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道を歩け です。
才能 です。
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クニを出て、2週間。わずかな、手掛かりだけでただひたすらに歩き続けた。魚を釣ったり、兎を仕留めたりしながら食い繋ぐ日々。
「ユウ、お腹すいた」
無理もない。今日はまだ一食も食べることができていない。ゴクリと唾を飲み込み、空腹に耐えるのもそろそろ限界みたいだ。夕方、カラスがはるか高い頭上でカァと鳴いた。
「分かってる。僕だってお腹が空いているからね」
川に釣糸を垂らして、魚が食い付くのを待っている。しかし、ユウの釣糸にも、サワの釣糸にも一つも反応はしない。そこそこ大きく、中程は脚がつかない深い川だから、魚がいることは間違いなさそうなのだが。
「イチナちゃん、今日はそれくらいで良いんじゃない?」
イチナは弓矢の練習に精を出す。なんでも、僕とサワが早朝に訓練をしているのを見て、やってみたくなったらしい。イチナが、短刀や長めの千枚通しといった接近戦の武器を扱うのを得意とし、ユウは刀をメインとした戦い方を好む。弓矢は得意な方だが、刀には劣る。
何かやってみたい と申し出たイチナに試しに弓矢を取ってもらった。姿勢を教えて、やってみてもらった。というのが、三日前。
「いえ、まだ、止める訳には」
イチナはキリキリと弓を引いた。狙いを定めて、矢を放つ。ヒョウと音を立てて、矢は数十メートル先の木にクサッと刺さる。
数日の出来ではない。
「百発百中の天才か」
僕は率直にイチナの才能を羨ましく思った。まだ、弓を握って数日だというのに、簡単に矢を飛ばす。
「逆に、なんでやってこなかったの?っていう上手さだよ」
イチナは矢を抜きにいく。
グッと握って、思い切り引き抜く。引き抜けるとパッと顔を明るくして、こちらへ駆けてきた。
「足手まといにならないようにしないと。二人が強いから」
「そうか。なら、もう一つ技を教えよう。イチナさんならすぐに出来るよ」
どうせ釣れないなら、釣り竿はひとまず置いておこう。
ユウはイチナから弓を受け取って、矢を三本取る。
そして、弓構えでは大木を抱くようにしっかりと円相の構えを作る。
打ち起こしでは肩を上げず、体から遠くにすくい上げるように高く打ち起こす。
大三をとるときは肩を動かさない。
大三から引き分けに入るときに、初動で両肩を左右均等に開くように少しだけ真横に引いてから弓を体に引き付けるように引き分ける。完璧な形。
「流石、ユウ。なんか、余裕があるように見える」
サワがそう言うが、神経を集中させて、3本の矢が一気に放たれた。
ダン!
三本の矢は的にしていた木に当たる。しかし、音は一つ。
「凄い」
息を飲むようなスゴワザ。イチナは、一目散に木に駆けた。
三本の矢は、一点に集まっている。そして、抜けないような深さ。
「一本が安定したら、こういうのをやってみても良い。一本よりも、難しいが、威力は格段に上がるから」
「はい」
「しかし、凄い才能だ。僕なんて、矢を真っ直ぐ飛ばせるようになるまでに1年を用したというのに。それも、毎日のように練習をしてだ」
「私は、ただ、二人の役に立ちたい」
「素直で、努力家か。伸びる素質がある」
小声で呟いた。
「え?」
「いや、なんでもない。気がすむまで、練習をしてみるといい。体を壊さない程度にな」
イチナはユウにお辞儀をして、定位置に戻った。
「さて、魚はかかったのかな?」
釣竿を取って、水面に視線を向ける。もちろん、竿が微動だにしないことから分かるように、釣れていない。
「ユウ、いるんだね天才って」
「そうだな」
「ユウは何をしても初めはビリだもんね」
普通の顔をして、何気なく結構酷いことを言う人だ。
「人には言われたくないな」
そして、それが図星。我ながら情けない。僕は昔からそうだ。走るのも、食べるのも、計算も、言葉の習得も、全てが周りからワンテンポ遅れていた。母が天才と崇められ、当然のように僕への期待は大きい。だから、人の10倍は努力して、努力して、才能に溢れた人物として認められる。僕にもし、一つ才能があるとすればそれは努力を続けられる才能だろう。そして、それを簡単に越えるのはいつだって天才だった。
それが、どれ程、悔しいことか凡人には理解されない。
