秀才くんの憂鬱

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仲間入り です。

霖錬情報部隊 です。

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「確か、村長がいるところは、あっちだったかな」
シキは集落の中心部へと足を進める。それに付いていく3人。翡翠と瑠璃は門の近くの馬小屋で預かってもらった。

 中心から放射状に伸びていく道。見方を変えれば、中心へ吸い込まれていく道。邪馬台国の格子状の道とは違っている。しかし、放射状に広がる道も理にかなっている。
 コソコソとチラチラとシキを盗み見する女性たちの視線を耐えなければならないのは、ユウたち3人からすればちょっとキツイ。シキには悪いが、正直、シキがここまで強烈に女性たちを惹き付けるものが何なのか僕には分からない。イチナは、視線を避けるように少し肩をすぼめて歩いてしまう。

「ここだな」
顔をあげると、そこには大きな木造平屋の建物。端から端まで何メートルあるのだろうか。取りあえず、学校のプールはすっぽりと入ってしまいそうだ。到着と同時に、いかにもこの役所で勤めているのであろう役人が出てきた。
「私どもに何かご用でしょうか?」
「あ、はい」
ユウはシキに目配せをする。
「二年前にここを訪ねたシキと申します。突然で申し訳ないのですが、村長に会うことはできますか?」
「ただいま確認をして参ります。少々、お待ちください」
キリリとした役人はくるりと無駄の無い回れ右をして、建物に入っていく。

役人を待っている間、サワは辺りの田んぼを遠目に眺めていると、数人の男衆に話しかけられた。
「お名前聞いてもいい?君」
「私?」
「そうそう、綺麗な顔立ちだねぇ」
「すみません、個人情報なのでお教えすることは出来ない決まりになっています」
キッパリと断るサワ。サワの美しさはどこへ行こうと変わらない。立てば百合、座れば牡丹?そんなものでは片付けきれない美しさだ。凛として華のある顔に、柔らかい声に、すらりと長い手足に、平均よりも高めの身長。
「お堅いこと言わないでよ」
ユウはサワが言い寄られていることに気がついて、咄嗟に足がサワの方へ向かう。しかし、サワから放たれた言葉に思わず笑ってしまう。
「你再靠近一点,我是不是要踢你一脚,把你的脸踢碎?」
それ以上近づいてみな、お前の顔面が砕ける蹴りをお見舞いしようか?

それを真顔で、いや、やんわりと笑みを浮かべながら言うサワ。意味が分かる者からすれば、ちょっとした狂気だが、時に頼もしく思えるのは僕だけであろうか。
「それは止めといた方が良いよ、ほら、僕と戻ろう」
手招きするユウ。
「はいはい、じゃあ、そういうことだから、我没有你们那么多的空闲时间」
サワは捨て台詞のように「私はあなたたちの相手ができるほど暇じゃないので」と大陸の言葉で強く言ってから、ユウの方に駆けてきた。
「大陸の言葉を都合よく使っちゃって」
「いいのいいの、どーせ、分かるのユウくらいなんだし」
ユウはサワに言い寄っていた男衆の方をチラリと見る。案の定、頭の上にははてなマーク。無理もないか、せっかくサワ程の美人に声をかけてみたのに、分からない言語で小馬鹿にされているんだから。


 役人がスタスタと歩いて出てくる。
「シキ様とそのお連れの方々ですね。村長様は快諾なさりました。どうぞ、ご案内致します」
「ありがとうございます」
役人は、広いお屋敷の長い廊下の先の村長室へ僕らを案内する。ギシギシと微妙にきしむ床。年期が入っているが大切にしていると思われる壁なんかを見ながら進む。

