1 / 27
第1章
憂うつな気持ち
しおりを挟む
今日何度目か分からない溜息を零す。
仕切られたデスクの隙間から、向こう側を覗く。3年先輩の宇都さんの後ろ姿。営業の松村さんから頼まれたコピーを取っている様だ。
胃がキリキリ痛む。卓上カレンダーを見たら17日だった。
宇都さんが私にブチ切れた日からもう3日経つ。その間、全く口を聞いてもらえなかった。男性社員はともかく、他の女子社員はとうにその険悪さに気づいていて、「どうしたの? 喧嘩?」なんて言われる始末。しかも、宇都さんが詳細を語ったのかどうか定かじゃないけれど、「早く、謝った方がいいんじゃない?」と同期の金田えりにはそんな助言すらもらった。謝る事は簡単だ。これでも大人だもの。社会人だもの。理不尽な思いなんて会社で幾度も経験している。
でも、と思う。
こればっかりは、どうも納得出来ないのだ。
★★★
会社にいるのが気づまりで、昼休みはちょっと外へ出る事にした。
宇都さんと揉める前までは4~5人の女性グループで社内の食堂でお喋りしながら食べていたのだけれど。今はそれも出来そうにない。
睨みを利かせた宇都さんが鉄壁のガードで私が近づくのを許してくれないから。ついこの間まで1番親しくしていた先輩だけに、あんな態度を取られるのは辛い。
社員証を持って、エレベーターで1階に降りる。林立するビル群を少し離れれば、ビジネスマン向けの飲食店が今日も大盛況だ。
胃の調子を考えて温かいうどんにしようという考えは店の近くまでやって来て打ち砕かれた。
入口の前に並べられた5脚の椅子は全て埋まり、立ち並んでいるサラリーマンは手持無沙汰でスマホを眺めている。
回転率が良い店だとはいえ、昼休みは有限だ。効率的にいきたい。
「パンでも食べようかな」
もう少し歩けば、イートインコーナーのあるベーカリーがある。
丁度昼時で混んでいそうな気がするけど、こちらのうどん屋さんよりはまだマシだろう。気分を切り替えて歩き出す。
ビル風が髪をなぶっていく。春先とはいえ、まだまだ風は冷たい。
数メートル進んだところで、あるお店の前に小さな黒板が木製のフレームに立てかけて置いてあるのに目がいった。
「眼鏡屋さん?」
透明な入口ドアには早見眼鏡店とある。
覗いてみると、店の奥ではメタルフレームの眼鏡をかけた男の人が接客をしている。
もう1度足元を見遣る。
小さな黒板に控えめな上向きの矢印が記してある。その下に女の子らしい丸っこい字で『パンケーキ有ります』の文字。
「もしかして、こっち?」
眼鏡屋さんの入口の近く、狭い階段がひっそりと2階へ続いている。
小さな照明と階段の隅にちょこんといる青い鳥のフィギュア。まるで、小鳥がこっちにおいでと誘っている様な。
どうしよう。上がってもいいのかな?
パンケーキあるって書いてあるから多分飲食店だよね?
迷ってうろうろしている私の影が眼鏡屋さんの入口ドアに映る。
み、見事な不審者ぶり。
私は、思い切って、1段目に足をかけた。人がいなかったら急いで駆け下りてベーカリーに行けばいい。
踊り場まで駆け上がった私は、その先にオレンジの温かい室内灯を見て、ほっとした。どうやら営業中らしい。
木製のドアは水色。さっきの小鳥と同じ色だ。木のプレートがぶら下がっていて、優しい筆跡で、カフェ・ロビンソンとあった。
仕切られたデスクの隙間から、向こう側を覗く。3年先輩の宇都さんの後ろ姿。営業の松村さんから頼まれたコピーを取っている様だ。
胃がキリキリ痛む。卓上カレンダーを見たら17日だった。
宇都さんが私にブチ切れた日からもう3日経つ。その間、全く口を聞いてもらえなかった。男性社員はともかく、他の女子社員はとうにその険悪さに気づいていて、「どうしたの? 喧嘩?」なんて言われる始末。しかも、宇都さんが詳細を語ったのかどうか定かじゃないけれど、「早く、謝った方がいいんじゃない?」と同期の金田えりにはそんな助言すらもらった。謝る事は簡単だ。これでも大人だもの。社会人だもの。理不尽な思いなんて会社で幾度も経験している。
でも、と思う。
こればっかりは、どうも納得出来ないのだ。
★★★
会社にいるのが気づまりで、昼休みはちょっと外へ出る事にした。
宇都さんと揉める前までは4~5人の女性グループで社内の食堂でお喋りしながら食べていたのだけれど。今はそれも出来そうにない。
睨みを利かせた宇都さんが鉄壁のガードで私が近づくのを許してくれないから。ついこの間まで1番親しくしていた先輩だけに、あんな態度を取られるのは辛い。
社員証を持って、エレベーターで1階に降りる。林立するビル群を少し離れれば、ビジネスマン向けの飲食店が今日も大盛況だ。
胃の調子を考えて温かいうどんにしようという考えは店の近くまでやって来て打ち砕かれた。
入口の前に並べられた5脚の椅子は全て埋まり、立ち並んでいるサラリーマンは手持無沙汰でスマホを眺めている。
回転率が良い店だとはいえ、昼休みは有限だ。効率的にいきたい。
「パンでも食べようかな」
もう少し歩けば、イートインコーナーのあるベーカリーがある。
丁度昼時で混んでいそうな気がするけど、こちらのうどん屋さんよりはまだマシだろう。気分を切り替えて歩き出す。
ビル風が髪をなぶっていく。春先とはいえ、まだまだ風は冷たい。
数メートル進んだところで、あるお店の前に小さな黒板が木製のフレームに立てかけて置いてあるのに目がいった。
「眼鏡屋さん?」
透明な入口ドアには早見眼鏡店とある。
覗いてみると、店の奥ではメタルフレームの眼鏡をかけた男の人が接客をしている。
もう1度足元を見遣る。
小さな黒板に控えめな上向きの矢印が記してある。その下に女の子らしい丸っこい字で『パンケーキ有ります』の文字。
「もしかして、こっち?」
眼鏡屋さんの入口の近く、狭い階段がひっそりと2階へ続いている。
小さな照明と階段の隅にちょこんといる青い鳥のフィギュア。まるで、小鳥がこっちにおいでと誘っている様な。
どうしよう。上がってもいいのかな?
