カフェ・ロビンソン

夏目知佳

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第4章

どうして犬が歩かない?

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「まずは、沢山ごはんやおやつをあげ過ぎてしまって太ってしまった子。歩くと息が上がって苦しいし、そういう子はますます運動が嫌いになってしまうみたいなの」
「ああ、テレビでも時々やってますよね。愛犬のダイエット特集! みたいなの」
「でも、この例は宇都さん家のチロルには当てはまらないよね。チロルはきちんと運動をしていた犬だし。宇都さんもドッグフードしかあげないようにしてるって言ってたし」
「俺の姉ちゃん家の猫なんかキャットフードには見向きもしないですよ。高級チュールをあげたら味を覚えちゃったみたいで。めちゃくちゃわがままだって言ってました」
「溺愛するとついつい美味しい物をあげてしまいたくなってしまうものだけれど、その点宇都さんはきちんと線引きはしていたのね」
私は頷いた。
「はい。チロルはしつけのきちんとされたいい子でした。預かっている間もこちらを困らせる様な事はなかったですし」
じゃあ、他には? 謎を解決すべく、私は次のメモを読み上げる。
「他の原因を探していたら、大きな音や車に慣れていない子はびっくりしてしまって、お散歩=怖い物というイメージが出来てしまってトラウマになったりするみたいです。飼い犬よりも野良犬だった子にそういうケースは多く見られる様なんですけど」
「成程。昔、車に轢かれそうになった経験があったり、危ない目にあったりしたら保護されて飼い犬になれたとしても怖い物は怖いか……」
「ただ、この場合もチロルに該当するかと言えば……。チロルは知り合いのペットショップから買ってきて子犬の頃から育てたらしいですから」
自分で言っておきながら落ち込む私を柊真君が慰めてくれる。
「いや、まだ分からないですよ。何か近所に大きい音……大型犬の吠え声とか工場の何か金属音とか、そういうのがあってチロルは散歩が苦手になったのかも」
「私も微かな希望を持って探したんだけど……なかったの」
「え?」
「そういうチロルが怖がりそうな物がなかったんだ。宇都さんの家の近所には」
マリさんが眉を持ち上げて、「行かれたんですか?」と尋ねる。
「でも、島田さん土日がお休みですよね? お仕事、大丈夫でした?」
「うちの会社、半休が取得できるんです。まさかチロルが散歩に行かない理由を探してきますとは言えないので、適当に理由を拵えて。初めてです。こんな事したの。おかげで溜まっていた有給が少し消化出来ました」
「宇都さんの家は分かったとしてもチロルの散歩コースがよく分かりましたね」
「いえ。流石にそこまでは。大体この辺りに住んでいる、というのを聞いた事があるので、その周辺を歩いて回っただけで。宇都さんは今パート勤務なので鉢合わせしない様に急いで調べたんですけど。柊真君が言う様な大きな音……。無駄吠えする大型犬にも会わなかったし、工場みたいなのも周辺にはなかったんです。強いていうなら近くに中学校があって、吹奏楽部の楽器の音が聞こえました。トランペット? とかの管楽器だと思うんですけど」
「近所に住んでいるなら、吹奏楽部の出す音には慣れているかもしれませんね」
「ですよね。万事休す、というか。結局足が棒になっただけで何の収穫もなく……。メロンパンを公園で食べて帰りました」
「メロンパン? パン屋さんがあるんですか?」
マリさんの質問に私は首を横に振り、スマホをタップした。
「いえ、メロンパンの移動販売が公園に来ていて。焼きたてで美味しいっていう音楽がスピーカーから流れるから、つい。すごく可愛いキッチンカーなんですよ。見ますか?」
珍しさのあまり、スマホで撮った写真をマリさん達に見せる。
カラフルな外観のメロンパン号を見て、柊真君が「おお!」と喜々とした声をあげた。
「スゲー懐かしい! 俺が小さい時も、近所にこんなメロンパンの移動販売来てましたよ。すごいポップで陽気な歌が流れるんですよね。『熱々、ふわふわ、美味しい美味しいメロンパン~』って」
「そうなの? 私は初めて遭遇したよ」
「私も初めて見たわ。メロンパン専門の移動販売は」
「地域によって違うんですかね。公園とか広場とかに停めて、子供の集まる時間を狙って販売するんですよ。本当にふわっふわで、あれ食べたら、市販のメロンパン食べられないです。全然違いますから」
熱弁する柊真君に同意する。
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