桜ヶ丘中学校恋愛研究部

夏目知佳

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第10章

珍しいお客さん

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確か、この子は来栖さん……。2年A組の学級委員長をしている人だ。

「お客さん?」

「ほら、1年生」

来栖さんが指さす方を見ると、そこにはー……。

「あ、甘粕くん⁉」

少し居心地悪そうな顔をした、甘粕陽人くんが立っていた。



「どうしたの? 甘粕くん」

慌てて駆け寄る私に、甘粕くんは小さく頭を下げた。

「昼休みに、すみません」

「いいよ、いいよ。どうかした? 何か用事でも……」

甘粕くんが眉間に皺を寄せる。

「……な、何か、私おかしな事しちゃったかな?」

前、静先輩に本気で怒った甘粕くんの事を思い出して、私はおそるおそる聞いた。

「御手洗先輩、何か知らないですか。莉理と結の事」

「間山さんと岩切さん?」

実は、と話す甘粕くんの目の陰りで、彼が怒ってるのではなくて困ってるのだと分かった。

「口きいてないみたいなんです」

ああ、と声がもれそうになる。

「喧嘩したのかと思って聞くけど、2人とも違うって言うし、そもそもあの2人が喧嘩するとこなんか見た事ないし。なんか変だな、おかしいなと思って。そしたら、この間の白石先輩を思い出して」

背中に冷や汗がたらりと流れる。

こ、これはマズいよね?

甘粕くん、あの時の静先輩の演技を、事実だと受け止めてるよね⁉

「あ、いや。あのね、甘粕くん。静先輩はね」

「あの人、莉理と結の事好きって言ってたじゃないですか。あの日くらいから、2人の様子がおかしいんです。絶対何かあったに決まってる。御手洗先輩、何か知りませんか?」

知っているとも知らないとも答えられず口ごもる私を見て、甘粕くんはピンときてしまった様で。

「やっぱり、白石先輩が2人に何かしたんですね?」

そのままくるりと1年校舎ではなく、3年の校舎のある方へ進み始めたから、私は慌てた。

「え、ま、待って。待って。甘粕くん! 違うんだ。誤解なんだよ。って、そっち3年生の校舎だよ。何しに行くの⁉」

「殴りに行きます」

「暴力はだめだよ!」

「じゃあ、文句を言いに行きます。あの人が何かしたから、莉理も結も全然元気ないんです。目も合わそうとしないし。半端な気持ちで2人を傷つけたなら、許せません」

「甘粕くん」

「白石先輩にとっては、莉理も結もかえのきく女の子なのかもしれないけど。俺にとってはそうじゃない。大事な、大事な幼なじみなんだ!」

―私、大事な親友と同じ人を好きになってしまいました。

―わ、私の話を聞いてください。お願いします。お願いします。2人とも、大事な幼なじみなんです。

間山さんと岩切さんの切羽詰まった声が、頭の中に、もう1度響いた。

「……分かった」

彼を引き留めようとしていた手を引っ込める。

甘粕くんが、こちらを不思議そうに見つめ返した。

「分かった。甘粕くん。でも、ここは私に任せて欲しい」

「え?」

「私がこんなこと言える立場じゃないけど。間山さんと岩切さんの事、私もなんとかしてあげたいの。このままじゃだめだと思う。私を信じて、なんて言わない。けど、なんとかする。絶対に2人の事なんとかするから!」

ぽかんとして立ち尽くす甘粕くんを置いて、私は走り出した。

「お願い。待ってて!」

急げ、私。

誰かが廊下を駆け抜ける私に注意の言葉を投げた気がする。

振り返ってる暇はなかった。

目指すは、3年校舎。

静先輩とジロー先輩の教室だ。

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