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カイキと陽
夫と名乗って良いですか?
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陽は、素のカイでも構わないと、言ってから、カイキに本当は何者であるのかを聞いてきた。
「え、王子だったの?」
「うん、まぁ」
歯切れが悪い。それは、そうだろう。きっと、集落が壊滅的になったのは、カイキが逃げた先だったからだろうから。
「倭国の?」
ザックリと深く刺さったナイフで、臓器を傷つけられるような痛みが走った。
「はい。ごめんなさい、私のクニが一方的に攻めてそれで、こんなことになってしまって…何度も謝りたかった。でも、それが禁じられて、言い訳になんかならないけど、私の命を差し出してでも、この村の人たちを本気で守りたかった。でも、私が勝手に村に行ってしまったから追っ手が来て、私のせいなんだ。本当にごめんなさい」
うつ向いたカイキを、陽は抱き締めた。泣くまいとこらえていたのに、決壊した堤防のごとく目から熱い涙が止まらなかった。
「カイ、もう、大丈夫。カイが背負ってたもの、今から私も半分持つ。カイのこと、誰も責めてない」
「なんで…」
なんで、みんな優しいんだよ…
私は、王子としての職は勝手に投げ出して、そのせいで迷惑かけて、挙げ句の果てに私を追ってきた軍に多くの人が殺されたと言うのに…
「カイが、戻ってきてくれたこと、それだけで十分だから。ほら、笑ってよ。私、カイの笑顔、また見たいな」
陽は、カイキの涙を拭って、ニッコリと微笑んだ。淀みが晴れるような暖かく軟らかい感覚がじんわりと広がる。
「カイ、私たち、まだ夫婦だよね?私、カイが何者でも一生愛してる」
カイ そうやって呼ばれる度に、少しずつ色を取り戻していく世界は、なんと鮮やかなのだろうか。王宮での軟禁生活では、私の価値は「王子」という名前だけだった。でも、陽の中にいる私は愛されているのか。こんなにも、幸せな申し出を受けて良いのだろうか。
「うん、ありがとう。私も、愛しています、もう、離れ離れは嫌だ」
優しく、陽の背中に手を回した。陽の感情が流れ込んで、カイが自分の中で復活したような気がして、嬉しくて、陽には感謝しか出来なくて。
「私、教育部の部長になったんだ。賛さんが、私を助けてくれた。陽にも会いに行ってって言ってくれた」
カイキにとって感謝したい相手は陽だけではない。あの、王になった無名の青年。
「そっか、良かった。ずっと、ほんとは怖かったし、寂しかった。いつか、カイが流罪になったりするんじゃないかって」
陽は、初めてカイキに不安だったことを声にして漏らした。
私は、護りたい一人ですら護れなかった。
そんな私でも、陽は待っていてくれた。
「私は、陽の夫と名乗っても良いですか?もう、不安にさせない」
「うんうん、ずっとずっと、一緒に生きたい」
「え、王子だったの?」
「うん、まぁ」
歯切れが悪い。それは、そうだろう。きっと、集落が壊滅的になったのは、カイキが逃げた先だったからだろうから。
「倭国の?」
ザックリと深く刺さったナイフで、臓器を傷つけられるような痛みが走った。
「はい。ごめんなさい、私のクニが一方的に攻めてそれで、こんなことになってしまって…何度も謝りたかった。でも、それが禁じられて、言い訳になんかならないけど、私の命を差し出してでも、この村の人たちを本気で守りたかった。でも、私が勝手に村に行ってしまったから追っ手が来て、私のせいなんだ。本当にごめんなさい」
うつ向いたカイキを、陽は抱き締めた。泣くまいとこらえていたのに、決壊した堤防のごとく目から熱い涙が止まらなかった。
「カイ、もう、大丈夫。カイが背負ってたもの、今から私も半分持つ。カイのこと、誰も責めてない」
「なんで…」
なんで、みんな優しいんだよ…
私は、王子としての職は勝手に投げ出して、そのせいで迷惑かけて、挙げ句の果てに私を追ってきた軍に多くの人が殺されたと言うのに…
「カイが、戻ってきてくれたこと、それだけで十分だから。ほら、笑ってよ。私、カイの笑顔、また見たいな」
陽は、カイキの涙を拭って、ニッコリと微笑んだ。淀みが晴れるような暖かく軟らかい感覚がじんわりと広がる。
「カイ、私たち、まだ夫婦だよね?私、カイが何者でも一生愛してる」
カイ そうやって呼ばれる度に、少しずつ色を取り戻していく世界は、なんと鮮やかなのだろうか。王宮での軟禁生活では、私の価値は「王子」という名前だけだった。でも、陽の中にいる私は愛されているのか。こんなにも、幸せな申し出を受けて良いのだろうか。
「うん、ありがとう。私も、愛しています、もう、離れ離れは嫌だ」
優しく、陽の背中に手を回した。陽の感情が流れ込んで、カイが自分の中で復活したような気がして、嬉しくて、陽には感謝しか出来なくて。
「私、教育部の部長になったんだ。賛さんが、私を助けてくれた。陽にも会いに行ってって言ってくれた」
カイキにとって感謝したい相手は陽だけではない。あの、王になった無名の青年。
「そっか、良かった。ずっと、ほんとは怖かったし、寂しかった。いつか、カイが流罪になったりするんじゃないかって」
陽は、初めてカイキに不安だったことを声にして漏らした。
私は、護りたい一人ですら護れなかった。
そんな私でも、陽は待っていてくれた。
「私は、陽の夫と名乗っても良いですか?もう、不安にさせない」
「うんうん、ずっとずっと、一緒に生きたい」
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