「ま、でも、最後に一番になるのはいつだってユウだけどね」
ニコッと笑いかけられる。
そうか、サワはそう思ってるのか。
「ユウくん、見て」
「はいはい」
矢が三本刺さっている木を見て絶句した。ユウがやったものと姿形がそっくり。嘘だろ、三本での構え方を口で説明したわけでもないのに。この三本の技は武芸大会の練習の過程で試行錯誤を重ねようやく完成させた技なんだ。
「見様見真似だから、ユウくんみたいに上手くは出来なかったけど」
「…いや、僕が教えることはきっと無いな。君の才能に僕は追い付けないだろうから」
ユウは自嘲気味にそうやって笑った。
「凄いね、イチナちゃん」
サワも目を丸くした。ユウは小さく息を吐いて、拳を握った。
「僕のその弓矢あげるよ」
人は凄い才能を目の当たりにしたとき、羨ましいでも嫉妬でも憧れでもなく、ただ、もっと才能を伸ばして欲しいと思う。
「え!?良いんですか?」
嬉しそうに笑みをこぼしたイチナ。こう見ると、ただの少女なのに。
「あぁ、僕が持つよりも、イチナさんが持つ方がきっと有意義だ」
道具は使い手の魂の一部と共鳴する。上手い人が持てば、それだけ道具も柔軟と頑丈を兼ね備えた一級品になる。
「ありがとうございます!」
イチナは嬉しそうに笑った。
「いいの?ユウ」
「良いんだよ」
弓は、ユウが魏の王女から授かった物で、武芸大会で優勝して貰ったものだ。一流の職人が作り出した逸品。値はつけられない。
天才か…
「ユウ、魚きてる!」
サワの手にある竹の釣り竿が大きくしなる。引きずり込まれそうな勢いだ。
「わかった」
ユウは、サワの方に行って、一緒に竿を引っ張る。
「今日の夕食、なんとか間に合った?」
「うん、ありがと、サワ」
アカメが釣れた。鱗がかたく、下処理を適切に行わないと臭みが強く美味しくない魚だ。適切に処理をすれば大変美味しいと僕は思うが…評価は分かれる魚だな。サワが気に入れば良いけど
夕食
「…うん、なんか、うんって感じ」
いただきますの時の威勢はどうした!と言いたくなる、サワの苦い表情に溜め息が出た。
「ユウ、お腹すいた」
無理もない。今日はまだ一食も食べることができていない。ゴクリと唾を飲み込み、空腹に耐えるのもそろそろ限界みたいだ。夕方、カラスがはるか高い頭上でカァと鳴いた。
「分かってる。僕だってお腹が空いているからね」
川に釣糸を垂らして、魚が食い付くのを待っている。しかし、ユウの釣糸にも、サワの釣糸にも一つも反応はしない。そこそこ大きく、中程は脚がつかない深い川だから、魚がいることは間違いなさそうなのだが。
「イチナちゃん、今日はそれくらいで良いんじゃない?」
イチナは弓矢の練習に精を出す。なんでも、僕とサワが早朝に訓練をしているのを見て、やってみたくなったらしい。イチナが、短刀や長めの千枚通しといった接近戦の武器を扱うのを得意とし、ユウは刀をメインとした戦い方を好む。弓矢は得意な方だが、刀には劣る。
何かやってみたい と申し出たイチナに試しに弓矢を取ってもらった。姿勢を教えて、やってみてもらった。というのが、三日前。
「いえ、まだ、止める訳には」
イチナはキリキリと弓を引いた。狙いを定めて、矢を放つ。ヒョウと音を立てて、矢は数十メートル先の木にクサッと刺さる。
数日の出来ではない。
「百発百中の天才か」
僕は率直にイチナの才能を羨ましく思った。まだ、弓を握って数日だというのに、簡単に矢を飛ばす。
「逆に、なんでやってこなかったの?っていう上手さだよ」
イチナは矢を抜きにいく。
グッと握って、思い切り引き抜く。引き抜けるとパッと顔を明るくして、こちらへ駆けてきた。
「足手まといにならないようにしないと。二人が強いから」
「そうか。なら、もう一つ技を教えよう。イチナさんならすぐに出来るよ」
どうせ釣れないなら、釣り竿はひとまず置いておこう。
ユウはイチナから弓を受け取って、矢を三本取る。
そして、弓構えでは大木を抱くようにしっかりと円相の構えを作る。
打ち起こしでは肩を上げず、体から遠くにすくい上げるように高く打ち起こす。
大三をとるときは肩を動かさない。
大三から引き分けに入るときに、初動で両肩を左右均等に開くように少しだけ真横に引いてから弓を体に引き付けるように引き分ける。完璧な形。
「流石、ユウ。なんか、余裕があるように見える」
サワがそう言うが、神経を集中させて、3本の矢が一気に放たれた。
ダン!
