カフェ・ロビンソン

夏目知佳

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第4章

カモミールティーとチョコレート

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相槌を打ちながらマリさんと柊真くんが聞いてくれている。
途中でカモミールティーが運ばれてきて、私はお礼を言ってカップを両手で包んだ。ほっとする温かさ。癒される香り。北欧風の乳白色のカップがまたいい。ロビンソンの雰囲気と上手くマッチしている。
カップを口に運んで私は驚いた。
「これ、全然クセがない。私が昔飲んだ事のあるのと違う。すごく飲みやすい」
「味と言うより香りかもしれませんね。物によっては香りが強過ぎて飲みにくさを感じる方もいるみたいです。お口に合ったみたいで良かった」
「背中合わせチョコレートと同じくらいお気に入りになりそうです」
それを聞いて、柊真君が嬉しそうに笑う。
「島田さん、沢山褒めてくれるのでやる気が出ます」
「例のチーズケーキも、完成したらぜひ食べさせてね」
「はい。もちろんです」
「美味しいチョコレートとハーブティー。仕事で疲れた人にはこれが正解! っていうくらいぴったりの組み合わせですね。チロルの事もこれが原因っていう答えが分かればいいんだけど……。情報は得たけれど、正解の組立方が分かりません」
「今さっきのお話によれば合鍵を持っているのは娘の杏里ちゃん、恋人の滝田さん。この2人でしたよね?」
「はい」
「それで宇都さんはチロルがお散歩を拒む事に慌てて元旦那さんに連絡をし、それが原因で滝田さんと口論になった。口論の末に元旦那さんに預けるべきだと言われ、娘の杏里ちゃんの話にまでなった、そうですね?」
「ええ。なんだかこの間柊真君の唱えた説があながち間違ってもいない気がしてきました」
「嫁いびり説……じゃなかったチロルいびり説ですね」
「チロルが邪魔で、そんな事を言ったんでしょうか」
「おふたりの実際の喧嘩の現場を見ていないのでなんとも言えませんけど。島田さんの話を聞くに、宇都さんは結構勝ち気なタイプに思えます。売り言葉に買い言葉という可能性もあり得ますよね」
「そっか……」
マリさんの言葉に私は納得する。
「事実、チロルの1件で同棲の話が立ち消えになった訳ではない事は宇都さんが今パート勤務をしつつ会社を辞めるか迷っている事からも伺えます。女性には家庭に入って欲しいという恋人の滝田さんのお願いがないのであれば今まで通り正社員で働き続けられるのではないでしょうか」
「確かにそうですよね。会社を辞める理由がなくなる訳だから」
「同棲の話が生きているって事は宇都さんと滝田さんは言う程険悪じゃないって事ですかね?」
尋ねる柊真君にマリさんは頷いた。
「夫婦、と呼ぶにはまだ早いかもしれないけれど、よく言うじゃない。『夫婦喧嘩は犬もくわない』って」
「俺、気になるのは滝田さんの言葉なんですけど」
「言葉? どういう事?」
私が促すと、柊真君は「なんか引っかかるというか」と上目遣いで宙を仰ぐ。
「杏里ちゃんが宇都さんの家に遊びに来るのは宇都さんの帰りを待っているんじゃなくてチロルに会う為だ、的な事を言ったんでしょう?」
「うん」
「って事は宇都さんが仕事から帰って来る前に杏里ちゃんが家に来てチロルと遊んで、そのまま帰っちゃう事もあったのかな? と」
「宇都さんも正社員の頃は残業もあったから待ちきれずに帰っちゃったのかも」
「うーん」
「柊真君の言いたい事、分かるわ。宇都さんが杏里ちゃんから『今日もお母さん遅かったね。待ちきれずに帰ったよ』なんて言われている様なら滝田さんとの会話の中で何気なく出ると思うの。そしたら滝田さんわざわざそんな言い方しない気がする。宇都さん、杏里ちゃんが家に来た形跡を見て、『今日、杏里が家に来たみたい』なんて事を滝田さんに言っていたんじゃないかしら。だから、滝田さんは杏里ちゃんはお母さんが不在の時に遊びに来る程チロルが好きなんだな。それじゃ、チロルを杏里ちゃんにって言い出したのかもしれないわね」
「だからと言って、それがチロルが散歩に行かなくなった事とどう関係があるかといえば分からないんですけどね」
「私、実は少し調べたんですけど……」
スマホに記録したメモを私はマリさん達に見せた。
「犬が散歩を嫌がる理由というか原因を」
「本当ですか? どんな事が原因になるんです?」
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