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古仲間 です。
特訓 です。
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すぐ側に なんて言われても実感が湧かないまま次の日の朝。
パァァン!
「甘い!相手の次を予測しろ!」
「はい!」
外から聞こえるユウの声で目を覚ました。
「ユウ、おはよう」
稽古の合間を見て、ユウに水を持っていく。
「おはよう、水?ありがとう」
「シキの師匠と稽古?」
「あぁ、手がジンジンする」
ユウの手は赤くなっていた。
「大丈夫?」
「こんなにきつい朝稽古は久々だ。やっぱり、鈍ってたのかな?」
ハハッとため息混じりに笑ったユウ。
「毎日、やってるのに?」
「それじゃ、ダメなんだ。僕は、強くならないと」
「十分強いと思うけどなー」
サワはそう言って、ユウの赤くなった手をそっと触る。
「約束したんだ、カンさんと。サワのことを絶対に守るって」
ユウはサワの手を包み込むみたいに握った。
「いや多分それ、稽古とかでどうにかなる物理的な戦闘力の話じゃないよ。だって、私単体でも結構強いし」
照れからか、斜め上を見て誤魔化すサワ。
「そうだったとしても、僕は、サワがイトスギに切られて気を失った間、怖くてたまらなかったんだ。だから、サワのこと、今度は、僕に守らせてほしい」
「ふーん、そんな風に思ってたんだ」
「当たり前だろう?僕にとって、サワは、簡単に見放すことのできない存在だし、文字通り命懸けで守りたい存在なんだから」
そういうと、ユウは稽古に戻ろうとする。
「っへ?ちょ、もう一回!ね、もう一回言って!」
「は、恥ずかしいだろう」
顔を赤くしたユウ。
「恋人とのお喋りは終わったか?」
「は、はい…ハハ」
聞かれていたのか!
「彼女は手練れと見えるが、彼女は何者だ?」
「邪馬台国の警学校の学生長で、接近戦を得意としています。その、戦式では首席と聞いています」
「やはりな。しなやかな手足をしているが、細い筋肉がついているし、関節が丈夫そうだからな。とくに、指と手首」
見る人が見れば、やっぱり違うのだろうか。
「少なくとも、お前さんより才はありそうだな。力で男に負けようとも、柔よく剛を制すとも言うしな」
「彼女は、足技がとくにすごくて、まともに食らえば、内蔵に穴が空くと思います」
サワの長い脚から繰り出される蹴りの威力を示すのに内蔵に穴があくは盛っている表現にはならない。
「そりゃ、頼もしい。お前さんも相当な鍛練を積んでいるんだろうが、今一歩、天才的な強さには欠けておる」
「何が足りないのでしょう?」
「まあ、小手先の小業や、計算でどうにか力を逃がすのは止めるべきだな。力には、方向や流れがある。良いか?その方向や流れを感じ、反射的に倍にして相手に返せ」
「倍にしてですか?」
師匠は地面に枝で壺を二つ描いた。
「これは?」
「良いから、見ていなさい」
壺の一つを、もう一つの壺に寄せるような矢印を描いた。
「君のはこうだ」
その矢印を延長させて、何もないところまで延長させると先に×印を描いた。
「せっかくの力を、君は捨てている。それも、なんの役にもたたないところで」
壺からもう一本矢印がのびてきて、今度はもう一つの壺からも矢印がのびて、先に伸ばされた矢印の軌道を変える。そうして、変えられた軌道は弧を描くようにして、もとの壺へ戻っていく。
「これが、力を二倍にするということだ。相手の太刀筋を読み、その筋を変えることで、その力を自分の刀にものせるんだ」
どういうことだ。どうすればそうなる?太刀筋を変えるまでは理解できるが、その力を自分の刀にのせる?
「試してみれば良い、わしに思いっきり、斬りかかってみろ」
「はい!」
ユウは、下から上へと鋭く突き抜けるような一撃を放つ。遠慮は無用。
その次の瞬間に今までに感じたことの無いような重さが木刀の上に降ってくる。その瞬間的な重さに思わず刀を手から落としてしまった。
下からの攻撃は、上から叩くのではなく、下から逃がすのが普通のはずだが?