パンケーキあるって書いてあるから多分飲食店だよね?
迷ってうろうろしている私の影が眼鏡屋さんの入口ドアに映る。
み、見事な不審者ぶり。
私は、思い切って、1段目に足をかけた。人がいなかったら急いで駆け下りてベーカリーに行けばいい。
踊り場まで駆け上がった私は、その先にオレンジの温かい室内灯を見て、ほっとした。どうやら営業中らしい。
木製のドアは水色。さっきの小鳥と同じ色だ。木のプレートがぶら下がっていて、優しい筆跡で、カフェ・ロビンソンとあった。
1
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ミノタウロスの森とアリアドネの嘘
鬼霧宗作
ミステリー
過去の記録、過去の記憶、過去の事実。
新聞社で働く彼女の元に、ある時8ミリのビデオテープが届いた。再生してみると、それは地元で有名なミノタウロスの森と呼ばれる場所で撮影されたものらしく――それは次第に、スプラッター映画顔負けの惨殺映像へと変貌を遂げる。
現在と過去をつなぐのは8ミリのビデオテープのみ。
過去の謎を、現代でなぞりながらたどり着く答えとは――。
――アリアドネは嘘をつく。
(過去に別サイトにて掲載していた【拝啓、15年前より】という作品を、時代背景や登場人物などを一新してフルリメイクしました)
ロンダリングプリンセス―事故物件住みます令嬢―
鬼霧宗作
ミステリー
窓辺野コトリは、窓辺野不動産の社長令嬢である。誰もが羨む悠々自適な生活を送っていた彼女には、ちょっとだけ――ほんのちょっとだけ、人がドン引きしてしまうような趣味があった。
事故物件に異常なほどの執着――いや、愛着をみせること。むしろ、性的興奮さえ抱いているのかもしれない。
不動産会社の令嬢という立場を利用して、事故物件を転々とする彼女は、いつしか【ロンダリングプリンセス】と呼ばれるようになり――。
これは、事故物件を心から愛する、ちょっとだけ趣味の歪んだ御令嬢と、それを取り巻く個性豊かな面々の物語。
※本作品は他作品【猫屋敷古物商店の事件台帳】の精神的続編となります。本作から読んでいただいても問題ありませんが、前作からお読みいただくとなおお楽しみいただけるかと思います。
YouTuber犬『みたらし』の日常
雪月風花
児童書・童話
オレの名前は『みたらし』。
二歳の柴犬だ。
飼い主のパパさんは、YouTubeで一発当てることを夢見て、先月仕事を辞めた。
まぁいい。
オレには関係ない。
エサさえ貰えればそれでいい。
これは、そんなオレの話だ。
本作は、他小説投稿サイト『小説家になろう』『カクヨム』さんでも投稿している、いわゆる多重投稿作品となっております。
無断転載作品ではありませんので、ご注意ください。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ファミリーヒストリア~あなたの家族、書きます~
摂津いの
ライト文芸
「ファミリーヒストリア」それは、依頼者の家族の物語を本に綴るという仕事。
紆余曲折を経て、それを生業とする女性と依頼者や周囲の人たちとの心の交流。
あなたの家族の物語、知りたくありませんか?
タイムカプセル
森羅秋
ライト文芸
今年二十歳になった牧田北斗は、週末にのんびりテレビを見ていたのだが、幼馴染の富士谷凛が持ってきた、昔の自分達が書いたという地図を元にタイムカプセルを探すことになって…?
子供の頃の自分たちの思い出を探す日の話。
完結しました。
ミスター・アンビシャス・テイカー
川神モガン
ライト文芸
19XX年X月XX日 世界各地に小型隕石が落下。その隕石に付着した未知の粒子によってパンデミックが発生。全世界で約4億人が死亡する未曽有の大災害となった
だが、粒子に抵抗力をもった一部の人類に超能力が発現
人々に祝福を与え能力を発揮する者を【天使(ギフテッド)】
自らに罰を与えて能力を発揮する者を【悪魔(テイカー)】 と呼んだ
主人公 柳内龍之介はある事件をきっかけに自分が【悪魔(テイカー)】だと知る
自分の能力を制御するため、金持ちになってリッチな生活をするために、龍之介は【悪魔(テイカー)】で構成された内閣直属の対能力者専門秘密組織”アンビシャス”への入隊を決意する
戦いと事件が混在する世界に身を寄せ続けた龍之介は、次第にこの世界の矛盾に気が付いていく───
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる