思い出を探して

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最終回 二回目のプロポーズ

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 賢太郎は、車のバックミラーで軽く身なりを整えてから、怜のマンションのインターフォンを鳴らした。
「はーい、今、降りるね」

浴衣を着た怜が出てくる。青みがかった、夏色の浴衣に黄色い鼻緒の草履。綺麗だ。
「行こっか」
「花火楽しみ」
「そうやな」
「二人で花火って初めて?」
「うーん、まぁ、思い出はあるな」
「思い出すかな?」
「どうやろ」

 高速道路にのって、他の都道府県にある花火大会の地へ赴く。後部座席の紙袋には、プロポーズで渡す予定の指輪。怜の指の太さは、怜が記憶を失う前にプロポーズをしたときに渡した婚約指輪で把握済み。

 花火大会の会場につくと、屋台やら何やらが出ていて、楽しそうな雰囲気。
怜と賢太郎の横をビーチサンダルに半袖短パンの少年らは、片手にフランクフルトを持ちながら走り抜ける。
「若いな」
「お祭りだしテンション上がってるのかもね」
「小学生かな。僕も小学生やったらやってたかもしれんな」
あんまり、やった記憶はないけれど。
「私的には小学生の賢太郎さんは、立ち止まって、わたあめを手でちぎって食べてるイメージ」
「え?そんな風に見える?」
思ったよりも賢太郎が驚く顔をした。
「うん、あれ?意外だった?」
「はじめてやで、そんなん言われたん。はじめて、当てられたかもしれん」
「嘘だー、滲み出てるよ、オーラ」
「立ち止まってわたあめを手でちぎって食べてたオーラ?」
「うん!」
どんなオーラなのかよくわからんが、怜さんが楽しそうなのでまぁ良しとする。

 立ち込めた焼きそばやたこ焼きの香りなんかが食欲をそそる。
賑わう中で、賢太郎のことを見失わないように、怜は賢太郎の袖をつかんだ。
賢太郎はチラチラとスマホで時間を確認する。


 賢太郎は人を掻き分けて、屋台が並ぶエリアの隣の公園へ向かう。そこは広い公園で、小高い丘があって、階段をのぼると、狭い展望台に出る。
そこは、視界が開けていて、花火を二人じめするには十分だ。でこぼことした石畳を越えて来る価値は大いにある。


「あ、見て、」
赤い花火が一発空へのびて大きな花を咲かせた。ヒューという音から、どん!と衝撃のある重たい音。
「始まったな」
空を見上げる。
「あ、ほら、また!」
12000発の花火がうち上がるとなっている。
賢太郎は、花火を見上げた怜の横顔を見る。青、赤、黄、刻一刻とその刹那に姿を変えて散ってしまう花びらをうつした怜の瞳。
「綺麗だね」
「うん」
賢太郎は一際大きな花火がうち上がるのを目で追う。力強く、龍のごとく夜空にのびていく火球は、一瞬だけ夜空と同化して、深紅の彼岸花を夜空に描いた。
散ってしまうのに、最後まで、キラキラチカチカと輝きながら落ちていく。
それを追いかけるみたいに、青い花火と緑の花火が彩る。

「怜さん」
「賢太郎さん」
「うん?」
賢太郎の方を向いた怜。
「何?怜さん」
賢太郎はサッと指輪の入った小箱を隠す。
「賢太郎さんこそ」
「いいよ、怜さん、先に」
怜は、平淡な調子で言った。
ただし、視線は二回ほど地面を行ったり来たりして落ち着きはない。緊張している。


「ねぇ、私と結婚してみない?」


ちょっと、急すぎて分かんない。
先にプロポーズをとられた賢太郎。賢太郎は、固まる。まさか、怜さんがそんなことを言うなんて思ってもみなかった。
賢太郎は頭を横に振る。
「まだダメ?」
怜は待つ気でいる。賢太郎がOKをするまで、待つ。それは、明日かも来月かも再来月かも来年かも10年後かもしれないけれど、怜は待つ決心を固めていた。
「急やったから…」
「いいよ、無かったことにして」
怜はそう言うと、また花火へ視線を向けた。どこか、淋しげな顔をした怜。
怜さんを僕の態度で傷つけてしまったんじゃ?
「怜さん、まだ、僕が何も言ってへんやろ?」
「ごめん、ごめん」
怜は賢太郎の言葉に耳を傾ける。気丈に振る舞おうとするも、怜の声が微かに揺れていた。

賢太郎は深く息を吸う。

二回目のプロポーズ。頭の中で読み上げる。その言葉を喉の奥で繰り返す。

「僕と結婚してください」

 賢太郎の後ろで大きな虹色の花火が咲いた。まるで見計らったかのような絶妙なタイミング。

「なんて?」
ガーン…
花火の中はロマンチックかと思ったがこのリスクは考えていなかった。でも、だからなんだ!もう一回言うさ!

「僕と結婚してください!」

後を追いかける小さい花火が、夜空に散る。

「なんて?」
じゃあ、ありたっけの力を込めて。
「僕と結婚してください!!」


怜は口を開けて笑った。
「嘘、初めから聞こえてた」
そう言って、怜は完全に賢太郎の方を向いた。
「何度でも言うから、聞こえてても。

僕と結婚してください

一生、一番、愛しています。」

賢太郎は跪いて、小さな箱を開けて手に持つ。
 怜は賢太郎が差し出した指輪を、指にはめる。小さなダイヤが輝く。実際の質量はそんなことはないのだろうが、ずしっと重みを感じる。

「これからも、よろしくね」

目尻に浮かんだ涙。泣かないって決めていたのに。プロポーズ、笑顔でやりたかったのに。
怜の左手の薬指には再び指輪があって、賢太郎は怜の手を包むようにそっと両手で握った。

「僕らなら、世界一、幸せになるよ」
「うん」











8年後


2つの婚約指輪は棚に置かれ、そして指には結婚指輪。それが、二人が出した答えである。
もう一度、同じ人に恋をする。馬鹿げているけど、大真面目に二人は本当にそうなった。
 これからもいろいろあるだろう。けれども二人ならどんな困難も乗り越えていける。

「パパ、ママ、結婚記念日おめでとう!」
家族の絵を持ってきた娘と息子。
思わず笑みがこぼれる。画用紙いっぱいに書かれた4人の姿は、微笑ましくて、幸せだなぁ なんて感じてしまう。
「ありがとう、飾って良い?」
「よく描けてる、上手になったな!ありがとう」
賢太郎と怜は、子供たちの頭を優しく撫でた。




                        完
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