困惑するユウ。
「…二回音がした」
「イリナちゃんおはよう、二回音がしたっていうのはどういうこと?」
サワは首をかしげる。
「分からないけど、二回叩く音がした」
いつの間にか観客が増えている。
「そういうことか、見えないくらいの早さで二回刀を当てているんだ。一撃目は相手の攻撃の流れを変えることで、一瞬、力が抜ける。そこに、まだ勢いが残っている刀に正面で力を加えることで、一度、力が抜けたものからすると、かかった力が二倍になるように感じるのか?」
木刀をじっくりと見るユウ 。そうして、師匠からの攻撃を受けたであろうところが、二段の傷になっているのを見つける。
「名推理、あとは会得するのみ」
「はい!」
イチナがグーッと伸びをしながら、サワの隣にやって来る。
「おー、ユウくん張り切ってるね」
「うん、そうだね」
「私も弓術の練習してくる」
「え、じゃあ、私もいく」
イチナは矢を一本、木の幹に向かって放つまっすぐに刺さった矢は、刺さると同時に少し揺れるがすぐに静止する。
「もっと、難しい的を決めたらいいのに」
「まあ、見てて」
イチナはもう一本矢を取り出して、さっきよりも慎重に構えてから矢を放つ。コン!と扉をノックするときみたいな音がしたと思うと、矢が追突事故を起こしている。幹に刺さっていた矢に矢が刺さっている。
「は?」
見たこともない形に困惑。矢ってこんな風に刺さるものだっけ?
「ちょっと、面白半分でやってみたらこの間出来たんだよねー」
えへへ、みたいな感じで笑いながら神業を意図も簡単に決めてしまう。実戦うんぬんは置いといても、これが、本当の天才なんだと圧倒される。さっきまで、手を真っ赤にして、額に大粒の汗を浮かべて、必死に練習をするユウとは完全に何かが違う。訓練で到達できるとか、そういう次元にいない。だって、まだ、初めて弓矢を手にして一年も経っていないのに。
サワは大きく溜め息をついた。
「サワちゃん、どうしたの?」
「なんでもない」
サワは、架空の敵を作りそれに蹴りや突きを浴びせ、自身のフォームや勢いを確認する。
「おぉぉ」
無駄のないお手本みたいな綺麗な技に、イチナは拍手を送る。
イチナみたいな天性の才に恵まれたわけではなくても、ユウみたいな並外れた努力が出来るわけでなくても、シューみたいな体つきにならなくても、私は、私で強くなる。この手で、何としてでも、母の仇を討たないとダメなんだ。
八岐大蛇でも何でも良い、それが進む道なら、私は、ただ、がむしゃらに頑張るしかない。きっと、それは、ユウもみんなも一緒のはずだから。
パァァン!
「甘い!相手の次を予測しろ!」
「はい!」
外から聞こえるユウの声で目を覚ました。
「ユウ、おはよう」
稽古の合間を見て、ユウに水を持っていく。
「おはよう、水?ありがとう」
「シキの師匠と稽古?」
「あぁ、手がジンジンする」
ユウの手は赤くなっていた。
「大丈夫?」
「こんなにきつい朝稽古は久々だ。やっぱり、鈍ってたのかな?」
ハハッとため息混じりに笑ったユウ。
「毎日、やってるのに?」
「それじゃ、ダメなんだ。僕は、強くならないと」
「十分強いと思うけどなー」
サワはそう言って、ユウの赤くなった手をそっと触る。
「約束したんだ、カンさんと。サワのことを絶対に守るって」
ユウはサワの手を包み込むみたいに握った。
「いや多分それ、稽古とかでどうにかなる物理的な戦闘力の話じゃないよ。だって、私単体でも結構強いし」
照れからか、斜め上を見て誤魔化すサワ。
「そうだったとしても、僕は、サワがイトスギに切られて気を失った間、怖くてたまらなかったんだ。だから、サワのこと、今度は、僕に守らせてほしい」
「ふーん、そんな風に思ってたんだ」
「当たり前だろう?僕にとって、サワは、簡単に見放すことのできない存在だし、文字通り命懸けで守りたい存在なんだから」
そういうと、ユウは稽古に戻ろうとする。
「っへ?ちょ、もう一回!ね、もう一回言って!」
「は、恥ずかしいだろう」
顔を赤くしたユウ。
「恋人とのお喋りは終わったか?」
「は、はい…ハハ」
聞かれていたのか!
「彼女は手練れと見えるが、彼女は何者だ?」
「邪馬台国の警学校の学生長で、接近戦を得意としています。その、戦式では首席と聞いています」
「やはりな。しなやかな手足をしているが、細い筋肉がついているし、関節が丈夫そうだからな。とくに、指と手首」
見る人が見れば、やっぱり違うのだろうか。
「少なくとも、お前さんより才はありそうだな。力で男に負けようとも、柔よく剛を制すとも言うしな」
「彼女は、足技がとくにすごくて、まともに食らえば、内蔵に穴が空くと思います」
サワの長い脚から繰り出される蹴りの威力を示すのに内蔵に穴があくは盛っている表現にはならない。
「そりゃ、頼もしい。お前さんも相当な鍛練を積んでいるんだろうが、今一歩、天才的な強さには欠けておる」
「何が足りないのでしょう?」
「まあ、小手先の小業や、計算でどうにか力を逃がすのは止めるべきだな。力には、方向や流れがある。良いか?その方向や流れを感じ、反射的に倍にして相手に返せ」
「倍にしてですか?」
師匠は地面に枝で壺を二つ描いた。
「これは?」
「良いから、見ていなさい」
壺の一つを、もう一つの壺に寄せるような矢印を描いた。
「君のはこうだ」
その矢印を延長させて、何もないところまで延長させると先に×印を描いた。
「せっかくの力を、君は捨てている。それも、なんの役にもたたないところで」
壺からもう一本矢印がのびてきて、今度はもう一つの壺からも矢印がのびて、先に伸ばされた矢印の軌道を変える。そうして、変えられた軌道は弧を描くようにして、もとの壺へ戻っていく。
「これが、力を二倍にするということだ。相手の太刀筋を読み、その筋を変えることで、その力を自分の刀にものせるんだ」
どういうことだ。どうすればそうなる?太刀筋を変えるまでは理解できるが、その力を自分の刀にのせる?
「試してみれば良い、わしに思いっきり、斬りかかってみろ」
「はい!」
ユウは、下から上へと鋭く突き抜けるような一撃を放つ。遠慮は無用。
その次の瞬間に今までに感じたことの無いような重さが木刀の上に降ってくる。その瞬間的な重さに思わず刀を手から落としてしまった。
下からの攻撃は、上から叩くのではなく、下から逃がすのが普通のはずだが?
困惑するユウ。
「…二回音がした」
「イリナちゃんおはよう、二回音がしたっていうのはどういうこと?」
サワは首をかしげる。
「分からないけど、二回叩く音がした」
いつの間にか観客が増えている。
「そういうことか、見えないくらいの早さで二回刀を当てているんだ。一撃目は相手の攻撃の流れを変えることで、一瞬、力が抜ける。そこに、まだ勢いが残っている刀に正面で力を加えることで、一度、力が抜けたものからすると、かかった力が二倍になるように感じるのか?」
木刀をじっくりと見るユウ 。そうして、師匠からの攻撃を受けたであろうところが、二段の傷になっているのを見つける。
「名推理、あとは会得するのみ」
「はい!」
イチナがグーッと伸びをしながら、サワの隣にやって来る。
「おー、ユウくん張り切ってるね」
「うん、そうだね」
「私も弓術の練習してくる」
「え、じゃあ、私もいく」
イチナは矢を一本、木の幹に向かって放つまっすぐに刺さった矢は、刺さると同時に少し揺れるがすぐに静止する。
「もっと、難しい的を決めたらいいのに」
「まあ、見てて」
イチナはもう一本矢を取り出して、さっきよりも慎重に構えてから矢を放つ。コン!と扉をノックするときみたいな音がしたと思うと、矢が追突事故を起こしている。幹に刺さっていた矢に矢が刺さっている。
「は?」
見たこともない形に困惑。矢ってこんな風に刺さるものだっけ?
「ちょっと、面白半分でやってみたらこの間出来たんだよねー」
えへへ、みたいな感じで笑いながら神業を意図も簡単に決めてしまう。実戦うんぬんは置いといても、これが、本当の天才なんだと圧倒される。さっきまで、手を真っ赤にして、額に大粒の汗を浮かべて、必死に練習をするユウとは完全に何かが違う。訓練で到達できるとか、そういう次元にいない。だって、まだ、初めて弓矢を手にして一年も経っていないのに。
サワは大きく溜め息をついた。
「サワちゃん、どうしたの?」
「なんでもない」
サワは、架空の敵を作りそれに蹴りや突きを浴びせ、自身のフォームや勢いを確認する。
「おぉぉ」
無駄のないお手本みたいな綺麗な技に、イチナは拍手を送る。
イチナみたいな天性の才に恵まれたわけではなくても、ユウみたいな並外れた努力が出来るわけでなくても、シューみたいな体つきにならなくても、私は、私で強くなる。この手で、何としてでも、母の仇を討たないとダメなんだ。
八岐大蛇でも何でも良い、それが進む道なら、私は、ただ、がむしゃらに頑張るしかない。きっと、それは、ユウもみんなも一緒のはずだから。
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