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賛とヒミカ
恋
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恋
意味や解釈は人によって異なる。時に、あっと驚くような恋の定義を耳にすることがある。無論、それが正しい1つの答えであるわけではないが、そういう話題で盛り上がることも多い。
「カン、助けて~」
「どうした?もう、酒飲んできたか?」
現代でいうファミレスのような所で、カンとランチをかねた女子会を開催中である。
「だって、賛さんが、何て言うか私に興味なさそうっていうか、好きって感じがないし」
まぁ、契約結婚だから別に恋愛感情が必要な訳ではないんだけど。でも、噂によると効果抜群だという、後ろから抱きつく行為でさえ、全くの効果なしだった。
「え~、まだ、一年も経ってないのに?」
「うん」
「まぁ、確かに、賛くんがヒミカに甘えてたりするのは想像できないかも」
「やっぱり、私、捨てられちゃうのかな」
「捨てられるってことはないと思うけど」
「だって、賛さんだよ。もっと、いい人いっぱい居るでしょ」
「ヒミカが側にいてそんなことある?」
シューはヒミカが隣に居ても、カン一筋でしたけど。とは、本人に言いにくい。
「賛さんの本心が分からなくて」
「あたしから見たら、賛さんはヒミカのこともタヨくんのことも大事にしてるように写るけど」
「賛さんは優しいからみんなにそうしてるよ。こう、大切からもう一歩上の特別に行きたい!」
「まぁ、分からんでもないが。でも、それぞれの関係の深め方があるんじゃない?賛くんの住んでた地域ではそういう感じなのかもよ」
「そうなのかなぁ」
「それか、ヒミカに気を遣いすぎてるのかもよ。賛くん、王選に向けて頑張ってるけど、よく心配してるみたいだよ。落ちたときのことも受かったときのことも。ヒミカさんたちの生活はどうなってしまうのだろう?って」
「え、そんな言葉、私、聞いたことないかも」
「じゃぁ、きっと、二人を心配するあまり、ちょっと素っ気ない態度になってるんじゃない?相手のことを強く思うほど、失ったときや相手が悲しんでいるときは辛いよ」
「そうだよね」
所詮は契約上の関係で、私は、賛さんを裏切るのに、なのに、変に恋心を抱いてしまった。そして、カンのいう通り、失うのが怖い。この、ようやく手にいれた幸せを手放したくない。
「ヒミカさ、ここんとこ凄く楽しそうで、私、嬉しいんだよね。やっと、普通の幸せを手に入れて、今までのヒミカが感じてた辛いことをさ、賛くんが少しずつ楽しい思い出で上書きしてくれてる感じがして。ヒミカって本当に賛くんが好きなんだなって」
「…うん」
カンは一拍置いて口を開いた。
「賛くん、なんで好きになったの?気付いてないとでも、思った?賛くんとの馴れ初め話って嘘だよね。つまり、二人の間には別に特別な感情があった訳じゃないんでしょ?」
「え?何言ってるの?賛さんは旅商人で、昔に会ったことがあって、再会してから」
「あたしとシューをくっつけるための口実に賛くんを使った。違う?」
「違うよ」
「だって、あたし、見てたんだ。賛くんが、村の門の近くに落ちてきた所。その日からだった。賛くんがこの村に来たの。それに、ヒミカとの会話もぎこちないし、よそよそしいし。別に、珍しいことじゃないけど、タヨのこともあるし、ヒミカは信頼できる相手と判断してから、家に招くと思ってたから」
カンに問い詰められる。何十回と訂正するも、カンも頑なに曲げようとしない。
「賛さんに…ただ、夫としての役をさせてた。誰にも、言わないで、お願い」
「やっぱり、そうだったんだ。別に、あたしは、それ悪いことだと思ってないから、秘密、守るよ」
カリン以外にばれたのは初めてだった。
心拍が速まる。カンに突き出された小指に、自分の小指を絡める。
「で、なんで、好きになったの?嘘抜きで、ね」
普通のカンの調子。切り替えのはやい人だ。
