桜ヶ丘中学校恋愛研究部

夏目知佳

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第12章

逃げるが勝ち

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にっこり笑って、静先輩が人差し指を口元にあてる。

(内緒だよ、それは言わない約束でしょ?) 

声をひそめる静先輩を私は見上げた。

「静先輩……」

放送委員の皆さんの刺さる様な視線を受け流し、静先輩が放送室のドアを開ける。

「あ、武藤だ」

「えっ⁉」

「なんちゃって」

てへっと笑って、静先輩が廊下へ飛び出した。続いて、ジロー先輩が続く。

私も2人に続こうとしたら、がっ! と腕を掴まれて。

「……あれ?」

「逃がすか!」

に、逃げ遅れちゃった!

「責任はしっかり取ってもらうからな!」

「今は、今だけは見逃してもらえませんか……。時間がなくて」

「は? 何言ってるんだ」

こ、怖い。そして、自分の運動神経の鈍さがもう、本当に嫌だよ~!

―と、閉まった筈の放送室のドアが再度開く。

「夏帆ちゃん!」

「静先輩!」

伸ばされた手を急いで掴むと。

ぐいっと私の身体は外の世界に運ばれていく。

「おい、待て! 逃げるな、恋研っ」

放送委員長の声が後ろで聞こえる。

「は、は……」

「どうしたの夏帆ちゃん」

「早すぎます、静先輩! 足の長さが! 動かすスピードがっ! 先輩と私では違いすぎま……わぁ⁈」

更に加速する静先輩に手を引かれて、私は転ばない様に全力で走ったんだ。


★★★


さかのぼる事、3時間前―……。

「普通に呼んでも来ないだろうね。2人とも」

そう推測したのは静先輩だった。

「俺達が間山さんと岩切さんに会話する機会を作ったところで、まず、2人は拒否すると思う。っていうか、俺達がさり気なーくそういう場を設けよう、何か2人の為にしようっていう空気を感じ取って、逆に恋研に関わらないよう避けるんじゃないかな」

「じゃあ、どうするって話になるな」

「本当にどうしたらいいんでしょう。2人がまず、話せる機会を作らない事には……」

「そこで!」

静先輩が片目をつむる。

「押してもだめで引いてもだめならもっと押しちゃえ作戦でいこう!」

私とジロー先輩は無言で見つめ合った。

私達の反応の鈍さにしびれを切らして、静先輩がちょっと! とつっこむ。

「リアクションが欲しいよ、さみしいよ」

「悪い。俺はお前のネーミングセンスを疑ってる」

「私は静先輩のネーミングセンスがどうというより、その作戦がどんなものか全く想像がつかなくて、言葉に困ってます」

「まぁ、簡単にいえば、正攻法でいこうって事。やり方としては、まず普通に2人を呼び出す」

「それが一番難しいんだろ? 夏帆が心配してるのはそこだ」

ジロー先輩が私の気持ちを代弁してくれて、となりで私はこくこくと頷いた。

「まぁ、聞いてよ」

静先輩が話を進める。

「方法は超シンプル。『用があるから恋研の部室に来てください』って間山さんと岩切さん2人だけに伝わるやり方でお願いする。でもそもそも今、2人と面と向かって会話する事自体が俺達には厳しいよね。となると逆を言えば、面と向かって言わなければいいって話になる」

「……手紙でも書くとか?」

読んでくれるかなぁと心配になる私に、静先輩は首を横に振った。

「ううん。ちょっと変わった呼び出し方をするだけだよ」

「ちょっと変わった呼び出し方?」

普通に1年生の教室に行って、もう1度私達と話してみないかお願いに行くつもりだった私には、静先輩の頭の中のアイディアが全く見えない。

「武藤の真似をするみたいで、いささか気に食わないんだけどね」

そう前置きした上で、静先輩が不敵に笑った。

「放送室をジャックしよう」
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