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第3章
第3者の存在
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落ち込む私に「誰だってまさかそんな事になるなんて想像つかないですよ」と柊真君がフォローを入れてくれる。
「その事が原因で、今お仕事もやりにくくなっている訳ですね」
「はい」
力なく私は頷く。
「月曜日の事を考えると憂鬱です」
「宇都さんはチロルが散歩に行かなくなった原因は島田さんにあると思い込んでいるんですね。散歩に行かなくなったのはいつからでなんでしょう? 宇都さんのもとへ帰ってしばらくしてから? それとも直後?」
「私が預かった日の翌日からみたいです」
「さっき、散歩に連れて行った、とおっしゃいましたね。という事は島田さんが預かった時点ではチロルは普通にお散歩を楽しんでいた……」
「楽しんでいました。いつもと歩くコースが違うので、ちゃんと歩いてくれるか心配だったけど杞憂でした」
捲ったシャツから伸びる腕をマリさんは組んだ。
私は彼女の仕事の手を止めてしまったのが申し訳なくて頭を下げる。
「すみません。こんな話……。誰かに相談したくても出来る人がいなくて」
「全然構いませんよ。お客様に心身ともにリラックスして頂くためにウチはあるんですから。それに1人で抱え込むのは体に毒です。よくぞ打ち明けてくださいましたね」
思いがけない言葉に涙が出そうになった。
鼻をすすると、花梨ちゃんが自分のエプロンのポケットからティッシュを差し出してくれる。
「島田さんがチロルを預かる前はどうなんでしょう? お散歩には行っていたんでしょうか」
「普通に行っていたと宇都さんは話していました。あくまで、私が預かった後、お散歩を嫌がる様になったと」
「外には出るんですか?」
「出るみたいです。ただ、しばらく歩くと、立ち止まり、お座りをして動かなくなるそうで」
「散歩に行くのを拒否るみたいな感じですかね?」
「うーん。私は実際に宇都さんとチロルの散歩を見ていないからなんとも言い難いんだけど。宇都さんの言い方をそのまま伝えると、あんなにいい子が急に歩かなくなるのはおかしいって」
柊真君は「犬もたまにはストライキを起こしたくなるのかなぁ」と首を捻った。思わぬ天然な発言に心が和む。
「犬もたまには家で休みたいって?」
「そうそう。のんびりしたいのに、って」
本当にそんな風にチロルが思っての事ならいいのだけれど、現実は深刻だ。
「1日2日のストライキじゃないんだ。そこがまた問題と言うか、不思議でね」
チロルは大好きな散歩に行かなくなっただけでなく、玩具を壊すようになったと宇都さんは言っていた。その事を伝えると、マリさんは目を伏せ何か考える様に唇に手を当てた。美人は何をしても様になる。見とれているとすっと視線を持ち上げた彼女と目が合った。
「宇都さんは娘さんと旦那さんとの3人暮らしですか?」
「え?」
思わぬ質問に面食らう私に、マリさんが質問の意図を説明する。
「チロルは宇都さんと島田さんとしか接していない訳ではないですよね。第3者がいるならその誰かがチロルに何かをしたとも考えられませんか?」
「そうか。旦那さんか娘さんがチロルにストレスになる様な事をしてしまってそれが原因で散歩に行かないのかも!」
柊真君が指を鳴らす。
第3者の存在。
自分が何かをしたかもしれないという不安で思いつきもしなかった。
「その事が原因で、今お仕事もやりにくくなっている訳ですね」
「はい」
力なく私は頷く。
「月曜日の事を考えると憂鬱です」
「宇都さんはチロルが散歩に行かなくなった原因は島田さんにあると思い込んでいるんですね。散歩に行かなくなったのはいつからでなんでしょう? 宇都さんのもとへ帰ってしばらくしてから? それとも直後?」
「私が預かった日の翌日からみたいです」
「さっき、散歩に連れて行った、とおっしゃいましたね。という事は島田さんが預かった時点ではチロルは普通にお散歩を楽しんでいた……」
「楽しんでいました。いつもと歩くコースが違うので、ちゃんと歩いてくれるか心配だったけど杞憂でした」
捲ったシャツから伸びる腕をマリさんは組んだ。
私は彼女の仕事の手を止めてしまったのが申し訳なくて頭を下げる。
「すみません。こんな話……。誰かに相談したくても出来る人がいなくて」
「全然構いませんよ。お客様に心身ともにリラックスして頂くためにウチはあるんですから。それに1人で抱え込むのは体に毒です。よくぞ打ち明けてくださいましたね」
思いがけない言葉に涙が出そうになった。
鼻をすすると、花梨ちゃんが自分のエプロンのポケットからティッシュを差し出してくれる。
「島田さんがチロルを預かる前はどうなんでしょう? お散歩には行っていたんでしょうか」
「普通に行っていたと宇都さんは話していました。あくまで、私が預かった後、お散歩を嫌がる様になったと」
「外には出るんですか?」
「出るみたいです。ただ、しばらく歩くと、立ち止まり、お座りをして動かなくなるそうで」
「散歩に行くのを拒否るみたいな感じですかね?」
「うーん。私は実際に宇都さんとチロルの散歩を見ていないからなんとも言い難いんだけど。宇都さんの言い方をそのまま伝えると、あんなにいい子が急に歩かなくなるのはおかしいって」
柊真君は「犬もたまにはストライキを起こしたくなるのかなぁ」と首を捻った。思わぬ天然な発言に心が和む。
「犬もたまには家で休みたいって?」
「そうそう。のんびりしたいのに、って」
本当にそんな風にチロルが思っての事ならいいのだけれど、現実は深刻だ。
「1日2日のストライキじゃないんだ。そこがまた問題と言うか、不思議でね」
チロルは大好きな散歩に行かなくなっただけでなく、玩具を壊すようになったと宇都さんは言っていた。その事を伝えると、マリさんは目を伏せ何か考える様に唇に手を当てた。美人は何をしても様になる。見とれているとすっと視線を持ち上げた彼女と目が合った。
「宇都さんは娘さんと旦那さんとの3人暮らしですか?」
「え?」
思わぬ質問に面食らう私に、マリさんが質問の意図を説明する。
「チロルは宇都さんと島田さんとしか接していない訳ではないですよね。第3者がいるならその誰かがチロルに何かをしたとも考えられませんか?」
「そうか。旦那さんか娘さんがチロルにストレスになる様な事をしてしまってそれが原因で散歩に行かないのかも!」
柊真君が指を鳴らす。
第3者の存在。
自分が何かをしたかもしれないという不安で思いつきもしなかった。
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