「賛さんと、初めて会ったとき、なんか迷子の仔犬みたいで、頼りないし、意味不明な地名を話し出すし、でも、一緒にいる時間が増えていく度に、努力家な所や、優しい所や、頼りになる所をたくさん見て、どういう言い方が正しいか分からないけど、賛さんの隣で笑っているよりも、賛さんに笑っていてほしいって思えたから、多分、好きになったんだと思う」
「え、素敵すぎ、賛くんってそんな感じなんだぁ」
「誰かと一緒に過ごすのがこんなに楽しいことなくて。あ、カンは別腹だけど」
「あぁぁ、賛くんをヒミカに振り向かせたい!こんなに良い子なのにー!」
カンはヒミカの頭をワシャワシャとする。
「でも、そっちの給仕の娘に恋文貰ってるの」
ヒミカ的にはずっとあの手紙が引っ掛かっていたのだ。
「フヤエちゃん?」
「そう」
「あぁ、それなら心配無用。賛さん、きっぱり断ってたよ。
僕には、妻がいて、義弟もいるから気持ちに応えられない。それに、僕は、その二人のことが一番だから。って。
賛くん、なよなよしてる割りに、急に男前なこと言うよね」
ヒミカは胸を撫で下ろす。
「良かったぁ」
「好きなんだったら、そう、言っちゃえば良いのに。好きです、結婚してくださいって」
「もう、結婚はしてるよ」
「あ、そっか」
「それに、いや、これは、本当に、あのー、個人的なあれっていうか、それなんだけど」
私は賛さんに何を求めているんだ。側にいて、支えてくれているそれで十分なのに。
「それって何?」
もっともな疑問である。
「だから、あれじゃん、カンはきっとどこ吹く風って感じだろうけど、私は、賛さんに一人の恋愛対象の相手として見られて、それから付き合いたいの!」
「見られてないの?毎日のように顔会わせて、喋ってってしてたら」
「そこ、そこが問題なんだよ。なんか慣れすぎちゃったっていうか。いや、良いことなんだけど」
「それ、熟年夫婦」
「賛さん私に、さすがです!とか、尊敬してますとか、ありがとうございますって言ってくれるんだけど、それは、一女性というよりも、ヒトとしてじゃん、嬉しいよ、嬉しいけど」
「あぁ、賛くんが言いそう」
「シュー様って、何て言ってるの?カンのこと、可愛いとか?」
カンは、急に降りかかってきた特大ブーメランのダメージを、お茶で流し込む。
「…あ、愛してる」
「はぁ?え、なにそれ、言われるの?一回も言われたことない。シュー様にも賛さんにも」
ヒミカは一応でも、シューの元許嫁である。だが、そんなことを言われた試しはない。
「まぁ、そんないっぱいは言わないけど、ちょっと照れながら」
「えー!私も、賛さんに言われてみたい!」
カランと音がして、店の戸が開く。カンは視線をそっちに投げる。
シューだ。
シューはこちらに駆け寄ってくる。
「カン、カンに会いたいって使節団の方が」
「え?急に?」
「何でも、通訳が寝込んでしまったそうだ。西南村の視察に来ていたから、それでどうしてもこの村唯一の渡来人に会いたいと。まぁ、通訳をお願いされているってこと」
「シューの言葉なら通じるよ、シューで通訳務まる」
「私もそうしようと思ったのだが、使節側
が、国家の安寧に関わることを話す会議にどこの誰とも知らぬ私は置けないと」
「いやそれ私も同じじゃん」
行きたくなささそうな素振りを見せるカン。
「カンは、渡来人で向こうの国の人たちは信頼してるんでしょ。カン、行ってきなよ」
「ヒミカまでー」
と、言いつつも、シューにうながされるがままに連れていかれたカン。
ポツンと取り残されたヒミカ。急に静かになって、不意に寂しく思えた。
ヒミカは会計を済ませて、店を出る。
雨
サラサラと降る雨は地面に水溜まりを作り出す。屋根の外に一歩出て、肩が濡れる。
相合い傘をしている友人が目に入る。
「いいなぁ」
ふと漏れたその言葉が自分のものであるとは気づけない。
シゴトで、賛に変な情を抱くことなど許されない。そんなことは重々承知のはずなのに。賛が振り向くと嬉しい、居ないと寂しい。複雑に絡み合った感情を追い出して、真っ直ぐに彼を見つめることは出来ないだろうか。恋をして、普通の生活に憧れるのは罪だろうか。