 村長室の前に着くと内側から引き戸が引かれて、目の前に村長がいた。
「そこで止まらずに入ってきなさい」
村長は白髪のおばあさん。ピタッと足を閉じて一つ一つの所作をススッと音もたてずに行う。豪華な部屋である訳ではないが、隅々まで手入れが行き届いた村長室。
「はい」
「シキ、僕らも入って良いのかい?」
「そこの三人もだよ、入っていらっしゃい」
手招きに従って、村長室に入る。イグサの匂いがする。
「久しぶりですね、シキさん。お変わりありませんか?」
「えぇまぁ」
「分かっていますよ、例のことについてでしょう?」
例のこと?
「はい、何か有力な情報はありましたか?」
「霖錬情報部隊を舐めてもらっては困ります。お代の分はきっちりとお仕事を致しますので」
霖錬情報部隊か、僕の記憶が正しければ、優秀な諜報員が集まる極秘集団?昔、警学校の先輩が噂しているのを聞いたことがあったが、まさか、この地が霖錬でここの持っている情報部隊があの噂だったのか。隊の規模も掟も技術も何一つ漏れがない完璧な組織の一つ。存在はしていたのだな。
サワがユウの肩をポンポンと叩いた。
「ユウ、霖錬情報部隊って」
「サワも聞いたことがあったのか」
「霖錬なんて独特な地名でちょっとは思ったけど、存在してたんだ」
どうやら、サワも霖錬情報部隊というワードに驚いているようだった。
「これが、例の事件に関するものです」
数十枚の紙は真っ黒く見える程小さな文字で裏表が埋め尽くされていた。それを見て、シキの目の色が変わった。瞳孔が開き、グッと歯を食い縛ったことがユウには分かる。シキは、自身の麻で作られた緩い肩掛けの鞄に紙束を入れる。
「イトスギ、シキさんが追うべき人物の名前はイトスギ」
「イトスギですね、ありがとうございます」
何の話だかついていけないが、シキと白髪老婆の村長の間には熱い視線。ただ、分かるのは、何か良くないことの話というだけ。
「さ、もう、用はないでしょう」
やけにあっさりとしている村長の態度。シキが引き留める。
「お待ちください!情報部隊にお願いしたいことがもう一つございます」
「くだらないことではないでしょうね」
「我々は、草薙剣という剣を探しています、知っていることがあれば情報をいただけませんか?」
村長の視線が床を辿り、口元に手を持っていった。分かりやすい。典型的な隠し事があるときの仕草だ。
「またですか。その誘いに乗ったとしてその見返りは?その貧相な服装では、金は無いように見えますけど」
渋った村長。
ユウは、おもむろに立ち上がり懐から数枚の銀貨を取り出した。
「ユウ、何するつもり?」
「お金であれば僕が出しましょう。ただし、確実な情報を僕たちに渡してくれませんか。そして情報の質と量を見てから、金額については相談しましょう。こちらは、情報への手付金だと思っていただけませんか?」
「あなたはシキお付きの者でしょう?まだ若いのにこんな大金払える人物に見えません」
ユウは自身の服装を見る。確かに、どう見ても金持ちではない。王宮時代の金の装飾やらなんやらは、当然、身に付けているわけもない。
村長は銀貨を三枚渡してみても、依然として情報提供に協力的ではない。無理もない。村長からしてみれば僕はただの少年に過ぎないのだろう。
「申し遅れました、わたくしは邪馬台国の第一王子、ジエン・ヒミカ・ユウ というものです」
「王子?」
「そうです、このユウ王子は大変聡明な方で、もし、情報をいただけましたら最大限に活用が出来ます」
サワはすかさずフォローを入れる。
「わ、私からもお願いします」
イチナは頭を下げる。それに続くようにユウとシキとサワも頭を深々と下げる。
長い沈黙に耐えかねたのか、村長は重い口をひらく。
「草薙剣は、もうイトスギが半分持っている。草薙剣は2本の剣からなる、その二本が重なり、初めて、地を割るとも噂される力を発現させると聞いた。イトスギは血眼になって、もう一本を探しているようだがまだ見つかっていない。一つは西国、もう一つは東国にあるそうだ。イトスギが持っているのは西国の剣、草薙剣が欲しいのならイトスギよりも早く東国の剣を見つけなさい」
「イトスギとは一体誰なのですか?」
ユウは村長に聞いた。
「剣を狙う者の一人で、幾人もの命を奪った。それも、皆、剣に関わる人。シキがよく知っている」
「シキ、教えてほしい」
ユウは隣に座るシキに頭を下げる。
「私の父は集落で一番の手練れと称される剣士だった。父は昔に聞いたことがあった草薙剣を使って剣士としての名を立てようとしていて、集落の皆も凄く期待していたのですが、父は、草薙剣を探しに旅に出た日に集落の外れで死体で見つかりました。何者かに殺されていたのです」
「え…」
今までに誰も聞いたことがなかったシキの話。ユウの顔にも戸惑いの色。
「その殺した人の捜索を霖錬情報部隊にお願いしていました。そして、イトスギと名乗る人物であることが判明したのです」
うんうんと頷く村長。
「ユウ王子、お分かりになりましたか?」
「貴重な情報をありがとうございます」
「東国は広いです、ですが、おおよその検討はついています」
「それはどこですか?」
「大きな平野をご存じですか?その平野にそびえる一際大きな山の中です。私どもが持って提供できる情報はここまでです」
ユウは金貨を4枚渡す。
「取引成立ですね」
村長は金貨四枚を受け取り、がっしりとユウの手を握って握手を交わす。
「ありがとうございます」
ユウの横に並ぶ3人も深々と頭を下げた。
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