桜ヶ丘中学校恋愛研究部

夏目知佳

文字の大きさ
上 下
29 / 42
第10章

珍しいお客さん

しおりを挟む
確か、この子は来栖さん……。2年A組の学級委員長をしている人だ。

「お客さん?」

「ほら、1年生」

来栖さんが指さす方を見ると、そこにはー……。

「あ、甘粕くん⁉」

少し居心地悪そうな顔をした、甘粕陽人くんが立っていた。



「どうしたの? 甘粕くん」

慌てて駆け寄る私に、甘粕くんは小さく頭を下げた。

「昼休みに、すみません」

「いいよ、いいよ。どうかした? 何か用事でも……」

甘粕くんが眉間に皺を寄せる。

「……な、何か、私おかしな事しちゃったかな?」

前、静先輩に本気で怒った甘粕くんの事を思い出して、私はおそるおそる聞いた。

「御手洗先輩、何か知らないですか。莉理と結の事」

「間山さんと岩切さん?」

実は、と話す甘粕くんの目の陰りで、彼が怒ってるのではなくて困ってるのだと分かった。

「口きいてないみたいなんです」

ああ、と声がもれそうになる。

「喧嘩したのかと思って聞くけど、2人とも違うって言うし、そもそもあの2人が喧嘩するとこなんか見た事ないし。なんか変だな、おかしいなと思って。そしたら、この間の白石先輩を思い出して」

背中に冷や汗がたらりと流れる。

こ、これはマズいよね?

甘粕くん、あの時の静先輩の演技を、事実だと受け止めてるよね⁉

「あ、いや。あのね、甘粕くん。静先輩はね」

「あの人、莉理と結の事好きって言ってたじゃないですか。あの日くらいから、2人の様子がおかしいんです。絶対何かあったに決まってる。御手洗先輩、何か知りませんか?」

知っているとも知らないとも答えられず口ごもる私を見て、甘粕くんはピンときてしまった様で。

「やっぱり、白石先輩が2人に何かしたんですね?」

そのままくるりと1年校舎ではなく、3年の校舎のある方へ進み始めたから、私は慌てた。

「え、ま、待って。待って。甘粕くん! 違うんだ。誤解なんだよ。って、そっち3年生の校舎だよ。何しに行くの⁉」

「殴りに行きます」

「暴力はだめだよ!」

「じゃあ、文句を言いに行きます。あの人が何かしたから、莉理も結も全然元気ないんです。目も合わそうとしないし。半端な気持ちで2人を傷つけたなら、許せません」

「甘粕くん」

「白石先輩にとっては、莉理も結もかえのきく女の子なのかもしれないけど。俺にとってはそうじゃない。大事な、大事な幼なじみなんだ!」

―私、大事な親友と同じ人を好きになってしまいました。

―わ、私の話を聞いてください。お願いします。お願いします。2人とも、大事な幼なじみなんです。

間山さんと岩切さんの切羽詰まった声が、頭の中に、もう1度響いた。

「……分かった」

彼を引き留めようとしていた手を引っ込める。

甘粕くんが、こちらを不思議そうに見つめ返した。

「分かった。甘粕くん。でも、ここは私に任せて欲しい」

「え?」

「私がこんなこと言える立場じゃないけど。間山さんと岩切さんの事、私もなんとかしてあげたいの。このままじゃだめだと思う。私を信じて、なんて言わない。けど、なんとかする。絶対に2人の事なんとかするから!」

ぽかんとして立ち尽くす甘粕くんを置いて、私は走り出した。

「お願い。待ってて!」

急げ、私。

誰かが廊下を駆け抜ける私に注意の言葉を投げた気がする。

振り返ってる暇はなかった。

目指すは、3年校舎。

静先輩とジロー先輩の教室だ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン男子とドキドキ同居!? ~ぽっちゃりさんの学園リデビュー計画~

友野紅子
児童書・童話
ぽっちゃりヒロインがイケメン男子と同居しながらダイエットして綺麗になって、学園リデビューと恋、さらには将来の夢までゲットする成長の物語。 全編通し、基本的にドタバタのラブコメディ。時々、シリアス。

