王への道は険しくて

N

文字の大きさ
上 下
14 / 38
賛とヒミカ

シューとの比較

しおりを挟む
 賛と結婚することをご近所さんや、職場に伝えるため、あいさつ回りは必須事項だ。そう伝えると、賛は嫌な顔一つすることなく、あいさつ回りについてきてくれた。正直、面倒だったろうと思う。でも、礼儀正しく紳士的な態度で臨む賛の姿は、隣にいてちょっぴり誇らしい気分にさせてくれる。この方が、夫だと言うことを楽にさせる。賛は誰と比べるでもなく、良い人であることは間違いないのに、なかなか村人の反応は芳しくなかった。


「この度、ヒミカさんと結婚をすることになりました。九条賛と申します。私は、このクニの出身でなく、不馴れなことも多いとは存じますが、ヒミカさんと笑顔溢れる家庭を築きたいと思っております」
かしこまった様子の賛。それもそうである。なんせ、ここは私の職場なのだから。初めて訪れた理由が結婚の報告。そりゃ、緊張するのは当然だろう。まばらに拍手が起こる。
「おめでとう、ヒミカちゃん、それと九条くん」
「ありがとうございます、先輩」
「温厚で博識そうな方で良かった。ヒミカちゃんをよろしく頼んだわよ」
表面上ではさすがに誰も賛のことを悪くは言わない。でも、そうだと明言は避けているだけで、どこかガッカリムードは漂っていた。

「シュー様を捨ててあの男なのか?」
「なんか、パッとしない人ね」
「副村長さんの方が、華があって良い。だって、あの方は名門警学校のご出身で、家柄も立派で」
「ヒミカを幸せに出来るのか?どこから来たかもハッキリと分からんような人に」
「シュー様よりも良いと思ったヒミカは不思議だなぁ」
常に、シューと比べられては劣っているとレッテルを貼られる。直接言われる訳ではないが、あいさつが一通り終わってからは、遠回しに賛との結婚は辞めた方が良いと言われた。

「新婚生活楽しい?」
「えぇ、夫も優しくて家事なんかも分担してやってくれますし。何より、私のことを大事に思ってくれる人と一緒に過ごせるのは楽しいです」
同僚からは、賛が言い寄ってきたから仕方がなく結婚したと思われている始末。賛が、凄く下品で嫌味な奴に思われているようで、反論したくなる。
「シュー様とは今でもお喋りしたりするの?」
「うん、まぁ、こんなことを言ったらあれだけど、もともと好きというよりは凄い人だなくらいだったか」
「ヒミカって分からない人だわ。私だったら絶対にシュー様!」
「でも、やっぱり、私、好きなんだよね。賛のこと。確かに賛は、家柄も収入も学歴も顔も一流ってことはないよでも、誰かのためにって頑張れる性格は誰がなんと言ったって尊敬されるべきだと思う」
ヒミカはそう言うと、井戸端会議を終えて薬草を摘みに薬草畑まで出ていく。本音と嘘を織り混ぜてあたかも本当にそう思っているかのように思わせる。
それから、同僚は無闇にシューと賛を比べるのは辞めた。ヒミカの幸せを願う気持ちは同じなのだ。ただ、不遇なヒミカを思うあまりに理想を押し付けてしまう。もっと、幸せになれる道があったのではないかと。

 賛は、シューと比べられていることなど全く気にしていない様子だった。お年寄りに接する時も、子供に接する時もニコニコして優しさを振り撒く賛。変に背伸びをするでもなくへりくだるでもなく、村人と打ち解けていく。
 きっと、みんな分かってくれるよね。そんな風に思う。私が結婚するのはシューの代わりではない、別の個人であるということを。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

裏切りの代償

志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。 家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。 連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。 しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。 他サイトでも掲載しています。 R15を保険で追加しました。 表紙は写真AC様よりダウンロードしました。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

婚約者の番

毛蟹葵葉
恋愛
私の婚約者は、獅子の獣人だ。 大切にされる日々を過ごして、私はある日1番恐れていた事が起こってしまった。 「彼を譲ってくれない?」 とうとう彼の番が現れてしまった。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...