34 / 38
クウとヒミカ
仕事
しおりを挟む
「クウなんか最近調子いいよな。なんかあったのか?」
気がつくと同期の二人に囲まれていた。
「いえ、いつも通りですけど?」
一度手を止める。
「嘘をつけ、さては、好きなおなごでも出来たんだろう?」
「あー、この顔、図星っすね」
「誰なんだ?同期の俺たちにくらい教えてくれよ」
「言っても、馬鹿にするだろう?」
「しないしない」
「そうだ、長年の付き合いだろう?厳しい激務を耐え抜き続けた我らの仲ではないか」
「そうだぞ。良いじゃないか、クウ以外、みんな結婚も決まっているし気を使わなくともいい」
「さては、文を貰ったのだろう?」
肩に手を置かれる。
後ろ斜め上を向いて、同期に目を合わす。
「馬鹿を言うな、貰えるわけがない!」
「クウがそう大きな声を出すとは」
普段、穏やかである分大きな声を出しただけで驚かれた。
「でも、これは好きな人がいると認めたようなもの。さ、誰だ?」
「……女王様が好きだ」
ブッと吹き出した二人。
「んだ?それは新手の冗談か?」
「女王陛下は、天涯孤独を貫かれると噂だぜ。何でも、夫であった先代の王を忘れられないから」
「俺の聞いた噂では、軍部大臣の甥っ子と良い感じだとか」
「それを言うなら、王都長のご子息とも」
耳を塞ぐクウ。
その反応と今までの素直で真面目な性格から、二人の顔が変わる。
「本気?嘘じゃなくて?」
「当たり前だ。必ずや、女王様を振り向かせます!」
側にいた二人はドッと吹き出した。無理もない。誰が、女王とただの職員とが恋をするなんて思うだろう。
クウは、それから、女王に会う口実を色々と考え、それらを実行するために仕事を頑張った。生半可な気持ちで、女王の前に立てるわけがない。相手は、忙しい時間をわざわざ取ってくれている。
「女王様」
「また、クウさんですか?今度はどういったお話ですか?」
「軍学校用の防衛学を学ぶ教科書の中身で、馬を用いた戦術を扱いたいのですが、文献が少なく…」
「分かりました。また、王の蔵書と、魏からの文献の使用権を認めます。無ければ、外交部にその旨を伝えて、魏から取り寄せてください」
ヒミカは、ただただ丁寧に業務をこなしていく。それは、女王の姿勢として、正しいことだろう。ただ、何か一つきっかけの欲しいクウにとってちょっぴり寂しいものでもある。
「では、次の仕事が控えておりますので」
そう言って立ち上がった、ヒミカ。クウは勇気をもってそれを引き留める。
「あの、お待ちください」
「どうしたんですか?」
「女王様は、このクニの子供に、どのような大人になって欲しいとお思いですか?」
教育に力をいれ、人を育てることに注力しようと決めたのは賛。ヒミカは、賛がこのクニの未来を語る時の言葉を思い出す。
「それは…何歳になっても、どこに行っても、夢を持って生きることのできる人です。教育を受けるということは、ただ、読み書きと計算のためではありません。自らの可能性の幅を広げるためにあるのですから、その可能性をつかみとる原動力ともいえる夢、将来に夢を抱ける人を育てることが我々にとってもっとも大事なことであり、そういう人が育って欲しいと思っています」
やはり、この女王は凄い方なのだ。
そんな風に思った。強い意志を持って、このクニをより良い未来へ導こうとされる。今までの王であれば、変化を恐れ、前例にならうばかりで、意味などきっと考えていなかった。でも、この人は違う。新たな時代の幕開けにふさわしい。
「将来に夢を抱ける人…」
「そうです。でも、それは、私の思うこと。きっと、そう尋ねたということは、クウさんの思う、こんな大人になって欲しいというのがあるのでしょう?私は、私のものと違っていても、それも素晴らしいと思いますよ」
「そうですか?」
パーッと明るい顔をしたクウ。それを見て、ヒミカはどこか満足そうな表情を浮かべ、部屋を出た。
気がつくと同期の二人に囲まれていた。
「いえ、いつも通りですけど?」
一度手を止める。
「嘘をつけ、さては、好きなおなごでも出来たんだろう?」
「あー、この顔、図星っすね」
「誰なんだ?同期の俺たちにくらい教えてくれよ」
「言っても、馬鹿にするだろう?」
「しないしない」
