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イトスギ です。
死神 です。
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朝早く、走っているとサワも僕に並走してついてくる。冷たい風に季節の移り変わりを感じてしまう。風が吹くと、木の葉がはらりはらりと舞う。
「ユウ、私さ、シキの話を聞いて思ったんだけど、イトスギって奴は私のお母さんも殺してる」
「え?」
そのいつも通りのテンションで急な爆弾を突っ込んできたサワ。ユウは思わず足を止める。サワは振り返って、足を止めたユウの方を見る。
「イトスギの人相書見せてもらったでしょ」
「うん」
「そっくりなんだよ、あの顔、お母さんを殺した奴に」
人相書にはスンと細い目に、目の下のほくろ、それから左ほほの火傷の跡が特徴的な男の絵が描かれていた。
草薙剣を探していた点や、家を荒らしまくった点なんかが共通していて、サワが言うことはあるのかもしれないと思う。
「イトスギは死神だ」
サワの目付きが変わっていく。ぐわっと瞳孔がひらく。
「死神?」
ユウはあえて、冷静な雰囲気で聞き返した。
「あの男の目にあてられれば、どんな屈強な人でも手も足も出ない」
「サワ、でも、僕らはそれなりに強いじゃないか。僕は刀が得意で、サワは接近戦に強くて、イチナは弓の天才だし、シキだって」
ユウは、落ち着かせようとサワの肩に触れようとした。サワはその手をパシッと叩いて払う。
「見たことがないから、そんな簡単に言えるんだよ」
サワ自身も自分が荒らげた声に少しばかり戸惑う。目の前のユウは、ピクッと眉をあげて不服そうな顔をチラリと覗かせたが、いつも通りの冷静な顔に戻る。
サワはフンとそっぽを向いてしまいユウと視線をあわせようとはしない。
「…そうか、ごめん」
ユウは、走り込みの続き、サワを放って朝霧の中を進みだす。
「…ユウ」
サワがそう呼び止めようとしたときにはユウの背中は小さくなっている。
僕はいつもそうだ、大切なことを正面から受け取らずに、一歩引いて、俯瞰的に見ているフリをしながら本当は、まっすぐに真っ直ぐにそれを受けとる勇気も自信も、寄り添う優しさも…ない
「イトスギ、絶対に許さない。サワにあんな顔をさせるなんて」
復讐心に取り憑かれかけたサワの目がユウの脳裏を離れない。
「僕が、もっと、サワの心も守れる言葉をかけることができたら、なんで、僕はいっつもこうなんだ…」
ユウは、森の中を、木の根に足をとられないようにしながら、駆け巡る。
「サワちゃん、どうしたの?大丈夫?」
「え?」
サワの後ろから矢筒と弓を背負ったイチナが駆け寄ってくる。
「う~ん、ちょっと歩こうか」
イチナはちょっと強引にサワの腕を引っ張る。
シャクシャクと落ち葉を踏み分ける音が4つの足分重なりあう。
「イチナちゃん、どこ行くの?」
「私もわかんないけど、とにかく歩くの。心がしんどい時はそうするのがどんな薬よりも一番だから」
「私は、大丈夫」
「じゃあ、もっと大丈夫になろう、だって、サワちゃん、さっき止まって泣いてたよ」
そう言うとイチナは、ポンポンと軽い足取りで、サワから数歩分離れる。
「え…」
サワはイチナの言葉を聞いてから、自分の手を頬へなぞるように当てる。するとうっすらと涙の跡。
「あ、みてみて、金木犀」
イチナは金木犀の香りをくんくんと嗅いで、サワを手招きで呼ぶ。サワは、無邪気に笑うイチナにつられて、金木犀にそっと顔を近づける。オレンジ色の小さな花たちはサワを励ましてくれているようだった。
「こっちには、ツルリンドウも」
いきいきとしながら話すイチナは、ちょっぴり羨ましかった。白と紫の間の薄くて神秘的な色合いが綺麗な花だ。木に絡まりあいながら空を目指すたくましさもそれと同時に持ち合わせているようだった。
「イチナちゃん、植物好きなんだね」
「うん、王宮の周りも歩き回って色んな植物を見てたからね」
「ユウもよく王宮の周りの花の名前を教えてくれてさ、何回聞いても、私はすぐに忘れちゃうんだけど」
「興味があればで良いんだよ、名前の一つ二つ覚えるのなんて」
「興味があれば、か」
晴れる気分にはなれないサワを覗きこんだイチナ。
「サワちゃんは何の花が好き?」
「え?」
不意をつかれて、ちょっと間が空く。
「私は、藤の花」
「綺麗で良いよね、藤の花。あの薄紫の花でしょ」
「綺麗だけど、それだけじゃないんだよ」
「うん?」
「ユウが昔、教えてくれたの、藤の花には古くから信じられている言葉があって "優しさ" だって。それ聞いてから、藤の花ってユウ(優)みたいに思えてきて」
「あ、そういえば、ユウくんは?一緒に走りに行ったんじゃないの?」
「喧嘩ってほどじゃないんだけど、ちょっとね」
一方的に私が悪いだけだしな。
「…イトスギのこと?」
「なんで、分かったの?」
「昨日の夜、サワちゃんが寝たあとで、ユウくんがシキと熱心にイトスギについて話し合ってるのを見たから。もしかして、サワちゃんのお母さんを殺したのはイトスギなんじゃないかって、ユウくん凄く考えてた」
ユウ、知ってたんだ…
だったら、ユウがどうするのか私には見えた気がした。きっと、イトスギを探そうとする。あの死神に会おうとするだろう。
そこまで、思考を巡らせてゾッとした。
もう、死神のせいで誰かを失いたくない。
「ユウ、私さ、シキの話を聞いて思ったんだけど、イトスギって奴は私のお母さんも殺してる」
「え?」
そのいつも通りのテンションで急な爆弾を突っ込んできたサワ。ユウは思わず足を止める。サワは振り返って、足を止めたユウの方を見る。
「イトスギの人相書見せてもらったでしょ」
「うん」
「そっくりなんだよ、あの顔、お母さんを殺した奴に」
人相書にはスンと細い目に、目の下のほくろ、それから左ほほの火傷の跡が特徴的な男の絵が描かれていた。
草薙剣を探していた点や、家を荒らしまくった点なんかが共通していて、サワが言うことはあるのかもしれないと思う。
「イトスギは死神だ」
サワの目付きが変わっていく。ぐわっと瞳孔がひらく。
「死神?」
ユウはあえて、冷静な雰囲気で聞き返した。
「あの男の目にあてられれば、どんな屈強な人でも手も足も出ない」
「サワ、でも、僕らはそれなりに強いじゃないか。僕は刀が得意で、サワは接近戦に強くて、イチナは弓の天才だし、シキだって」
ユウは、落ち着かせようとサワの肩に触れようとした。サワはその手をパシッと叩いて払う。
「見たことがないから、そんな簡単に言えるんだよ」
サワ自身も自分が荒らげた声に少しばかり戸惑う。目の前のユウは、ピクッと眉をあげて不服そうな顔をチラリと覗かせたが、いつも通りの冷静な顔に戻る。
サワはフンとそっぽを向いてしまいユウと視線をあわせようとはしない。
「…そうか、ごめん」
ユウは、走り込みの続き、サワを放って朝霧の中を進みだす。
「…ユウ」
サワがそう呼び止めようとしたときにはユウの背中は小さくなっている。
僕はいつもそうだ、大切なことを正面から受け取らずに、一歩引いて、俯瞰的に見ているフリをしながら本当は、まっすぐに真っ直ぐにそれを受けとる勇気も自信も、寄り添う優しさも…ない
「イトスギ、絶対に許さない。サワにあんな顔をさせるなんて」
復讐心に取り憑かれかけたサワの目がユウの脳裏を離れない。
「僕が、もっと、サワの心も守れる言葉をかけることができたら、なんで、僕はいっつもこうなんだ…」
ユウは、森の中を、木の根に足をとられないようにしながら、駆け巡る。
「サワちゃん、どうしたの?大丈夫?」
「え?」
サワの後ろから矢筒と弓を背負ったイチナが駆け寄ってくる。
「う~ん、ちょっと歩こうか」
イチナはちょっと強引にサワの腕を引っ張る。
シャクシャクと落ち葉を踏み分ける音が4つの足分重なりあう。
「イチナちゃん、どこ行くの?」
「私もわかんないけど、とにかく歩くの。心がしんどい時はそうするのがどんな薬よりも一番だから」
「私は、大丈夫」
「じゃあ、もっと大丈夫になろう、だって、サワちゃん、さっき止まって泣いてたよ」
そう言うとイチナは、ポンポンと軽い足取りで、サワから数歩分離れる。
「え…」
サワはイチナの言葉を聞いてから、自分の手を頬へなぞるように当てる。するとうっすらと涙の跡。
「あ、みてみて、金木犀」
イチナは金木犀の香りをくんくんと嗅いで、サワを手招きで呼ぶ。サワは、無邪気に笑うイチナにつられて、金木犀にそっと顔を近づける。オレンジ色の小さな花たちはサワを励ましてくれているようだった。
「こっちには、ツルリンドウも」
いきいきとしながら話すイチナは、ちょっぴり羨ましかった。白と紫の間の薄くて神秘的な色合いが綺麗な花だ。木に絡まりあいながら空を目指すたくましさもそれと同時に持ち合わせているようだった。
「イチナちゃん、植物好きなんだね」
「うん、王宮の周りも歩き回って色んな植物を見てたからね」
「ユウもよく王宮の周りの花の名前を教えてくれてさ、何回聞いても、私はすぐに忘れちゃうんだけど」
「興味があればで良いんだよ、名前の一つ二つ覚えるのなんて」
「興味があれば、か」
晴れる気分にはなれないサワを覗きこんだイチナ。
「サワちゃんは何の花が好き?」
「え?」
不意をつかれて、ちょっと間が空く。
「私は、藤の花」
「綺麗で良いよね、藤の花。あの薄紫の花でしょ」
「綺麗だけど、それだけじゃないんだよ」
「うん?」
「ユウが昔、教えてくれたの、藤の花には古くから信じられている言葉があって "優しさ" だって。それ聞いてから、藤の花ってユウ(優)みたいに思えてきて」
「あ、そういえば、ユウくんは?一緒に走りに行ったんじゃないの?」
「喧嘩ってほどじゃないんだけど、ちょっとね」
一方的に私が悪いだけだしな。
「…イトスギのこと?」
「なんで、分かったの?」
「昨日の夜、サワちゃんが寝たあとで、ユウくんがシキと熱心にイトスギについて話し合ってるのを見たから。もしかして、サワちゃんのお母さんを殺したのはイトスギなんじゃないかって、ユウくん凄く考えてた」
ユウ、知ってたんだ…
だったら、ユウがどうするのか私には見えた気がした。きっと、イトスギを探そうとする。あの死神に会おうとするだろう。
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もう、死神のせいで誰かを失いたくない。
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