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道を歩け です。
サワとイチナ です。
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イチナには純粋な疑問があった。どうして、ユウは王子という立場ながら自らを危険にさらしてまで、剣を探すのか。臣下に頼んでも良さそうなものなのに、護衛の一人もつけることなく、歩いて探す。
数日前村人に襲われた事件から一層にそう感じるようになった。
「イチナさん、すまないが、薬を塗ってもらえないだろうか」
「は、はい」
眉尻から鼻先にかけての一番大きな引っ掻き傷には、かさぶたができはじめていた。チョンチョンと薬を塗る。
「イチナさんが、薬学に精通している人で良かった。僕だけでは、きっと治療できない」
イチナは、柔らかい布で、薬を怪我が残るところに塗り広げる。
「いえ、昔、母がやってくれたことの真似事みたいなものだから、そんな」
「僕の母は薬師だから、僕が怪我をした時にはこんな感じで薬をつけてくれて、よく、中身を教えてくれたから、イチナさんがしっかりした薬を使ってくれていることは分かるよ」
「良かった」
「ん?」
「私の使っている薬がちゃんとしたもので。だって、王子のお顔につけるのに、変なものつけられないから」
イチナは、そっと笑った。
「じゃあ、視力の確認するから、まず視野から」
およそ、100度くらいのところで、ユウの視界からイチナの指が消える。
「消えた」
「正常」
次に、視力をはかる。それも、正常だった。ほっとした。傷はできたが、生活には支障がないくらいになって。
「ありがとう」
「いえ、傷、治る方向に向かっていて、私も一安心」
イチナは立ち上がったユウを呼び止めた。
「どうして、ユウくんは、剣を探すの?一国の王子としても十分な働きをおさめていたのに、怪我を負うほど危険な旅をするのは、なにか特別な意味がある?」
ユウは即答した。深みを持った王子としての威厳を持ったような声色で、話した。
「あるよ。僕は、国民の力を受けて、たくさんの良い経験をさせてもらった。でも、それを国民の生活に還元するには力不足なんだ。そんな僕が生まれて初めて、役に立てると思ったんだ。剣を探して、クニの安寧を願えると」
ユウは、瑠璃に餌をあげに行った。
少し肩を落として、元気がなさそうなイチナにサワが話しかける。
「イチナちゃん、どうしたの?」
「私は、所詮、ただの女官でしかないんだなって」
「ユウに嫌なことでも言われた?」
眉間にシワを寄せて、首をかしげるサワ。
「私は、王子がクニを想う気持ちも本当に軽く見積もっていたんだなって。それなのに、なんで王宮で少し話をしたくらいで、王子を知ったような気になって」
王宮には、王子と顔を会わせることすら出来ない世話人などたくさんいた。その中で、私はほぼ毎日のように王子とお話をできた。それに、こうやって旅を一緒にしているのに。
サワはあっけらかんとしたようなテンションで、話した。
「王子とかそんなの関係なしに、他の人の気持ちなんて誰だってわからないよ。きっと、イチナちゃんが妹を想う気持ちも、私がお母さんを亡くした悲しみも、ユウは想像しきれないけど、ちょっとは分かったつもりでしょ」
前を歩くユウを指差した。そして、クスッと笑った。
「え?」
「だから、そんな考えることないよ。だって、みんなそんなもんでしょ。新しく知ったなら、へー、こいつ、そんな考えてたんだ。ってね」
サワの笑いにつられて、イチナもフフッと笑った。
「サワちゃん、ありがと」
「いえいえ」
「サワちゃんは、ユウくんはどんな人だと思う?」
「急だなぁ。ま、でも、私は、すごく頼りになる人だと思うよ。ユウが努力家で、すごく頑張っているのを見ていて、国益を考えてって言ったら大袈裟だけど、それでも、ユウなりに王子としての葛藤があっても前に進もうって強い意思があると思うから。逆に、イチナちゃんは?」
「私も、努力家で真面目な人だと思うかな」
「そっか。やっぱり、ユウって凄いのかもね」
みんなに、そう思わせる力。ユウのその少し頑固で、何でも一生懸命な姿は、味方を増やす。どこか、淡々として冷たい行動ととられることはあっても、会話で分かりあおうとする。並みの若者では出来ない。
「サワちゃんも、私から見たら凄いよ。だって、王子であるユウくんに、ハッキリ意見を述べるなんて普通は出来ないもん」
なんか、微妙にどっちともとれるけど、イチナちゃんが嫌み言うとは思えないしな。
「それ、良い方として受け取っておくわ」
キョトンとしたイチナ。
「イチナちゃんだって、料理上手いし、優しいし、こんな先の見えない旅に飛び込むなんて勇気あるし、体力も気力もあるし、いろいろ知ってるし…」
指折り数えるサワ。イチナはサワのその姿に思わず笑ってしまった。
振り返ったユウ。
「二人で何話してんの?」
「女子だけの秘密の話」
サワは人差し指を顔の前に出して、パチンとイチナにウインク。顔の歪まない教科書のようなウインクだった。
「え~、そう言われると気になるなぁ」
ユウは、「はて?」と首をかしげた。
