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第4章
約束の日
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マリさん達との約束の日は飛ぶようにやって来た。
仕事をなるべく早く終わらせて、カフェ・ロビンソンまで歩いていく。
眼鏡屋さんはまだ営業していて、外から中を覗くとお客さんが数人フレームを選んでいる所だった。
ロビンソンへ続く階段には小さな四角いライトが数個ずつ、オレンジ色の柔らかい光を放っている。
この時間帯に来るのは初めてなので、ちょっとどきどきする。昼間とは雰囲気がまた違って新鮮だ。
ドアを開けると、軽やかだけれどどこか落ち着く音楽が流れて来た。店内の照明も昼間と夜でかえているらしい。
少し絞られた灯りが雰囲気を出していて、感じがよい。まるで温かな毛布に包まって本を読んでいるかの様な居心地の良さだ。
入店した私に真っ先に気づいてくれたのはカウンターのマリさんだった。
片手を上げて小さく手を振ってくれる。続いて、柊真君も気づいてくれた。今日は花梨ちゃんはいない様だ。
店内には私以外にお客さんは5人。カップルが1組と30代くらいの女性2人が楽しそうに会話と食事を楽しんでいる。あと1人は窓際の1人掛けの席で、本を読みながらコーヒーを飲んでいた。
「今日は花梨ちゃんはお休みですか?」
カウンター席に腰掛けながら尋ねる。
「1時間くらい前までいたんですけど、あまり遅くならない内にと思って帰しました。女の子が1人で夜道を帰るのは危ないから。けど、言われてしまいました」
「言われてしまった?」
「『島田さんの報告事項、私も聞いて話し合いに参加したかったです』って。島田さんが会社でまた宇都さんから嫌な態度を取られて、辛い思いをしているんじゃないかと花梨ちゃん、心配していました。問題解決に自分も協力したかったみたいです」
「そうだったんですね……。有難いな」
ぽろりと漏らすと、マリさんはカウンターから回って来てお冷と小皿を置いた。
「え? これは……」
「この間の背中合わせチョコレートです。サービスなのでどうぞ。島田さんから褒められてからというもの、柊真君張り切っちゃって。夜来られるお客さんにサービスで出してみるのはどうでしょう? なんて言うものだから、それはそれで面白いなって。昨日から始めたサービスです。中々好評ですよ」
お礼を言って、さっそく口に含む。
柔らかで面白い食感。濃厚で後を引く味。疲れた体が癒される。
「やっぱり美味しい。お菓子作りのセンスがありますね。柊真君」
「それ絶対喜ぶから本人に言ってあげて下さい。あ、ちょうど戻ってきました」
お客さんのコップにお冷を注ぎ終わった柊真くんが「こんばんは、島田さん」と笑顔を見せた。
「こんばんは、柊真くん。チョコレート美味しかったよ」
「マジですか! ありがとうございます。そうだ、あれから胃の調子はどうですか?」
「少しずつ良くなってきてるの。でも全快とまではいかないから、今日は何を頼もうかな。何かほっとする様な温かい飲み物がいいんだけど」
「それじゃあ、カモミールティーはいかがですか。リラックス効果や疲労回復はもちろん、胃の調子を整える効果もあるんですよ」
「そうなの? 知らなかった」
安眠効果がある、というのは聞いたことがあるけれどそれは初耳だ。
「胃を労わりたいので、今日は柊真くんおすすめのカモミールティーにします」
「かしこまりました」
マリさんがカウンターの向こうで乳白色のカップを温め始めた。
柊真くんが「合鍵の件はどうでしたか?」と尋ねてくれる。
それを皮切りに、私はこの間知り得た情報と宇都さんの今の状況を話し始めた。
仕事をなるべく早く終わらせて、カフェ・ロビンソンまで歩いていく。
眼鏡屋さんはまだ営業していて、外から中を覗くとお客さんが数人フレームを選んでいる所だった。
ロビンソンへ続く階段には小さな四角いライトが数個ずつ、オレンジ色の柔らかい光を放っている。
この時間帯に来るのは初めてなので、ちょっとどきどきする。昼間とは雰囲気がまた違って新鮮だ。
ドアを開けると、軽やかだけれどどこか落ち着く音楽が流れて来た。店内の照明も昼間と夜でかえているらしい。
少し絞られた灯りが雰囲気を出していて、感じがよい。まるで温かな毛布に包まって本を読んでいるかの様な居心地の良さだ。
入店した私に真っ先に気づいてくれたのはカウンターのマリさんだった。
片手を上げて小さく手を振ってくれる。続いて、柊真君も気づいてくれた。今日は花梨ちゃんはいない様だ。
店内には私以外にお客さんは5人。カップルが1組と30代くらいの女性2人が楽しそうに会話と食事を楽しんでいる。あと1人は窓際の1人掛けの席で、本を読みながらコーヒーを飲んでいた。
「今日は花梨ちゃんはお休みですか?」
カウンター席に腰掛けながら尋ねる。
「1時間くらい前までいたんですけど、あまり遅くならない内にと思って帰しました。女の子が1人で夜道を帰るのは危ないから。けど、言われてしまいました」
「言われてしまった?」
「『島田さんの報告事項、私も聞いて話し合いに参加したかったです』って。島田さんが会社でまた宇都さんから嫌な態度を取られて、辛い思いをしているんじゃないかと花梨ちゃん、心配していました。問題解決に自分も協力したかったみたいです」
「そうだったんですね……。有難いな」
ぽろりと漏らすと、マリさんはカウンターから回って来てお冷と小皿を置いた。
「え? これは……」
「この間の背中合わせチョコレートです。サービスなのでどうぞ。島田さんから褒められてからというもの、柊真君張り切っちゃって。夜来られるお客さんにサービスで出してみるのはどうでしょう? なんて言うものだから、それはそれで面白いなって。昨日から始めたサービスです。中々好評ですよ」
お礼を言って、さっそく口に含む。
柔らかで面白い食感。濃厚で後を引く味。疲れた体が癒される。
「やっぱり美味しい。お菓子作りのセンスがありますね。柊真君」
「それ絶対喜ぶから本人に言ってあげて下さい。あ、ちょうど戻ってきました」
お客さんのコップにお冷を注ぎ終わった柊真くんが「こんばんは、島田さん」と笑顔を見せた。
「こんばんは、柊真くん。チョコレート美味しかったよ」
「マジですか! ありがとうございます。そうだ、あれから胃の調子はどうですか?」
「少しずつ良くなってきてるの。でも全快とまではいかないから、今日は何を頼もうかな。何かほっとする様な温かい飲み物がいいんだけど」
「それじゃあ、カモミールティーはいかがですか。リラックス効果や疲労回復はもちろん、胃の調子を整える効果もあるんですよ」
「そうなの? 知らなかった」
安眠効果がある、というのは聞いたことがあるけれどそれは初耳だ。
「胃を労わりたいので、今日は柊真くんおすすめのカモミールティーにします」
「かしこまりました」
マリさんがカウンターの向こうで乳白色のカップを温め始めた。
柊真くんが「合鍵の件はどうでしたか?」と尋ねてくれる。
それを皮切りに、私はこの間知り得た情報と宇都さんの今の状況を話し始めた。
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