桜ヶ丘中学校恋愛研究部

夏目知佳

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第8章

もう1人の依頼者

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私達の視線を受けて、1年生はおずおずと自分の名前を告げた。

「あ、あの、私。岩切結っていいます……」

戸口に立っていた静先輩がこちらを見る。

「だ、大事な幼なじみの事で来ました! 桜ヶ丘中学校恋愛研究部の部室はこちらで合ってますか?」

これには奥のソファーに座っていたジロー先輩が答えた。

「ああ、合ってる。君の言うとおり、ここが恋研の部室だ。こちらも確認したい。君は、1年生の……間山莉理さんと甘粕陽人くんの幼なじみの『岩切結さん』だよな?」

岩切さんが目をぱちぱちと瞬いた。

「どうして、それを知って……あ!」

岩切さんが何かに気づいた様に小さく叫んだ。

「莉理ちゃんですか? 莉理ちゃんが……私より早く、恋研に何か依頼したんですか?」

静先輩達は何も言わない。

事情を知っている私も、黙っていた。

それを岩切さんは無言の肯定だと受け取ったんだと思う。

さっと顔面蒼白になったかと思うと、1歩踏み出し、静先輩を見上げて言った。

「わ、私の話を聞いてください。お願いします。お願いします。2人とも、大事な幼なじみなんです。だから……」

私は思わずソファーから腰を浮かせて、岩切さんに駆け寄った。

泣き出しそうな岩切さんの肩をとんとんとゆっくり叩く。

「落ち着いて、岩切さん。大丈夫、大丈夫だよ。―静先輩っ」

静先輩が真剣な顔で頷いた。

「話を聞かせてくれるかな、岩切さん。奥のソファーへどうぞ」



静先輩の淹れた温かい紅茶を飲んでほっとしたのか、岩切さんの表情はさっきより柔かい。

「紅茶に含まれるテアニンっていう成分はね、気持ちがリラックスして頭がすっきりする効果があるんだよ」

紅茶に関する豆知識を披露した後、静先輩が岩切さんへ尋ねた。

「単刀直入に言うね。君はさっき、『2人とも大事な幼なじみなんです』って言った。それは間山さんと甘粕くんの事だ。そして、わざわざ恋研を訪ねて来てくれたところをみると……話って言うのは『恋愛』に関する事、そしてそれは、君達3人の中でうまれた恋愛感情で間違いないかな?」

岩切さんがびっくりした顔で静先輩を見つめる。

それから、観念したかの様に小さく首を縦に振って、ぽつりと言った。

「莉理ちゃんが、恋研の皆さんになんて言ったか聞いてもいいですか?」

ジロー先輩が「それは出来ない」としずかに、理性的に言った。

「依頼者の守秘義務がある。いくら君が間山さんと親しい間柄でも、依頼内容は漏らせないんだ」
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