桜ヶ丘中学校恋愛研究部

夏目知佳

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第2章

1年生のお客さん

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「……はい?」

上機嫌でにこにこ話す静先輩を見て、目が点になってしまう。

さっきの2年A組の教室で先輩達が言ってた「桜ヶ丘中学校恋愛研究部へようこそ!」ってそういう意味だったの⁉

私は口をパクパクさせながら、なんとか言葉を紡いだ。

「で、でも私はまだ他の部活の見学とか行ってなくて……」

静先輩が眉を八の字にした。

「え……。だめ? うちの部に入るの嫌?」

うっ! そ、そんな雨の日に捨てられた子犬のような顔をしないで~!

「嫌という訳じゃなくて……。その」

言い訳を探していたら、今度は静先輩がパアァと顔を明るくした。

「じゃあ、入ってくれるんだね!」

さっきとはうってかわって、キラキラしたスマイルを向けられて本日2度目のどうしよう! を私は心の中で叫んだ。

これじゃ、「はい」とも「いいえ」とも言えないよー!

静先輩もジロー先輩も私の返事を持っている。

これからずっと活動する部活だし、もっと慎重に選んだ方がいいよね?

そもそも「恋愛研究部」って何をする部活なんだろう? 

部室に少女漫画がいっぱいあるから、少女漫画を沢山読んで研究する部活なのかな?

浮かんだ疑問を解決すべく、「あの!」と私が先輩達に話しかけるのとほぼ同時だった。

3回のノックの後、ガララと古書資料室もとい恋愛研究部の戸が開かれる。
視線をそちらへ向けると、襟もとに赤いリボンをしたショートカットの女の子が立っていた。

「すみません。ここ、恋研の部室ですよね?」

緊張しているのが、女の子の声は少し硬い。

赤いリボンって事は学年は1つ下。1年生だ。

静先輩がのんびり答える。

「うん。ここがかの有名な桜ヶ丘中学校恋愛研究部で間違いないよ~。どうしたの? 図書委員の子かな? 図書委員長に恋研が騒がしいからクレーム言ってこいって図書室から派遣された?」

1年生の女の子は一瞬ぽかんとした後、慌てた様子で胸元で両手を振り、否定した。

「ち、違います。私図書委員じゃありません。ええと、その、お願いがあって……」

勝気そうな目を伏せて、女の子は言い淀む。

その様子を見て、静先輩とジロー先輩がアイコンタクトを取った。

ジロー先輩が口を開く。

「そのお願いは恋研への『依頼』と受け取っても?」

女の子はためらいつつも、意を決したように頷いた。

「おいでおいで~。話を聞くよ」

静先輩が入り口に立つその子を自分達の部室に招き入れる。

『お願い』とか『依頼』とか一体何の事だろう?

恋研にお願いがあるってこの子、言ったよね。

って事は、この子が用があるのは静先輩とジロー先輩の2人なわけで。

私、部員じゃないし、ここにいちゃマズいんじゃないかな。

案の定、1年生は私の方をちらりと見遣り、「恋研の部員は3年生が2名のはずじゃ……」と困惑気味に言った。

「あの、お客さんが来られたみたいなので、私はこれで……」

失礼しますね、と続ける予定だったのに。

「この子は御手洗夏帆ちゃん」

ぽんと両肩に手を置かれて、私は静先輩を見上げる。

「3人目の恋研メンバーです。なので一緒に君の話を聞いてもいいかな?」

え? 

ええええ!

ちょっと待って! 静先輩、何を言ってるんですか⁉
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