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賛とヒミカ
シューとの比較
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賛と結婚することをご近所さんや、職場に伝えるため、あいさつ回りは必須事項だ。そう伝えると、賛は嫌な顔一つすることなく、あいさつ回りについてきてくれた。正直、面倒だったろうと思う。でも、礼儀正しく紳士的な態度で臨む賛の姿は、隣にいてちょっぴり誇らしい気分にさせてくれる。この方が、夫だと言うことを楽にさせる。賛は誰と比べるでもなく、良い人であることは間違いないのに、なかなか村人の反応は芳しくなかった。
「この度、ヒミカさんと結婚をすることになりました。九条賛と申します。私は、このクニの出身でなく、不馴れなことも多いとは存じますが、ヒミカさんと笑顔溢れる家庭を築きたいと思っております」
かしこまった様子の賛。それもそうである。なんせ、ここは私の職場なのだから。初めて訪れた理由が結婚の報告。そりゃ、緊張するのは当然だろう。まばらに拍手が起こる。
「おめでとう、ヒミカちゃん、それと九条くん」
「ありがとうございます、先輩」
「温厚で博識そうな方で良かった。ヒミカちゃんをよろしく頼んだわよ」
表面上ではさすがに誰も賛のことを悪くは言わない。でも、そうだと明言は避けているだけで、どこかガッカリムードは漂っていた。
「シュー様を捨ててあの男なのか?」
「なんか、パッとしない人ね」
「副村長さんの方が、華があって良い。だって、あの方は名門警学校のご出身で、家柄も立派で」
「ヒミカを幸せに出来るのか?どこから来たかもハッキリと分からんような人に」
「シュー様よりも良いと思ったヒミカは不思議だなぁ」
常に、シューと比べられては劣っているとレッテルを貼られる。直接言われる訳ではないが、あいさつが一通り終わってからは、遠回しに賛との結婚は辞めた方が良いと言われた。
「新婚生活楽しい?」
「えぇ、夫も優しくて家事なんかも分担してやってくれますし。何より、私のことを大事に思ってくれる人と一緒に過ごせるのは楽しいです」
同僚からは、賛が言い寄ってきたから仕方がなく結婚したと思われている始末。賛が、凄く下品で嫌味な奴に思われているようで、反論したくなる。
「シュー様とは今でもお喋りしたりするの?」
「うん、まぁ、こんなことを言ったらあれだけど、もともと好きというよりは凄い人だなくらいだったか」
「ヒミカって分からない人だわ。私だったら絶対にシュー様!」
「でも、やっぱり、私、好きなんだよね。賛のこと。確かに賛は、家柄も収入も学歴も顔も一流ってことはないよでも、誰かのためにって頑張れる性格は誰がなんと言ったって尊敬されるべきだと思う」
ヒミカはそう言うと、井戸端会議を終えて薬草を摘みに薬草畑まで出ていく。本音と嘘を織り混ぜてあたかも本当にそう思っているかのように思わせる。
それから、同僚は無闇にシューと賛を比べるのは辞めた。ヒミカの幸せを願う気持ちは同じなのだ。ただ、不遇なヒミカを思うあまりに理想を押し付けてしまう。もっと、幸せになれる道があったのではないかと。
賛は、シューと比べられていることなど全く気にしていない様子だった。お年寄りに接する時も、子供に接する時もニコニコして優しさを振り撒く賛。変に背伸びをするでもなくへりくだるでもなく、村人と打ち解けていく。
きっと、みんな分かってくれるよね。そんな風に思う。私が結婚するのはシューの代わりではない、別の個人であるということを。
「この度、ヒミカさんと結婚をすることになりました。九条賛と申します。私は、このクニの出身でなく、不馴れなことも多いとは存じますが、ヒミカさんと笑顔溢れる家庭を築きたいと思っております」
かしこまった様子の賛。それもそうである。なんせ、ここは私の職場なのだから。初めて訪れた理由が結婚の報告。そりゃ、緊張するのは当然だろう。まばらに拍手が起こる。
「おめでとう、ヒミカちゃん、それと九条くん」
「ありがとうございます、先輩」
「温厚で博識そうな方で良かった。ヒミカちゃんをよろしく頼んだわよ」
表面上ではさすがに誰も賛のことを悪くは言わない。でも、そうだと明言は避けているだけで、どこかガッカリムードは漂っていた。
「シュー様を捨ててあの男なのか?」
「なんか、パッとしない人ね」
「副村長さんの方が、華があって良い。だって、あの方は名門警学校のご出身で、家柄も立派で」
「ヒミカを幸せに出来るのか?どこから来たかもハッキリと分からんような人に」
「シュー様よりも良いと思ったヒミカは不思議だなぁ」
常に、シューと比べられては劣っているとレッテルを貼られる。直接言われる訳ではないが、あいさつが一通り終わってからは、遠回しに賛との結婚は辞めた方が良いと言われた。
「新婚生活楽しい?」
「えぇ、夫も優しくて家事なんかも分担してやってくれますし。何より、私のことを大事に思ってくれる人と一緒に過ごせるのは楽しいです」
同僚からは、賛が言い寄ってきたから仕方がなく結婚したと思われている始末。賛が、凄く下品で嫌味な奴に思われているようで、反論したくなる。
「シュー様とは今でもお喋りしたりするの?」
「うん、まぁ、こんなことを言ったらあれだけど、もともと好きというよりは凄い人だなくらいだったか」
「ヒミカって分からない人だわ。私だったら絶対にシュー様!」
「でも、やっぱり、私、好きなんだよね。賛のこと。確かに賛は、家柄も収入も学歴も顔も一流ってことはないよでも、誰かのためにって頑張れる性格は誰がなんと言ったって尊敬されるべきだと思う」
ヒミカはそう言うと、井戸端会議を終えて薬草を摘みに薬草畑まで出ていく。本音と嘘を織り混ぜてあたかも本当にそう思っているかのように思わせる。
それから、同僚は無闇にシューと賛を比べるのは辞めた。ヒミカの幸せを願う気持ちは同じなのだ。ただ、不遇なヒミカを思うあまりに理想を押し付けてしまう。もっと、幸せになれる道があったのではないかと。
賛は、シューと比べられていることなど全く気にしていない様子だった。お年寄りに接する時も、子供に接する時もニコニコして優しさを振り撒く賛。変に背伸びをするでもなくへりくだるでもなく、村人と打ち解けていく。
きっと、みんな分かってくれるよね。そんな風に思う。私が結婚するのはシューの代わりではない、別の個人であるということを。
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