りにならなければいいけれど、と思う。
杏里ちゃんは白地にピンクの水玉模様の描かれた自分の傘の持ち手部分を、テーブル横にかけていた。
「お足元の悪い中来て頂いて本当にありがとうございます。宇都さん、杏里さん、島田さん、今日は貴重なお時間をくださった事改めて感謝します」
「前置きはいいので」
宇都さんの声はそっけない。
「早く始めてもらえますか?」
「かしこまりました」
マリさんはにこやかな表情を変えず、「まずは」と言った。
「状況を整理したいと思います。今回の問題点は宇都さんの愛犬、チロルがお散歩に行かなくなった事。そして、玩具を壊す事もあるという事。これに間違いはありませんか?」
宇都さんは少し考えてから、「間違いありません」と答えた。
「ここ最近外に連れ出すと、散歩に行こうとしません。少し歩いても、すぐに止まって動かなくなります。玩具の方は毎日ではありませんが、この間は1番お気に入りのぬいぐるみを壊していました」
「成程。分かりました。そして、そのチロルが歩かなくなったのは宇都さんが娘さんとご実家のご両親に会う為、島田さんに預けた直後という事ですね」
「ええ」
3
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
私の主治医さん - 二人と一匹物語 -
鏡野ゆう
ライト文芸
とある病院の救命救急で働いている東出先生の元に運び込まれた急患は何故か川で溺れていた一人と一匹でした。救命救急で働くお医者さんと患者さん、そして小さな子猫の二人と一匹の恋の小話。
【本編完結】【小話】
※小説家になろうでも公開中※
ベスティエン ――強面巨漢×美少女の〝美女と野獣〟な青春恋愛物語
花閂
ライト文芸
人間の女に恋をしたモンスターのお話がハッピーエンドだったことはない。
鬼と怖れられモンスターだと自覚しながらも、恋して焦がれて愛さずにはいられない。
恋するオトメと武人のプライドの狭間で葛藤するちょっと天然の少女・禮と、モンスターと恐れられるほどの力を持つ強面との、たまにシリアスたまにコメディな学園生活。
名門お嬢様学校に通う少女が、彼氏を追いかけて最悪の不良校に入学。女子生徒数はわずか1%という特異な環境のなか、入学早々にクラスの不良に目をつけられたり暴走族にさらわれたり、学園生活は前途多難。
周囲に鬼や暴君やと恐れられる強面の彼氏は禮を溺愛して守ろうとするが、心配が絶えない。
お疲れエルフの家出からはじまる癒されライフ
アキナヌカ
ファンタジー
僕はクアリタ・グランフォレという250歳ほどの若いエルフだ、僕の養い子であるハーフエルフのソアンが150歳になって成人したら、彼女は突然私と一緒に家出しようと言ってきた!!さぁ、これはお疲れエルフの家出からはじまる癒されライフ??かもしれない。
村で仕事に埋もれて疲れ切ったエルフが、養い子のハーフエルフの誘いにのって思い切って家出するお話です。家出をする彼の前には一体、何が待ち受けているのでしょうか。
いろいろと疲れた貴方に、いっぱい休んで癒されることは、決して悪いことではないはずなのです
この作品はカクヨム、小説家になろう、pixiv、エブリスタにも投稿しています。
不定期投稿ですが、なるべく毎日投稿を目指しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる