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賛とヒミカ
照れてません!
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「ヒミカちゃん、お薬だって。ニンジンの根と、よもぎ薬」
「はい、今持っていきます」
ヒミカは、棚から言われた二つの薬を取り出して、患者が待つ、薬の受け取り口へ向かう。腰の曲がったおばあちゃんがそこには居た。見ない顔に少し、戸惑いつつ丁寧に対応する。
「こちらが、よもぎ薬です。痛みのある箇所に塗ってください。それと、大体半日おきくらいに患部は洗うようにしてくださいね。清潔さを保つのは大事なので」
ニコッと笑顔を添える。笑顔は万能薬だ。人に安心感を与えることができる唯一の特効薬なのだ。すると、おばあちゃんは、ヒミカの手をじっと見つめる。
「あんた、若いのに苦労手だねぇ」
ヒミカは、自分の手を見る。赤くなって、関節のところには切り傷がいくつもついて、掌にはマメがある。
「寒いと関節のところで切れてしまって」
「そうかい、大変だねぇ、薬師さんは」
「どのお仕事も大変ですよ」
「良い、薬師さんだねぇ」
良い薬師…薬の知識を使って毒を作るのが本当に良い薬師がすることなのだろうか。ヒミカは、一度手を止める。
「ありがとうございます」
「頑張ってくださいね」
「はい、お大事になさってください」
おばあさんと入れ替わるように、カンがやってくる。
「カン、どうしたの?」
「お腹が痛くて」
カンは眉間にシワを寄せて、お腹をさする。
「なんか、悪いものでも食べた?」
「いや、心のあたりないけど」
「じゃぁ、診察するから中に入って」
ヒミカは診察台にカンを寝かせて、カンの腹部を触診する。
特に変なところはないな。心労からくるものか、食あたりか、
「腹痛以外に症状は?例えば、下痢とか」
「そういうのはないんだけど」
「痛いのは胃?それとも、お腹の下らへん?」
「下」
熱は無いみたい。
「お薬、だしておきますね」
「ヒミカが薬師してるってなんか変な感じだわ」
「変じゃないって」
「そう?まぁ、ありがとね」
「お仕事ですから」
そつなく、薬師として仕事をこなすヒミカ。
「お大事に」
「帰ったら寝とくわ」
薬師に暇はない。
カンが帰っても、患者が絶えずやってくる。小さな村と言えど、この村には薬師がいるのはここしかないのだ。
ヒミカはグーッと伸びをする。
仕事をしているうちに、夜に差し掛かる。
「ヒミカ、弟ちゃんも帰ってくるんでしょ、あとはやっておくから帰って」
「ありがとうございます」
ヒミカは、ざっと荷物を抱えてから、走って家まで戻る。タヨ、お腹空かせて待ってるだろうな。
「ただいま」
家に帰ると、タヨと賛さんが居た。
「お帰りなさい、お仕事、お疲れさまです」
「賛さん、来てたんですか?」
走って帰ってきて髪の毛もボサボサだし、こんな疲れ顔なのに。
「姉上、おかえりー、賛さんが、夕御飯作ってくれた!」
「え、あの、すみません、ありがとうございます」
いい香りはそれかー!