トウシューズにはキャラメルひとつぶ

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。 小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。 あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。 隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。 莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。 バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。

甘い香りがする君は誰より甘くて、少し苦い。

めぇ
児童書・童話
いつもクールで静かな天井柊羽(あまいしゅう)くんはキレイなお顔をしていて、みんな近付きたいって思ってるのに不愛想で誰とも喋ろうとしない。 でもそんな天井くんと初めて話した時、ふわふわと甘くておいしそうな香りがした。 これは大好きなキャラメルポップコーンの匂いだ。 でもどうして? なんで天井くんからそんな香りがするの? 頬を赤くする天井くんから溢れる甘い香り… クールで静かな天井くんは緊張すると甘くておいしそうな香りがする特異体質らしい!? そんな天井くんが気になって、その甘い香りにドキドキしちゃう!

クリスマスまでに帰らなきゃ! -トナカイの冒険-

藤井咲
児童書・童話
一年中夏のハロー島でバカンス中のトナカイのルー。 すると、漁師さんが慌てた様子で駆け寄ってきます。 なんとルーの雪島は既にクリスマスが目前だったのです! 10日間で自分の島に戻らなければならないルーは、無事雪島にたどり着けるのでしょうか? そして、クリスマスに間に合うのでしょうか? 旅の途中で様々な動物たちと出会い、ルーは世界の大きさを知ることになります。

鳥の詩

恋下うらら
児童書・童話
小学生、名探偵ソラくん、クラスで起こった事件を次々と解決していくお話。

がらくた屋 ふしぎ堂のヒミツ

三柴 ヲト
児童書・童話
『がらくた屋ふしぎ堂』  ――それは、ちょっと変わった不思議なお店。  おもちゃ、駄菓子、古本、文房具、骨董品……。子どもが気になるものはなんでもそろっていて、店主であるミチばあちゃんが不在の時は、太った変な招き猫〝にゃすけ〟が代わりに商品を案内してくれる。  ミチばあちゃんの孫である小学6年生の風間吏斗(かざまりと)は、わくわく探しのため毎日のように『ふしぎ堂』へ通う。  お店に並んだ商品の中には、普通のがらくたに混じって『神商品(アイテム)』と呼ばれるレアなお宝もたくさん隠されていて、悪戯好きのリトはクラスメイトの男友達・ルカを巻き込んで、神商品を使ってはおかしな事件を起こしたり、逆にみんなの困りごとを解決したり、毎日を刺激的に楽しく過ごす。  そんなある日のこと、リトとルカのクラスメイトであるお金持ちのお嬢様アンが行方不明になるという騒ぎが起こる。  彼女の足取りを追うリトは、やがてふしぎ堂の裏庭にある『蔵』に隠された〝ヒミツの扉〟に辿り着くのだが、扉の向こう側には『異世界』や過去未来の『時空を超えた世界』が広がっていて――⁉︎  いたずら好きのリト、心優しい少年ルカ、いじっぱりなお嬢様アンの三人組が織りなす、事件、ふしぎ、夢、冒険、恋、わくわく、どきどきが全部詰まった、少年少女向けの現代和風ファンタジー。

月神山の不気味な洋館

ひろみ透夏
児童書・童話
初めての夜は不気味な洋館で?! 満月の夜、級友サトミの家の裏庭上空でおこる怪現象を見せられたケンヂは、正体を確かめようと登った木の上で奇妙な物体と遭遇。足を踏み外し落下してしまう……。  話は昼間にさかのぼる。 両親が泊まりがけの旅行へ出かけた日、ケンヂは友人から『旅行中の両親が深夜に帰ってきて、あの世に連れて行く』という怪談を聞かされる。 その日の放課後、ふだん男子と会話などしない、おとなしい性格の級友サトミから、とつぜん話があると呼び出されたケンヂ。その話とは『今夜、私のうちに泊りにきて』という、とんでもない要求だった。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

処理中です...