その仕草に、サワとイチナは思わず笑ってしまった。
「え?僕、変だった?」
イチナは小さく頷いた。
例え、王子で大きな志があっても、私たちと同じ若者で、同じような世界観だって持っている。
数日前村人に襲われた事件から一層にそう感じるようになった。
「イチナさん、すまないが、薬を塗ってもらえないだろうか」
「は、はい」
眉尻から鼻先にかけての一番大きな引っ掻き傷には、かさぶたができはじめていた。チョンチョンと薬を塗る。
「イチナさんが、薬学に精通している人で良かった。僕だけでは、きっと治療できない」
イチナは、柔らかい布で、薬を怪我が残るところに塗り広げる。
「いえ、昔、母がやってくれたことの真似事みたいなものだから、そんな」
「僕の母は薬師だから、僕が怪我をした時にはこんな感じで薬をつけてくれて、よく、中身を教えてくれたから、イチナさんがしっかりした薬を使ってくれていることは分かるよ」
「良かった」
「ん?」
「私の使っている薬がちゃんとしたもので。だって、王子のお顔につけるのに、変なものつけられないから」
イチナは、そっと笑った。
「じゃあ、視力の確認するから、まず視野から」
およそ、100度くらいのところで、ユウの視界からイチナの指が消える。
「消えた」
「正常」
次に、視力をはかる。それも、正常だった。ほっとした。傷はできたが、生活には支障がないくらいになって。
「ありがとう」
「いえ、傷、治る方向に向かっていて、私も一安心」
イチナは立ち上がったユウを呼び止めた。
「どうして、ユウくんは、剣を探すの?一国の王子としても十分な働きをおさめていたのに、怪我を負うほど危険な旅をするのは、なにか特別な意味がある?」
ユウは即答した。深みを持った王子としての威厳を持ったような声色で、話した。
「あるよ。僕は、国民の力を受けて、たくさんの良い経験をさせてもらった。でも、それを国民の生活に還元するには力不足なんだ。そんな僕が生まれて初めて、役に立てると思ったんだ。剣を探して、クニの安寧を願えると」
ユウは、瑠璃に餌をあげに行った。
少し肩を落として、元気がなさそうなイチナにサワが話しかける。
「イチナちゃん、どうしたの?」
「私は、所詮、ただの女官でしかないんだなって」
「ユウに嫌なことでも言われた?」
眉間にシワを寄せて、首をかしげるサワ。
「私は、王子がクニを想う気持ちも本当に軽く見積もっていたんだなって。それなのに、なんで王宮で少し話をしたくらいで、王子を知ったような気になって」
王宮には、王子と顔を会わせることすら出来ない世話人などたくさんいた。その中で、私はほぼ毎日のように王子とお話をできた。それに、こうやって旅を一緒にしているのに。
サワはあっけらかんとしたようなテンションで、話した。
「王子とかそんなの関係なしに、他の人の気持ちなんて誰だってわからないよ。きっと、イチナちゃんが妹を想う気持ちも、私がお母さんを亡くした悲しみも、ユウは想像しきれないけど、ちょっとは分かったつもりでしょ」
前を歩くユウを指差した。そして、クスッと笑った。
「え?」
「だから、そんな考えることないよ。だって、みんなそんなもんでしょ。新しく知ったなら、へー、こいつ、そんな考えてたんだ。ってね」
サワの笑いにつられて、イチナもフフッと笑った。
「サワちゃん、ありがと」
「いえいえ」
「サワちゃんは、ユウくんはどんな人だと思う?」
「急だなぁ。ま、でも、私は、すごく頼りになる人だと思うよ。ユウが努力家で、すごく頑張っているのを見ていて、国益を考えてって言ったら大袈裟だけど、それでも、ユウなりに王子としての葛藤があっても前に進もうって強い意思があると思うから。逆に、イチナちゃんは?」
「私も、努力家で真面目な人だと思うかな」
「そっか。やっぱり、ユウって凄いのかもね」
みんなに、そう思わせる力。ユウのその少し頑固で、何でも一生懸命な姿は、味方を増やす。どこか、淡々として冷たい行動ととられることはあっても、会話で分かりあおうとする。並みの若者では出来ない。
「サワちゃんも、私から見たら凄いよ。だって、王子であるユウくんに、ハッキリ意見を述べるなんて普通は出来ないもん」
なんか、微妙にどっちともとれるけど、イチナちゃんが嫌み言うとは思えないしな。
「それ、良い方として受け取っておくわ」
キョトンとしたイチナ。
「イチナちゃんだって、料理上手いし、優しいし、こんな先の見えない旅に飛び込むなんて勇気あるし、体力も気力もあるし、いろいろ知ってるし…」
指折り数えるサワ。イチナはサワのその姿に思わず笑ってしまった。
振り返ったユウ。
「二人で何話してんの?」
「女子だけの秘密の話」
サワは人差し指を顔の前に出して、パチンとイチナにウインク。顔の歪まない教科書のようなウインクだった。
「え~、そう言われると気になるなぁ」
ユウは、「はて?」と首をかしげた。
その仕草に、サワとイチナは思わず笑ってしまった。
「え?僕、変だった?」
イチナは小さく頷いた。
例え、王子で大きな志があっても、私たちと同じ若者で、同じような世界観だって持っている。
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