意味や解釈は人によって異なる。時に、あっと驚くような恋の定義を耳にすることがある。無論、それが正しい1つの答えであるわけではないが、そういう話題で盛り上がることも多い。
「カン、助けて~」
「どうした?もう、酒飲んできたか?」
現代でいうファミレスのような所で、カンとランチをかねた女子会を開催中である。
「だって、賛さんが、何て言うか私に興味なさそうっていうか、好きって感じがないし」
まぁ、契約結婚だから別に恋愛感情が必要な訳ではないんだけど。でも、噂によると効果抜群だという、後ろから抱きつく行為でさえ、全くの効果なしだった。
「え~、まだ、一年も経ってないのに?」
「うん」
「まぁ、確かに、賛くんがヒミカに甘えてたりするのは想像できないかも」
「やっぱり、私、捨てられちゃうのかな」
「捨てられるってことはないと思うけど」
「だって、賛さんだよ。もっと、いい人いっぱい居るでしょ」
「ヒミカが側にいてそんなことある?」
シューはヒミカが隣に居ても、カン一筋でしたけど。とは、本人に言いにくい。
「賛さんの本心が分からなくて」
「あたしから見たら、賛さんはヒミカのこともタヨくんのことも大事にしてるように写るけど」
「賛さんは優しいからみんなにそうしてるよ。こう、大切からもう一歩上の特別に行きたい!」
「まぁ、分からんでもないが。でも、それぞれの関係の深め方があるんじゃない?賛くんの住んでた地域ではそういう感じなのかもよ」
「そうなのかなぁ」
「それか、ヒミカに気を遣いすぎてるのかもよ。賛くん、王選に向けて頑張ってるけど、よく心配してるみたいだよ。落ちたときのことも受かったときのことも。ヒミカさんたちの生活はどうなってしまうのだろう?って」
「え、そんな言葉、私、聞いたことないかも」
「じゃぁ、きっと、二人を心配するあまり、ちょっと素っ気ない態度になってるんじゃない?相手のことを強く思うほど、失ったときや相手が悲しんでいるときは辛いよ」
「そうだよね」
所詮は契約上の関係で、私は、賛さんを裏切るのに、なのに、変に恋心を抱いてしまった。そして、カンのいう通り、失うのが怖い。この、ようやく手にいれた幸せを手放したくない。
「ヒミカさ、ここんとこ凄く楽しそうで、私、嬉しいんだよね。やっと、普通の幸せを手に入れて、今までのヒミカが感じてた辛いことをさ、賛くんが少しずつ楽しい思い出で上書きしてくれてる感じがして。ヒミカって本当に賛くんが好きなんだなって」
「…うん」
カンは一拍置いて口を開いた。
「賛くん、なんで好きになったの?気付いてないとでも、思った?賛くんとの馴れ初め話って嘘だよね。つまり、二人の間には別に特別な感情があった訳じゃないんでしょ?」
「え?何言ってるの?賛さんは旅商人で、昔に会ったことがあって、再会してから」
「あたしとシューをくっつけるための口実に賛くんを使った。違う?」
「違うよ」
「だって、あたし、見てたんだ。賛くんが、村の門の近くに落ちてきた所。その日からだった。賛くんがこの村に来たの。それに、ヒミカとの会話もぎこちないし、よそよそしいし。別に、珍しいことじゃないけど、タヨのこともあるし、ヒミカは信頼できる相手と判断してから、家に招くと思ってたから」
カンに問い詰められる。何十回と訂正するも、カンも頑なに曲げようとしない。
「賛さんに…ただ、夫としての役をさせてた。誰にも、言わないで、お願い」
「やっぱり、そうだったんだ。別に、あたしは、それ悪いことだと思ってないから、秘密、守るよ」
カリン以外にばれたのは初めてだった。
心拍が速まる。カンに突き出された小指に、自分の小指を絡める。
「で、なんで、好きになったの?嘘抜きで、ね」
普通のカンの調子。切り替えのはやい人だ。
「賛さんと、初めて会ったとき、なんか迷子の仔犬みたいで、頼りないし、意味不明な地名を話し出すし、でも、一緒にいる時間が増えていく度に、努力家な所や、優しい所や、頼りになる所をたくさん見て、どういう言い方が正しいか分からないけど、賛さんの隣で笑っているよりも、賛さんに笑っていてほしいって思えたから、多分、好きになったんだと思う」