「いや、そんな、レトルトカレーなんで。ご飯はタヨさんにお任せでしたし、僕はほんと何も」
そう言いながら、賛はカレーライスを持ってくる。カレー特有のスパイスの香りは食欲をそそる。
「いいんですか?」
「はい、美味しいですよ」
賛はこちらをニコニコしながら見てくる。
「やったー!カレー」
「タヨは食べたことあるの?」
「姉上が出張の時、賛さんが作ってくれた!超絶おいしいんだよ」
あの、グルメのタヨがおいしいって言うってことはおいしいんだろうな。
「市販のだから、味に間違いはないかと…」
カレーを食べてみるヒミカ。
「ん、美味しいです」
「賛さん、姉上が言ってたんだけど、愛情を込めるから美味しくなるんだって、愛情は最高の隠し味らしいよ」
「ちょ、タヨ」
うわー、恥ずかしい。賛をちらっと見ると、目があった。
「いっぱい入れといたよ愛情、いつもありがとう、美味しくなーれってね。タヨさんのにも、ヒミカさんのにも」
「あれ?姉上、顔赤い?」
「温かいから、血行促進されて赤くなってるだけだから!」
「賛さん、きっと姉上、照れてるんだよ。って、賛さんも赤い?」
「こ、これは、スパイスで赤くなってるだけだから!」
「もしかして、二人って」
「な、何?」
「カレー、好きすぎて照れてるの?今日、友達が好きな子の前だと照れちゃうって言ってたの」
ほっと胸を撫で下ろす。
「そ、そうなんですよ、タヨさん」
カレーに照れるというのは意味不明なのだがそうらしい。
カレーを食べ終えて、賛さんを送りにいく。
「じゃ、賛さん送ってくるから、タヨはお留守番ね」
「え~」
「じゃぁね、タヨさん」
一歩外に出ると、銀の砂が散りばめられた黒いキャンバスが広がっていた。
「今日は、新月ですか?」
「はい、星が綺麗に見えます。あ、見て、流れ星!」
「え?どこどこ」
賛は目を凝らす。子供っぽいその仕草にクスッと笑いが込み上げる。
「信じられないです、きっと、一年前の私なら、流れ星を見たってなんとも思わないのに、賛さんと一緒だと見つけるのも楽しくて」
「え?それって」
「だって、賛さんの流れ星を探すときの格好が面白いんですもん」
賛はあたまを傾げる。
「えー、僕の時代では流れ星なんて滅多に見れないんですって」
2000年後の世界、賛さんの時代、見てみたい。
「ねぇ、賛さん、夕食の時、照れてましたか?」
「や、やだなぁ、照れないですよ」
「本当ですか?」
「そういうヒミカさんは、どうなんですか?」
「私は、ちょっと嬉しかったです。賛さんが、私のことを思って作ってくれたのかなって思ったら」
顔をそらす賛。
「そ、そうですか、だったら良かったです」
「今日、仕事が立て込んで、疲れてたんで、一層。顔、見て、お礼が言いたいです」
「い、いいですよ、声だけで充分です!」
「照れてるんですか?」
「て、照れてません!」
動揺の分かりやすい人だな。素直な人なんだろうな。
「あの、じゃぁ、僕はこれで」
「気をつけてくださいね」
「はい、ヒミカさんも」
賛は、恥ずかしさからか急いで帰ってしまった。
「私も、顔、赤いんだろうなぁ」
顔を見せて欲しかった気持ちと、見られなくて良かった気持ちが半々のヒミカであった。
「はい、今持っていきます」
ヒミカは、棚から言われた二つの薬を取り出して、患者が待つ、薬の受け取り口へ向かう。腰の曲がったおばあちゃんがそこには居た。見ない顔に少し、戸惑いつつ丁寧に対応する。
「こちらが、よもぎ薬です。痛みのある箇所に塗ってください。それと、大体半日おきくらいに患部は洗うようにしてくださいね。清潔さを保つのは大事なので」
ニコッと笑顔を添える。笑顔は万能薬だ。人に安心感を与えることができる唯一の特効薬なのだ。すると、おばあちゃんは、ヒミカの手をじっと見つめる。
「あんた、若いのに苦労手だねぇ」
ヒミカは、自分の手を見る。赤くなって、関節のところには切り傷がいくつもついて、掌にはマメがある。
「寒いと関節のところで切れてしまって」
「そうかい、大変だねぇ、薬師さんは」
「どのお仕事も大変ですよ」
「良い、薬師さんだねぇ」
良い薬師…薬の知識を使って毒を作るのが本当に良い薬師がすることなのだろうか。ヒミカは、一度手を止める。
「ありがとうございます」
「頑張ってくださいね」
「はい、お大事になさってください」
おばあさんと入れ替わるように、カンがやってくる。
「カン、どうしたの?」
「お腹が痛くて」
カンは眉間にシワを寄せて、お腹をさする。
「なんか、悪いものでも食べた?」
「いや、心のあたりないけど」
「じゃぁ、診察するから中に入って」
ヒミカは診察台にカンを寝かせて、カンの腹部を触診する。
特に変なところはないな。心労からくるものか、食あたりか、
「腹痛以外に症状は?例えば、下痢とか」
「そういうのはないんだけど」
「痛いのは胃?それとも、お腹の下らへん?」
「下」
熱は無いみたい。
「お薬、だしておきますね」
「ヒミカが薬師してるってなんか変な感じだわ」
「変じゃないって」
「そう?まぁ、ありがとね」
「お仕事ですから」
そつなく、薬師として仕事をこなすヒミカ。
「お大事に」
「帰ったら寝とくわ」
薬師に暇はない。
カンが帰っても、患者が絶えずやってくる。小さな村と言えど、この村には薬師がいるのはここしかないのだ。
ヒミカはグーッと伸びをする。
仕事をしているうちに、夜に差し掛かる。
「ヒミカ、弟ちゃんも帰ってくるんでしょ、あとはやっておくから帰って」
「ありがとうございます」
ヒミカは、ざっと荷物を抱えてから、走って家まで戻る。タヨ、お腹空かせて待ってるだろうな。
「ただいま」
家に帰ると、タヨと賛さんが居た。
「お帰りなさい、お仕事、お疲れさまです」
「賛さん、来てたんですか?」
走って帰ってきて髪の毛もボサボサだし、こんな疲れ顔なのに。
「姉上、おかえりー、賛さんが、夕御飯作ってくれた!」
「え、あの、すみません、ありがとうございます」
いい香りはそれかー!