「そうだ、長年の付き合いだろう?厳しい激務を耐え抜き続けた我らの仲ではないか」
「そうだぞ。良いじゃないか、クウ以外、みんな結婚も決まっているし気を使わなくともいい」
「さては、文を貰ったのだろう?」
肩に手を置かれる。
後ろ斜め上を向いて、同期に目を合わす。
「馬鹿を言うな、貰えるわけがない!」
「クウがそう大きな声を出すとは」
普段、穏やかである分大きな声を出しただけで驚かれた。
「でも、これは好きな人がいると認めたようなもの。さ、誰だ?」
「……女王様が好きだ」
ブッと吹き出した二人。
「んだ?それは新手の冗談か?」
「女王陛下は、天涯孤独を貫かれると噂だぜ。何でも、夫であった先代の王を忘れられないから」
「俺の聞いた噂では、軍部大臣の甥っ子と良い感じだとか」
「それを言うなら、王都長のご子息とも」
耳を塞ぐクウ。
その反応と今までの素直で真面目な性格から、二人の顔が変わる。
「本気?嘘じゃなくて?」
「当たり前だ。必ずや、女王様を振り向かせます!」
側にいた二人はドッと吹き出した。無理もない。誰が、女王とただの職員とが恋をするなんて思うだろう。
クウは、それから、女王に会う口実を色々と考え、それらを実行するために仕事を頑張った。生半可な気持ちで、女王の前に立てるわけがない。相手は、忙しい時間をわざわざ取ってくれている。
「女王様」
「また、クウさんですか?今度はどういったお話ですか?」
「軍学校用の防衛学を学ぶ教科書の中身で、馬を用いた戦術を扱いたいのですが、文献が少なく…」
「分かりました。また、王の蔵書と、魏からの文献の使用権を認めます。無ければ、外交部にその旨を伝えて、魏から取り寄せてください」
ヒミカは、ただただ丁寧に業務をこなしていく。それは、女王の姿勢として、正しいことだろう。ただ、何か一つきっかけの欲しいクウにとってちょっぴり寂しいものでもある。
「では、次の仕事が控えておりますので」
そう言って立ち上がった、ヒミカ。クウは勇気をもってそれを引き留める。
「あの、お待ちください」
「どうしたんですか?」
「女王様は、このクニの子供に、どのような大人になって欲しいとお思いですか?」
教育に力をいれ、人を育てることに注力しようと決めたのは賛。ヒミカは、賛がこのクニの未来を語る時の言葉を思い出す。
「それは…何歳になっても、どこに行っても、夢を持って生きることのできる人です。教育を受けるということは、ただ、読み書きと計算のためではありません。自らの可能性の幅を広げるためにあるのですから、その可能性をつかみとる原動力ともいえる夢、将来に夢を抱ける人を育てることが我々にとってもっとも大事なことであり、そういう人が育って欲しいと思っています」
やはり、この女王は凄い方なのだ。
そんな風に思った。強い意志を持って、このクニをより良い未来へ導こうとされる。今までの王であれば、変化を恐れ、前例にならうばかりで、意味などきっと考えていなかった。でも、この人は違う。新たな時代の幕開けにふさわしい。
「将来に夢を抱ける人…」
「そうです。でも、それは、私の思うこと。きっと、そう尋ねたということは、クウさんの思う、こんな大人になって欲しいというのがあるのでしょう?私は、私のものと違っていても、それも素晴らしいと思いますよ」
「そうですか?」
パーッと明るい顔をしたクウ。それを見て、ヒミカはどこか満足そうな表情を浮かべ、部屋を出た。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
選ばれたのは美人の親友
杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
秀才くんの憂鬱
N
ファンタジー
主人公は、歴史上存在を否定される卑弥呼の息子
表向きは、何でもできてしまう超絶優秀王子であるが、内心はその自らの立場ゆえの葛藤を持つ。
王子でも王にはなれない運命を背負いながらも、国民のために伝説の剣を探しに旅に出る。旅の中で、男は少しずつ成長していく。
王への道~僕とヒミカの成長録~
の続編。王への道を読んだ人も、まだの人も楽しめる!
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる