秀才くんの憂鬱

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八岐大蛇 です。

光 です。

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 引き抜かれた剣先から紅い血が滴る。
蛇行した剣は今までに見たことがない、計算し尽くされた芸術作品。5人は大きく天に掲げるようにして、この手に持っているところから、剣先までを見る。
「綺麗だ」
「うん…」
願いを叶える力がある それはこの完璧な剣を前にすると冗談だとは思えない。

ゆっくりと剣を下げる。
「誰が持つ?」
シキは、剣から手を離す。
「私は、ユウが持つべきだと思う」
「え、僕?」
「伝説上の八岐大蛇が存在したんだ。だったら、この剣は青目の王子が持つのが妥当、そんなことは、ユウ自身だって分かるだろう?」
「そうだよ、それに、ユウが言い出さなかったら、私なんてこの旅に出られなかったし」
サワもユウが持つべきだと言った。
「そうそう」
イチナが剣から手を離し、イリナも手を離す。
そうして、剣を握る手の持ち主はユウだけになる。
ユウは深く頭を下げる。
「僕が責任を持って、この剣を帯剣します」
ユウは、剣を上に羽織っていた服でくるんで、それを背中に背負う。

「いい!似合ってる!」
「いや、あんまり、変わらないよ」
そう言いつつ、満更でもなさそうなユウ。





 ユウたち一行は、目的を達成して、洞窟から出てくる。久々の新鮮な空気。大きく伸びをして、肺一杯に空気を取り込む。
ユウは、髪の毛を前から後ろへかきあげた。
見晴らしがいい展望台っぽくなっている洞窟の出口。
サワが、開けた視界のある一点を指差す。
その指先には、山を食べるみたいな大きな橙の夕日。空を淡い赤紫に染めて、雲を桃色に照らす。僕らに今日、何があったかなんて、知らないまま、いつもと同じように静かに沈む夕日。
「なんか、良くない?」
そう言ってこちらに振り向いて笑ったサワ。サワのその子供っぽい仕草に、ユウも思わず笑顔になる。
「そうだな」
ユウはサワの隣に立って同じ夕日を見つめる。サワのその端整な顔が、西日を受けて、より一層美しくなる。なんだろうか、この言いようのない、胸がジワーッと暖かくなる。八岐大蛇と戦った興奮も、剣を手にいれた興奮も、そんなのとはまるで違う、喜びにも似た感情が止めどなく溢れ出してくる。


二人並んだ影が、大きく伸びる。男の影に女の影が寄り添って境界を無くした影は一つの影になる。



シキは、イチナを呼んだ。
「どうしたの?肩の薬草なら…」
イチナは呼ばれたから、来たといった感じで、俺の何も知らない。
「ありがとう」
シキが捻り出した、「愛してる」の代替語。
自由な方の腕で、イチナを抱き寄せた。ドキドキと鼓動が速まり、イチナにも伝わってしまいそうだ。目を瞑って、イチナをギュッと抱きしめた。
「…シキ」
イチナは視線を下に向けて、そう呟いて、シキの腕を振りほどいた。
「え…」
「ごめん」
イチナは戸惑いの顔を浮かべる。その表情の中には、少しばかり俺を拒否するような、そんな感じがした。
シキは落胆を隠す。自分の気持ちを伝えない、隠すこと、それには、慣れっこだから。この関係が俺の一言で無くなるのなんかよりもずっとそっちの方が楽。
「急だった、驚かせてごめんな」
シキは、謝る。
すると、目の前に立つイチナは柔らかく微笑んで、手を差し出した。シキは、服で、手についた汚れを払って、イチナの手を握る。
「私の方こそ、ありがとう、シキ」
「改めて、ありがとう」
俺らは仲間だから。だからこそ、君を好きになっちゃダメだ。


「おーい、3人ともこっちにおいでよ」
サワがシキとイチナとイリナを呼ぶ。
「なんか、見えるの?」
イチナがサワの方に駆ける
「うん、ほら、あそこに村が!」
「あ、本当だ!」
「なんて、村か分かるかい?」
ユウはシキに訪ねてみる。
「分からないな、近づいたら分かるかもだけど、ここからはちょっと」
「取りあえず行ってみないか?米も減ってきているし、傷の手当て用の布も欲しくて」
「了解!」

5人と2頭は再び、歩きだした。
ユウの背中には一本の蛇行剣。5人を繋いだ剣を持って、進む道は、光が射し込む新しい道になる。
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