「いや、そんな、レトルトカレーなんで。ご飯はタヨさんにお任せでしたし、僕はほんと何も」
そう言いながら、賛はカレーライスを持ってくる。カレー特有のスパイスの香りは食欲をそそる。
「いいんですか?」
「はい、美味しいですよ」
賛はこちらをニコニコしながら見てくる。
「やったー!カレー」
「タヨは食べたことあるの?」
「姉上が出張の時、賛さんが作ってくれた!超絶おいしいんだよ」
あの、グルメのタヨがおいしいって言うってことはおいしいんだろうな。
「市販のだから、味に間違いはないかと…」
カレーを食べてみるヒミカ。
「ん、美味しいです」
「賛さん、姉上が言ってたんだけど、愛情を込めるから美味しくなるんだって、愛情は最高の隠し味らしいよ」
「ちょ、タヨ」
うわー、恥ずかしい。賛をちらっと見ると、目があった。
「いっぱい入れといたよ愛情、いつもありがとう、美味しくなーれってね。タヨさんのにも、ヒミカさんのにも」
「あれ?姉上、顔赤い?」
「温かいから、血行促進されて赤くなってるだけだから!」
「賛さん、きっと姉上、照れてるんだよ。って、賛さんも赤い?」
「こ、これは、スパイスで赤くなってるだけだから!」
「もしかして、二人って」
「な、何?」
「カレー、好きすぎて照れてるの?今日、友達が好きな子の前だと照れちゃうって言ってたの」
ほっと胸を撫で下ろす。
「そ、そうなんですよ、タヨさん」
カレーに照れるというのは意味不明なのだがそうらしい。
カレーを食べ終えて、賛さんを送りにいく。
「じゃ、賛さん送ってくるから、タヨはお留守番ね」
「え~」
「じゃぁね、タヨさん」
一歩外に出ると、銀の砂が散りばめられた黒いキャンバスが広がっていた。
「今日は、新月ですか?」
「はい、星が綺麗に見えます。あ、見て、流れ星!」
「え?どこどこ」
賛は目を凝らす。子供っぽいその仕草にクスッと笑いが込み上げる。
「信じられないです、きっと、一年前の私なら、流れ星を見たってなんとも思わないのに、賛さんと一緒だと見つけるのも楽しくて」
「え?それって」
「だって、賛さんの流れ星を探すときの格好が面白いんですもん」
賛はあたまを傾げる。
「えー、僕の時代では流れ星なんて滅多に見れないんですって」
2000年後の世界、賛さんの時代、見てみたい。
「ねぇ、賛さん、夕食の時、照れてましたか?」
「や、やだなぁ、照れないですよ」
「本当ですか?」
「そういうヒミカさんは、どうなんですか?」
「私は、ちょっと嬉しかったです。賛さんが、私のことを思って作ってくれたのかなって思ったら」
顔をそらす賛。
「そ、そうですか、だったら良かったです」
「今日、仕事が立て込んで、疲れてたんで、一層。顔、見て、お礼が言いたいです」
「い、いいですよ、声だけで充分です!」
「照れてるんですか?」
「て、照れてません!」
動揺の分かりやすい人だな。素直な人なんだろうな。
「あの、じゃぁ、僕はこれで」
「気をつけてくださいね」
「はい、ヒミカさんも」
賛は、恥ずかしさからか急いで帰ってしまった。
「私も、顔、赤いんだろうなぁ」
顔を見せて欲しかった気持ちと、見られなくて良かった気持ちが半々のヒミカであった。
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