桜ヶ丘中学校恋愛研究部

夏目知佳

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第1章

2人の先輩

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教室内にいた女子のグループが入り口の方を向いて、ひそひそ声で話をしている。
「3年生だよね? あの人達」

「何してるのかな。格好良くない?」

「私、結構タイプかも~!」

「どっちとも背、高いね」

「でもさ、確か、あの2人組って……」

ざわめきが一瞬やんだ。

なんだったのかな? 気になって、顔を上げた瞬間。

「御手洗夏帆ちゃん、いるー?」

ものすごく大きな声で名前を呼ばれて、私は固まった。

「夏帆ちゃーん! 御手洗夏帆ちゃーん! あれ、返事ないね。いないのかなぁ。もしかして教室違う感じ? ジローちゃん」

「いや、合ってる。5日前にうちに転校してきた御手洗夏帆は2年A組のはずだ」

「席、外してるのかなぁ?」

緩いパーマをかけているような柔らかそうな短髪、白いニットベストにサックスブルーのシャツ、羨ましいくらいくっきりとした二重の目をした人と、その人より少しだけ上背のある切れ長の目をした紺のパーカーを羽織る眼鏡の人が突然2年A組の教室に入って来た。

共通してるのはどちらともブルーのタイをしている事。

桜ヶ丘中学校はネクタイやリボンを学年ごとに分けていて、ブルーは3年生、グリーンは2年生。レッドは1年生なんだ。

って事はあの2人は3年生の先輩の筈で、……でも私、3年生に知り合いいないんだけど!

「どこ行っちゃったのかな。ま、いいや。ちょっとここで待ってようよ」

「迷惑じゃないか?」

「全然迷惑じゃないけど」

「静、お前じゃない。御手洗夏帆に迷惑じゃないかって言ってるんだよ」

「えー。なんで? どこが迷惑?」

「うるさいお前の存在が、だよ」

「……ジローちゃん、俺に失礼過ぎない?」

静と呼ばれた騒がしい先輩と、ジローちゃんと呼ばれる眼鏡をかけたクールそうな先輩がのんびり歩きながら窓際の私の席近くまでやって来た。

昼休みだから、グラウンドや体育館へ遊びに行っている子もいて、私の前後の席は誰も座っていない。

がたり、と前の椅子が引かれて『静先輩』が当たり前のように腰かける。『ジロー先輩』の方は立ったままだ。

「夏帆ちゃんがうちに入ってくれれば、これで部員3人。正式に部室ゲットだね!」

「入るかどうかはまだ分からないだろ」

「入るよ、絶対入る。っていうか入れる。もう、古書資料室に荷物運び入れちゃったしね」

目の前の椅子が傾いて、後ろへ倒れる。背もたれが、私の机に当たった。

「あ、ごめんね」

「い、いえ!」

ぎこちなく目を逸らすと、「あれ?」静先輩が首を傾げる。

「それ、うちの学校の部活動一覧だよね」

「……」

ぎくっ。

視線を左右に泳がせる私の顔を静先輩が覗き込む。

「もしかして……御手洗夏帆ちゃん⁈」

思いのほか静先輩の声が響いて、クラス中の視線がこちらに集中する。

「5日前にうちに転入してきた御手洗夏帆ちゃんだよね?」
 
「え、ええと。その……」

じろじろ皆に見られて口をもごもごさせる私に対し、途端に笑顔になる静先輩と眼鏡のブリッジを上げるジロー先輩。

一体何なの?

なんで3年の先輩達が2年の私の名前を知ってるの?

名乗った覚えもないし、こんな目立つ先輩達と校内ですれ違った覚えもないよ~!

涙目で怯える私に、差し出された静先輩の右手とジロー先輩の左手。

うん? これって、握手しようって事かな?

訳の分からないまま、とりあえず両手を使って握り返した私へ2人が言った。

「ようこそ、桜ヶ丘中学校恋愛研究部へ!」
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