「え、素敵すぎ、賛くんってそんな感じなんだぁ」
「誰かと一緒に過ごすのがこんなに楽しいことなくて。あ、カンは別腹だけど」
「あぁぁ、賛くんをヒミカに振り向かせたい!こんなに良い子なのにー!」
カンはヒミカの頭をワシャワシャとする。
「でも、そっちの給仕の娘に恋文貰ってるの」
ヒミカ的にはずっとあの手紙が引っ掛かっていたのだ。
「フヤエちゃん?」
「そう」
「あぁ、それなら心配無用。賛さん、きっぱり断ってたよ。
僕には、妻がいて、義弟もいるから気持ちに応えられない。それに、僕は、その二人のことが一番だから。って。
賛くん、なよなよしてる割りに、急に男前なこと言うよね」
ヒミカは胸を撫で下ろす。
「良かったぁ」
「好きなんだったら、そう、言っちゃえば良いのに。好きです、結婚してくださいって」
「もう、結婚はしてるよ」
「あ、そっか」
「それに、いや、これは、本当に、あのー、個人的なあれっていうか、それなんだけど」
私は賛さんに何を求めているんだ。側にいて、支えてくれているそれで十分なのに。
「それって何?」
もっともな疑問である。
「だから、あれじゃん、カンはきっとどこ吹く風って感じだろうけど、私は、賛さんに一人の恋愛対象の相手として見られて、それから付き合いたいの!」
「見られてないの?毎日のように顔会わせて、喋ってってしてたら」
「そこ、そこが問題なんだよ。なんか慣れすぎちゃったっていうか。いや、良いことなんだけど」
「それ、熟年夫婦」
「賛さん私に、さすがです!とか、尊敬してますとか、ありがとうございますって言ってくれるんだけど、それは、一女性というよりも、ヒトとしてじゃん、嬉しいよ、嬉しいけど」
「あぁ、賛くんが言いそう」
「シュー様って、何て言ってるの?カンのこと、可愛いとか?」
カンは、急に降りかかってきた特大ブーメランのダメージを、お茶で流し込む。
「…あ、愛してる」
「はぁ?え、なにそれ、言われるの?一回も言われたことない。シュー様にも賛さんにも」
ヒミカは一応でも、シューの元許嫁である。だが、そんなことを言われた試しはない。
「まぁ、そんないっぱいは言わないけど、ちょっと照れながら」
「えー!私も、賛さんに言われてみたい!」
カランと音がして、店の戸が開く。カンは視線をそっちに投げる。
シューだ。
シューはこちらに駆け寄ってくる。
「カン、カンに会いたいって使節団の方が」
「え?急に?」
「何でも、通訳が寝込んでしまったそうだ。西南村の視察に来ていたから、それでどうしてもこの村唯一の渡来人に会いたいと。まぁ、通訳をお願いされているってこと」
「シューの言葉なら通じるよ、シューで通訳務まる」
「私もそうしようと思ったのだが、使節側
が、国家の安寧に関わることを話す会議にどこの誰とも知らぬ私は置けないと」
「いやそれ私も同じじゃん」
行きたくなささそうな素振りを見せるカン。
「カンは、渡来人で向こうの国の人たちは信頼してるんでしょ。カン、行ってきなよ」
「ヒミカまでー」
と、言いつつも、シューにうながされるがままに連れていかれたカン。
ポツンと取り残されたヒミカ。急に静かになって、不意に寂しく思えた。
ヒミカは会計を済ませて、店を出る。
雨
サラサラと降る雨は地面に水溜まりを作り出す。屋根の外に一歩出て、肩が濡れる。
相合い傘をしている友人が目に入る。
「いいなぁ」
ふと漏れたその言葉が自分のものであるとは気づけない。
シゴトで、賛に変な情を抱くことなど許されない。そんなことは重々承知のはずなのに。賛が振り向くと嬉しい、居ないと寂しい。複雑に絡み合った感情を追い出して、真っ直ぐに彼を見つめることは出来ないだろうか。恋をして、普通の生活に憧れるのは罪だろうか。
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