三本の矢は的にしていた木に当たる。しかし、音は一つ。
「凄い」
息を飲むようなスゴワザ。イチナは、一目散に木に駆けた。
三本の矢は、一点に集まっている。そして、抜けないような深さ。
「一本が安定したら、こういうのをやってみても良い。一本よりも、難しいが、威力は格段に上がるから」
「はい」
「しかし、凄い才能だ。僕なんて、矢を真っ直ぐ飛ばせるようになるまでに1年を用したというのに。それも、毎日のように練習をしてだ」
「私は、ただ、二人の役に立ちたい」
「素直で、努力家か。伸びる素質がある」
小声で呟いた。
「え?」
「いや、なんでもない。気がすむまで、練習をしてみるといい。体を壊さない程度にな」
イチナはユウにお辞儀をして、定位置に戻った。
「さて、魚はかかったのかな?」
釣竿を取って、水面に視線を向ける。もちろん、竿が微動だにしないことから分かるように、釣れていない。
「ユウ、いるんだね天才って」
「そうだな」
「ユウは何をしても初めはビリだもんね」
普通の顔をして、何気なく結構酷いことを言う人だ。
「人には言われたくないな」
そして、それが図星。我ながら情けない。僕は昔からそうだ。走るのも、食べるのも、計算も、言葉の習得も、全てが周りからワンテンポ遅れていた。母が天才と崇められ、当然のように僕への期待は大きい。だから、人の10倍は努力して、努力して、才能に溢れた人物として認められる。僕にもし、一つ才能があるとすればそれは努力を続けられる才能だろう。そして、それを簡単に越えるのはいつだって天才だった。
それが、どれ程、悔しいことか凡人には理解されない。
「ま、でも、最後に一番になるのはいつだってユウだけどね」
ニコッと笑いかけられる。
そうか、サワはそう思ってるのか。
「ユウくん、見て」
「はいはい」
矢が三本刺さっている木を見て絶句した。ユウがやったものと姿形がそっくり。嘘だろ、三本での構え方を口で説明したわけでもないのに。この三本の技は武芸大会の練習の過程で試行錯誤を重ねようやく完成させた技なんだ。
「見様見真似だから、ユウくんみたいに上手くは出来なかったけど」
「…いや、僕が教えることはきっと無いな。君の才能に僕は追い付けないだろうから」
ユウは自嘲気味にそうやって笑った。
「凄いね、イチナちゃん」
サワも目を丸くした。ユウは小さく息を吐いて、拳を握った。
「僕のその弓矢あげるよ」
人は凄い才能を目の当たりにしたとき、羨ましいでも嫉妬でも憧れでもなく、ただ、もっと才能を伸ばして欲しいと思う。
「え!?良いんですか?」
嬉しそうに笑みをこぼしたイチナ。こう見ると、ただの少女なのに。
「あぁ、僕が持つよりも、イチナさんが持つ方がきっと有意義だ」
道具は使い手の魂の一部と共鳴する。上手い人が持てば、それだけ道具も柔軟と頑丈を兼ね備えた一級品になる。
「ありがとうございます!」
イチナは嬉しそうに笑った。
「いいの?ユウ」
「良いんだよ」
弓は、ユウが魏の王女から授かった物で、武芸大会で優勝して貰ったものだ。一流の職人が作り出した逸品。値はつけられない。
天才か…
「ユウ、魚きてる!」
サワの手にある竹の釣り竿が大きくしなる。引きずり込まれそうな勢いだ。
「わかった」
ユウは、サワの方に行って、一緒に竿を引っ張る。
「今日の夕食、なんとか間に合った?」
「うん、ありがと、サワ」
アカメが釣れた。鱗がかたく、下処理を適切に行わないと臭みが強く美味しくない魚だ。適切に処理をすれば大変美味しいと僕は思うが…評価は分かれる魚だな。サワが気に入れば良いけど
夕食
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