王への道は険しくて

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賛とヒミカ

思い出を胸に

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 賛はあれから何日経っても戻っては来ない。

賛と過ごした時間が、いかに特別であったか。向かい風が冷たい日も、笑って、高い壁には、努力を積んでよじ登る。賛さんが居たら、私だってそんなことができてしまう気がしていた。もちろん、賛さんと出会って全てが良かった訳ではないし、賛との出会いで私の運命は大きく変わってしまっただろう。

 ヒミカは、集落から外れたところにある落ちかかった矢倉に登る。夜だし、止める人は誰もいない。地上はこんなにも荒れているのに、星を抱き抱えた黒い空は、知らん顔をして変わらない。晩夏の生ぬるい空気が、ヒミカに触れる。
ヒミカは空に浮かんだ星を繋げて星座を作る。
「こんなに明るい星が多かったら、夏の大三角なんて見つけられないよ…」
賛が教えてくれた星座を作ろうとしてもうまくはいかない。
星が降るような日だから、賛さんに逢いたい。どんな口実でも、構わない。ただ、私は賛さんに逢いたい。
今日はこんなことがあって、賛さんは何をしていたんですか?
特別な会話がしたいわけではない。すぐ隣で賛さんが笑っているなら、その一秒を切り取って時を止めたみたいに、そんな時間が続いてほしい。
「賛さん…」
ヒミカは賛の名前をそっと抱くように、祈るように呟いた。

高鳴る鼓動が、賛さんへと赴く足を追い越してしまうような心地がしていた。
賛さんが、私の名前を呼ぶ度に私の名前は特別になっていく。もう、誰に渡すことも、変えることも出来ない。
遠くに居ても、子供みたいに大きく手を振って笑いかける姿はもうそこには見えない。ようやく、なんのわだかまりもなく一緒に居ることが叶ったのに。


あんなに笑いながら喋っていたときも、影からヒタヒタと迫っていた別れが憎い。

「あー!もう、好きになんかならなければ良かった!」

矢倉の上から、天に向かって叫んだ。
「姉上!」
下からタヨの声がして、体を半分乗り出して、下を覗き込むとタヨが一人で立っていた。
「タヨ?」
「賛さんのこと、タヨは好き!だから、姉上、好きになんかならなきゃ良かった なんて言わないで!」
タヨがそんなことを急に言うものだから、ヒミカは驚いた。タヨは梯子を登って、ヒミカのいる矢倉の上までやってくる。

「姉上、賛さんの心を大切にして」
「賛さんの心?」
「きっと、賛さんは、姉上を信じて星になったんだ」
タヨは一際明るい北極星を指した。季節が変わろうと、時間が変わろうと、同じ場所で夜を照らし、人々の道しるべになる北極星。ヒミカには北極星が笑いかけた気がした。それは、まるで賛がヒミカによく見せてくれた無邪気な笑いに見えた。

 賛さんはこのクニの未来を、切り拓こうと一生懸命だった。自分には関係の無いような時代の話なのに。これから、賛さんが居ないこの時代を担うのは、私や、タヨみたいな人たち。いっぱい間違えるかもしれないし、理想通りになんかいかない。そんなことはとっくに知っている。でも、私は賛さんが一生懸命に創ろうとした世界を、見てみたい。何ができるかなんて、やってみないと分からない。でも、もしも、賛さんが見ているなら、私は命を懸けてでも賛さんの志を継ぐし、実現のために最大限に努力をする。だって
「今日と明日を繰り返せば、2000年後の世界に辿り着くから」
「どういうこと?」
「タヨも分かるよ、いつか」
ヒミカはそう言って、タヨの頭を撫でた。

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