桜ヶ丘中学校恋愛研究部

夏目知佳

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第13章

無事でよかった

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ドサッと音がした。

「結!」

間山さんが階段の方へ走り寄る。

血の気の引いた、真っ青な顔で。

「大丈夫⁉ 結っ」

岩切さんが階段から落ちるその瞬間、その場にいた誰もが息を呑んだ。

ただ1人を除いては。

「い……いったぁ」

そう言って、身を起こしたのは静先輩で。

「あれ……。痛くない」

当の岩切さんは何が起こったかまだはっきりわからない様子でぽかんとしている。

「岩切さん、大丈夫?」

「怪我はないか?」

「結、どっか痛くない? 大丈夫⁉」

急いで駆け寄った私達に、岩切さんの下敷きになった静先輩が恨めし気に言った。

「1人でいいよ。誰か、俺の心配もしようか」



―クラスメイトに誘われて、体育館でバスケしてたんだ~。

昼休みの静先輩の言葉を思い出して、私は静先輩に謝った。

「あれ、本当だったんですね。疑ってて、すみませんでした」

「疑ってたの⁉」

嘘でしょ、と静先輩が絶句する。

「俺の抜群な反射神経がなければ今頃、岩切さん保健室行きだからね!」

「そういう事を自分から言わなければ、お前今、最高に少女漫画のヒーローみたいだぞ」

「本当? ジローちゃん。俺、もう黙っとくよ」

神妙な顔で、静先輩が決意表明する。

静先輩の言うとおりだった。

岩切さんが階段から足を滑らせた瞬間、とっさに動けたのは静先輩ただ1人で。

下にいた静先輩が落ちてきた岩切さんを上手くキャッチしたからこそ、岩切さんは無傷で済んだ。

本当に反射神経が良くなければ、あんな動きはとてもじゃないけど出来ないと思う。

岩切さんに怪我がないと分かって、間山さんが、ほっと胸を撫でおろす。

それから腰が抜けたみたいに、すとんとその場にしゃがみ込んだ。

「莉理ちゃん?」

助けてくれた静先輩にお礼を言っていた岩切さんが間山さんの方を向く。

「こ、怖かった……!」

「え?」

「怖かった。怖かったよ。また、結が怪我しちゃうんじゃないかって。私のせいで。あの時みたいに……っ」

「莉理ちゃん……」

「怪我、しないで、よかっ……」

間山さんから嗚咽が漏れる。

岩切さんが間山さんに近づいて、きゅっと唇を結んだかと思うとー……。

「莉理ちゃんなんか嫌い」

間山さんの目を真っすぐ見つめて、言った。

言葉の強さに私は思わず息を呑む。
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