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第9章
馬鹿みたい
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「御手洗先輩達に話を聞いてもらった時、結は陽人の事がずっと好きだったって伝えたのに、陽人の気持ちは知らないふりをした。知ってたのに。まるで自分に可能性があるみたいな言い方しました。ごめんなさい。私、……すっごく卑怯。自分が嫌になります」
「間山さん……」
「馬鹿みたい。私、性格悪い。そもそも陽人の事、好きになる資格なんてない」
彼女の大きな目から、涙が溢れる。
幾筋も落ちていく涙に心が痛くなる。
「どこから、話聞いてたの?」
「ほぼ、全部です。今日、恋研の部室に行って白石先輩の提案……『結から陽人を奪う』っていうの、正式に断ろうと思って。それは私には無理だって、ちゃんと言わなきゃって思って。そしたら部室の前に結がいて。入るに入れなくなりました。でも、まさかあんな事言うなんて思わなかった」
「うん、そうだね。私も岩切さんの話を聞いてびっくりしたよ」
でも、と心に浮かんだ言葉はそのまま間山さんに伝える事にする。
「不思議ではなかったよ。驚いたけど、心のどこかで岩切さんが恋研の部室までやって来た時、ああいう風に言うだろうなって気がしてた」
「え……」
「静先輩達も、岩切さんが尋ねてきた時点で薄々想像してたんじゃないかな」
「ど、どうしてですか?」
切なさをいっぱい湛えた目が、こぼれ落ちそうな気持ちを必死で耐えている。
「どうしてだと思う?」
制服のポケットからハンドタオルを取り出して、そっと間山さんへと渡す。
受け取った間山さんは、分からないと呟いた。
「だって、間山さんが大事な幼なじみの事を、これだけ思いやれる人だから。間山さんとずっと一緒にいた岩切さんと甘粕くんもきっと間山さんと同じくらい素敵な人に決まってるから」
「……」
「甘粕くん言ってたよ。静先輩が甘粕くんの気持ちを確かめる為に、わざと間山さんや岩切さんに気があるふりをして挑発する様な物言いをしたの。そしたらね、本気で怒ってた。『莉理や結に何かしたら絶対に許さないから』って」
「陽人が?」
「皆、すごいよ。そうやってずっとお互いの事を大事にし合ってきたんだね」
我慢していた気持ちが弾けて泣き出す彼女の背中を、ゆっくりさする。
泣いてしまえるくらいに誰かを好きになれる間山さんを心の底からすごいと思った。
痛くても、辛くても、間山さんは静かに幼なじみ2人の幸せを祈る方を選んだ。
どんなに苦しい選択だろうなって思う。
卑怯だなんて、とんでもない。
こんなに格好いい退き方は他のどこを探してもないよ。
「間山さんは卑怯じゃない。性格悪くなんてない。その逆だよ。世界一格好いい、素敵な女の子だよ」
夕暮れが校舎を覆っていく。
「御手洗先輩……」
「ん?」
「ありがとうございます」
オレンジ色の光が優しく私達を照らす。
隣に座る間山さんが、涙の乾いた顔で空を見上げた。
「間山さん……」
「馬鹿みたい。私、性格悪い。そもそも陽人の事、好きになる資格なんてない」
彼女の大きな目から、涙が溢れる。
幾筋も落ちていく涙に心が痛くなる。
「どこから、話聞いてたの?」
「ほぼ、全部です。今日、恋研の部室に行って白石先輩の提案……『結から陽人を奪う』っていうの、正式に断ろうと思って。それは私には無理だって、ちゃんと言わなきゃって思って。そしたら部室の前に結がいて。入るに入れなくなりました。でも、まさかあんな事言うなんて思わなかった」
「うん、そうだね。私も岩切さんの話を聞いてびっくりしたよ」
でも、と心に浮かんだ言葉はそのまま間山さんに伝える事にする。
「不思議ではなかったよ。驚いたけど、心のどこかで岩切さんが恋研の部室までやって来た時、ああいう風に言うだろうなって気がしてた」
「え……」
「静先輩達も、岩切さんが尋ねてきた時点で薄々想像してたんじゃないかな」
「ど、どうしてですか?」
切なさをいっぱい湛えた目が、こぼれ落ちそうな気持ちを必死で耐えている。
「どうしてだと思う?」
制服のポケットからハンドタオルを取り出して、そっと間山さんへと渡す。
受け取った間山さんは、分からないと呟いた。
「だって、間山さんが大事な幼なじみの事を、これだけ思いやれる人だから。間山さんとずっと一緒にいた岩切さんと甘粕くんもきっと間山さんと同じくらい素敵な人に決まってるから」
「……」
「甘粕くん言ってたよ。静先輩が甘粕くんの気持ちを確かめる為に、わざと間山さんや岩切さんに気があるふりをして挑発する様な物言いをしたの。そしたらね、本気で怒ってた。『莉理や結に何かしたら絶対に許さないから』って」
「陽人が?」
「皆、すごいよ。そうやってずっとお互いの事を大事にし合ってきたんだね」
我慢していた気持ちが弾けて泣き出す彼女の背中を、ゆっくりさする。
泣いてしまえるくらいに誰かを好きになれる間山さんを心の底からすごいと思った。
痛くても、辛くても、間山さんは静かに幼なじみ2人の幸せを祈る方を選んだ。
どんなに苦しい選択だろうなって思う。
卑怯だなんて、とんでもない。
こんなに格好いい退き方は他のどこを探してもないよ。
「間山さんは卑怯じゃない。性格悪くなんてない。その逆だよ。世界一格好いい、素敵な女の子だよ」
夕暮れが校舎を覆っていく。
「御手洗先輩……」
「ん?」
「ありがとうございます」
オレンジ色の光が優しく私達を照らす。
隣に座る間山さんが、涙の乾いた顔で空を見上げた。
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