王への道は険しくて

N

文字の大きさ
上 下
31 / 38
クウとヒミカ

独り

しおりを挟む
 賛と別れて、ヒミカは酷く落ち込んでいた。いつかは、そうなる運命があることくらい分かりきっていて、準備はしているつもりだったのに。

 壊れかけた矢倉に登り、月を独り占めする。真ん丸と膨らんだ月は、十六夜だろうか。見た目では欠けたところのない望月と遜色はないが、確かに何かを欠いて、後は、その欠けたところを大きくしていくのだ。

 潰れて、真ん中の支柱となる柱がむき出しになった住居に、ボロボロになって、土が荒れている田んぼ。茶色く濁った川に、えぐられた山。好きだった景色はそこにはない。賛さんが必死に作ろうとしていた学校だって無惨な形になっている。

一人じゃないから
僕が君を守るよ 

そんな風に言って、隣で励ましてくれる賛はもういない。素直で真面目な努力家。だから、皆、無名であっても付いていこうと思えたんだ。

「賛さん…どうしたら良い?」

月に問いかけて、答えなんて返ってくるはずがないのに。

「王妃様!」
下から声がした。
もう、王妃の職は解かれるべきなのに、国民は、ただ一人、私にすがる。私は、自分ではなにもしていない。ただ、賛さんの志を心に持って、少しだけでもこの国に恩返しをしたい。ただ、それだけなんだ。
「今、行きます」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

悪役令嬢の残した毒が回る時

水月 潮
恋愛
その日、一人の公爵令嬢が処刑された。 処刑されたのはエレオノール・ブロワ公爵令嬢。 彼女はシモン王太子殿下の婚約者だ。 エレオノールの処刑後、様々なものが動き出す。 ※設定は緩いです。物語として見て下さい ※ストーリー上、処刑が出てくるので苦手な方は閲覧注意 (血飛沫や身体切断などの残虐な描写は一切なしです) ※ストーリーの矛盾点が発生するかもしれませんが、多めに見て下さい *HOTランキング4位(2021.9.13) 読んで下さった方ありがとうございます(*´ ˘ `*)♡

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

処理中です...