桜ヶ丘中学校恋愛研究部

夏目知佳

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第8章

状況を整理しよう

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とりあえず、いったん部室に戻って話を整理しようと言ったのはジロー先輩だった。

「静が煽った結果、あれが甘粕くんの本心なら話が複雑になってくるな」

生徒会長から私物の撤去命令が出ている古書資料室内に、静先輩の淹れる芳しい紅茶の香りが広がっていく。

「今日はダージリンにしてみました~」

「相変わらずおいしいです」

「これだけは本当に感心するよな」

カップに口をつけつつ、ジロー先輩が依頼帳をひらく。

「ジロー先輩、そのノートって」

隣でノートを覗き込むと、ジロー先輩が見やすい様にこちらへ差し出してくれた。

「これか? これは今までの依頼や相談、読んだ少女漫画の感想までなんでも書き付けてるいわゆる雑記帳だ。依頼者の前で、雑記帳と書かれたノートをひらく訳にはいかないから、依頼帳と書いてるんだ」

シャープペンシルをカチカチと鳴らして、ジロー先輩が依頼帳に大きな三角を描いた。

「てっぺんを今回の依頼主の間山莉理さんだとする。で、底辺の右側を甘粕くん。左側を岩切さん」

間山さんから甘粕くんの方へ矢印が引かれる。

「この矢印を相手への好意とすると……」

岩切さんから甘粕くんへも好意の矢印が描かれる。

そして、最後に甘粕くんから岩切さんの方へも逆矢印が伸びて、2人の間にジロー先輩が◎の印をつけた。

「相関図ってヤツだね」

紅茶に砂糖を落としながら静先輩が「見事な三角関係だよね」感心したように言った。

「俺は基本、爽やか恋愛ものが好きだけど、時々仲のいい幼なじみの間に走る恋の亀裂も春風ゆかり先生にぜひ描いて欲しい派」

「春風先生が描くとなんでも面白いからな」

「神だよね、もはや」

「静先輩、ジロー先輩! これ漫画じゃないですよ。この相関図を見ると、間山さんの依頼には恋研は応えられなくなっちゃうんじゃ……」

3人で、頭を寄せ合い、うーんと考える。

その時だった。

控えめなノックの音がしたのは。

寄せていた頭を離して、3人それぞれが部室の入り口を見遣る。

「誰だ?」

「間山さん、ですかね?」

「いや、ここは裏をかいて武藤じゃない?」

え? と私とジロー先輩が振り返った時には既に、静先輩はソファーから立ち上がっていた。

「きっと、俺達がしおらしく部室に置いた私物を片づけてるか様子を見に来たんだよ。そうはいかないよーだ! 絶対出て行かないもんね。武藤の思いどおりになんかさせないんだから!」

勢いよく静先輩が戸を横に引く。

するとー……。

「えっ、きゃあ⁉」

眼鏡をかけた2つ結びの1年生が目を見開いて、部室の前に立っていた。
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