秀才くんの憂鬱

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八岐大蛇 です。

声 です。

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 シキとイチナとイリナも洞窟に入る。

「八岐大蛇を捕まえれば英雄になり、もてはやされること間違いないな」
そう言って、ヘラヘラと笑ったシキ。
「まあ、そうだろうけど」
イチナはシキの発言にちょっとばかり呆れる。

イリナは無言で歩き続ける。
イチナはそんなイリナに話しかける。
「イリナは、ここまで来たことある?」
「分かりません、ごめんなさい」
「そっか、良いの良いの」
生け贄にされた時、イリナがどこまで行ったのか分からない。本当に八岐大蛇の目の前まで行ったのか、洞窟の外か、あるいはもっと離れたところなのか。
「それにしても、この洞窟はどこまで続いてるんだ?」
昼間とは思えない暗さと、湿った地面。そして、行き止まりかそうでないかすら明らかにはならない見えない道。
「さぁ?」
「ユウたちならそろそろ着いたかな?」
「どうだろう?」
連絡手段は持ち合わせていない。

「危ない!」
イリナが突然に大きな声を出したので、シキはグッと翡翠の手綱を引く。翡翠は大人しく制止する。
「一体何が…」
イリナが上を見上げたので、シキとイチナも上を見る。
「伏せろ!」
シキはそう言うと、翡翠から、飛び降りてイチナとイリナを覆うようにする。
洞窟の天井の一部が凄い轟音を立てながら堕ちてくる。地面が揺れているような感覚さえする。
 はじめは砂が落ちてきたと思っていたら、次の瞬間には、天井の一部が抜け落ちて、天井にぽっかりと穴が空く。大量の砂煙が舞い上がり、呼吸をするのも辛い。

取りあえず、落石と砂煙がマシになって、イチナは顔をあげる。
「二人とも大丈夫?」
自分の手は、サラサラジャリジャリとして砂がついている。でも、痛い所はない。
「大丈夫です」
イリナもどうやら無事らしい。全身砂まみれだけど、助かったならそれで良い。
「二人が無事で良かった」
「シキは?」
「なんとか」
そう言いながら、シキはイチナの背中を触る。イチナは、シキの手の甲を精一杯の力でつねる。
「ほんと、無事で良かったね!」
「イテテテテ」
シキはようやく退いてくれる。シキは立ち上がると、フーフーと手の甲に息を吹きかけた。
「ね、さっさとここを離れないとまた」
「でも、イチナ、道が…」
進行方向にある道は、さっきのことで完全に塞がっていた。正確には、天井との僅かな隙間を残して、道は塞がっていた。
「え…」
「安心して。私が、これを登ってから向こう側に降りて確認する」
シキはそう言って、落石をよじ登る。
「いや、でも」
まだ肩は本調子ではないようで、シキは、痛めた左には明かに、可動域も狭いし、力はかけていない。だから、引きかえそう とイチナはシキを呼び止めた。
「大丈夫…な、はず」
シキはそう言うと、私の制止なんかまったく聞くことなく登っていく。
「不安ですか?」
イリナがそう聞いてきた。
「当たり前でしょ、だって、あの人、肩を怪我しているんだから」
ゴクっと唾を飲む。
「すみません、私のせいで、怪我を負わせるような結果になってしまって」
「イリナちゃん、そんなこと、全然気にしなくて良いんだ。イリナちゃんのおかげで落石だって免れたんだから」

シキは、使える方の腕と脚を最大限に使って、落石をよじ登って、天井との僅かな隙間に体を滑り込ませて、反対側に降りる。反対側につく頃には、指紋が血で滲んでいた。当然、服は全面が砂色になっている。

「シキー、降りれたー?」
イチナの声が飛んでくる。
「はい!」
見えはしないが、シキは大きく手を振ってそう言った。できる限りの明るい声で。
 その声を聞いて、イチナは大きく息を吐いた。緊張の糸がフッと緩むのが自分でも分かった。でも、すぐに切り替えないと。ここまで、来たんだ。シキが必死に向こうに渡ったんだから、引き返そうなんて言わない。無事に、任務を達成するまで気を抜くな。

「イリナ、先に行って。翡翠は、ここで待ってて」
翡翠は、ブルルと鼻を鳴らす。分かってくれたのかな。
「登って、向こう側に降りたら良いですか?」
「うん、シキが待っていると思うから、そこで一緒に居て」
「分かりました」
イリナは落石の姿形を目視することは出来ない。だから、イチナが下から見守りながら、指示を飛ばす。どれくらい右か、左か。足場が安定するのはどこか。
イリナは、怖がる素振りなんてまったく見せることなく進んでいく。その様子は、イチナから見ると少し怖かった。イリナは、記憶を失くしたときに、感情の一片も失っているんじゃないかと。昔から大人びてはいたかもしれないが、それでも、高いところや、それこそ洞窟の中なんて怖がっていた記憶がある。

「シキ!イリナが、そっち側に行ったら、イリナにどうやって降りていくか教えてあげて!」
「分かった!」

 イリナが細い隙間を通ったことを確認してから、イチナは、翡翠に負わせた荷物から、必要なものを厳選して、肩掛けの麻の鞄に入れる。



 全員が無事に落石を乗り越えることが出来た。
「印を辿ると、こっちの道だな」
「うん」




その頃、ユウとサワは、洞窟内の巨大な空間を目の前にしていた。
 上にも下にも空間は広がって、濃い霧から上も下も果てを確認することは不可能。内部にこんな構造を持つ洞窟は邪馬台国では確認されていない。山を内側から巨人の手でくりぬいたみたいな空洞。空洞の壁をなぞるように出来た溝からうっかりに落ちないように、慎重に歩みを進める。溝は、上から下まで螺旋を描くようにして繋がっている。溝の幅は、人一人分といったところか。ヒュオーヒュオーと、風が渦を巻くみたいに発生していて体を大きく煽られる。

「ユウ、何この洞窟、こっちで本当に合ってんの?」
ユウは、壁に所々、穴が空いているのを確認する。おそらく、その穴は、どこかの道に繋がっているんだろう。穴は、ちょうど縦に1m80、横に1mと人が通れる大きさで、ユウたちがこの空洞に到達する直前まで通っていた道の幅とぴったりと一致する。
「どの道を通って来たってここに出ていたはずさ」
「じゃあ、ここが八岐大蛇の寝床なのかな?」
「その可能性は十分にあるな…」

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