思い出を探して

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町内会主催のお祭り。賢太郎は消防代表として、ファイヤーバスターズに出る。
「怜さん、次の日曜、消防署の近くの公園で祭りやんねんけど、一応、僕も消防代表で出んねん、来る?」
正直、来ても来なくてもどっちでも良い。規模も小さいし、何より、先輩からの総ツッコミを食らうほどの棒演技は怜さんには見られたくない。でも、仕事しているところを見られることは無いし、出店とかちょっと一緒にまわりたい。
「あー、休日だし行こっかな」
「じゃあ、時間が余ったら一緒に出店とかまわらへん?」
「うん」
怜さんと出店をまわれたらプラマイのプラ。



日曜日

ファイヤーバスターズを終えて、楽屋的テントに戻った賢太郎。

舞台から見た壮絶なスベり。台本の所々にあるダジャレは小学生には刺さらない。いや、台本のせいにするのはよくないか、やっぱり棒演技もあるか。途中から、なんか、もう、うん、無理だった。あれを怜さんに見られたかと思うと、最悪。普通の安全教室的なやつで良かったよ絶対。

先輩たちからいじられる。
「やっぱ高田先輩でも良かったんじゃないですか?高田先輩はそういうの上手いですし」
靴や衣装を脱ぎながら、賢太郎は先輩たちと話す。
「いやいや、勇元やからおもろいんやん」
「これ、いじられますかね?」
「当たり前やん」
「超恥ずかしかったですよ、はぁ」
「な、勇元」
安道先輩から声をかけられる。
「はい」
「勇元の家って今日行っても良い?」
唐突な質問…
怜さんも居るのに。申し訳無さ過ぎる。ただ、怜さんが記憶を失い、現在、付き合ってもいないことを知っているのは高田先輩のみ。つまり、先輩たちは知らない訳で、僕の婚約者の怜さんを見てみようとも思っているのがちょっと伝わってくる。
「いやぁ」
「今日は、俺と高田とあと弘中、勇元が午後から非番とか週休とかが被ってる奇跡みたいな日やろ?勇元以外みんな実家か寮やし」
安道先輩、高田先輩、弘中くん(同期)、それと僕。歳も近くて、先輩らはなんだかんだ優しいし、結構仲が良い。だが、休みが揃うことはほとんどない。安道先輩が言うように、今日は滅多にないレアな日である。
「分かりました、一度、確認させてください」
「オッケー」
賢太郎は怜に確認をとる。怜は、自分の部屋に入らないならとあっさりとOK。




賢太郎は仲間より一足先に家に帰る。
来ることになった3人には、スーパーで惣菜とおつまみ、お酒を買ってきてもらう。
「すみません、急に」
怜は祭りから帰ってきて、部屋をきれいに整える。
「良いよ、賢太郎さん、全然飲みに行ったりもしないし、たまにはね」
それに、陽葵も来るなら。
「ほんまにありがとう」
「パパッと準備しちゃおう!」

ピンポーン

インターフォンが鳴って、怜は3人を迎える。
「どうぞ~」
「あ、こんにちは、お邪魔します。急にすみません、これ」
手土産を渡される。ちらりと見えた中身は、チョコレート菓子。
「先輩、どうぞ奥まで」
「ありがと、勇元」
安道先輩がくつを脱いで家にあがる。
"クールビューティーって感じの人だな"
"はい"

「陽葵、」
唯一の知っている人。
「お邪魔します」
最後に家にはいる。
「陽葵がいるだけで心強いわ」
「まぁ、怜が知ってるの私だけ?」
「うん」
「あー、じゃあ、軽い紹介、あの背の高いのが安道さん、メガネかけてるのが勇元くんの同期の弘中くん。弘中くんと勇元くんは、今日は飲まないって」
「おけ」
背が高いのが安道さん、メガネが弘中くん。頭の中で整理する。

 買ってきた惣菜を机に並べていく男性陣。楽しそうだ。
しかし、こう見ると、茶色の揚げ物ばっかり。男子高校生と趣向がおそらく変わっていない。


「乾杯!」
安道先輩の乾杯で始まった宅飲み。怜は、賢太郎と陽葵の間に座る。楕円形のリビングのテーブルを囲むように5人は座る。
「ん!この唐揚げ柔らかいです!」
「え、どれどれ?」
「こっちのエビフライは一人が一本だからね」
「串は何本ですか?」
「あぁ、それは、早い者勝ちで」
机に置かれた揚げ物を目指して、箸が伸びる。怜も置いていかれないようにと、頑張ってみるが、現役消防士のハイペースな食事と酒にはついていけない。陽葵もこんなに食べる人だっけ?
気がつくと、既に空っぽの缶とお皿ばっかりがキッチンに溜まる。

宅飲み開始 3時間

 ポテトチップスとチーズが丸皿に鎮座。ビールで始まったお酒も、ワインや日本酒、好きな酒になっていく。
安道先輩は机に突っ伏している。
「安道先輩、起きてくださーい」
賢太郎が背中をポンポンと叩くが起きる気配なし。
「安道先輩、こうなったら起きないっすよ」
「それ困るわー、弘中も手伝ってや」
「えー」
弘中も安道先輩の体勢を変えたりしてみるが、全然、起きない。
「安道さん、マジで起きないからなー」
「ここ僕と怜さんちやねんけど、はぁ」
思わず溜め息が漏れる賢太郎。
弘中は掛け時計を見て、荷物をまとめる。針はちょうど9時を指す。
「え?どこ行くん?」
「いや、普通に帰る」
「急!」
「まぁ、家族もいるしあんまり遅い時間は」
そう言えば、弘中は半年くらい前に子供が生まれたばっかりだったな。
「弘中くん、帰るの?」
ワインを置く陽葵。
「はい」
「じゃあ、私もそろそろ」
「陽葵も?」
「何?もしかして、怜はもっと私と一緒にいたい感じ?」
酔いが回ってきた陽葵。発色の良い頬。だが、まだ、酔っぱらいにはなっていない。
「まだ、9時だし、もうちょっと」
寝てしまった安道さんと、賢太郎さんと、私。それは、気まずい。
「仕方ないなー、怜に引き留められちゃったらまだもうちょっと居るしかないなー」



怜は、下の24時間のゴミ捨て場に空き缶を持っていく。
 冷蔵庫を開けると、既に、缶は全て消え去っていた。10本くらいあったはずなのに。今日とか、飲んでるの安道さんと陽葵だけなのに。
「怜さん、僕が」
「大丈夫、賢太郎さんはゆっくりしといて」
 
怜は賢太郎と陽葵を部屋に残して出ていった。

ゴミを捨てて、戻ってきた怜。
「ただいまー」

ガチャン! と物が倒れるみたいな音がリビングから聞こえてきて、駆け足でリビングの方へ急ぐ。
「大丈夫?」
 怜の目に飛び込んできたのは、リビングのカーペットの上、陽葵に覆い被さるようにした賢太郎の姿。ハッキリとは見えない、いや、視界には入るけれど脳が見ないようにしている。でも、確かに、賢太郎との陽葵の唇が互いに接している。

賢太郎さんは陽葵に答えを出したんだ…

怜の頭は混乱する。目の前の光景を信じられない。親友と私を好きだと言った人が、キスをしているそれも、覆い被さるみたいにして。嘘だ。嘘だ。

 怜は、バタン!とリビングのドアを閉めて雑にスリッパを履いて、マンションの廊下に出る。

 怜はそこで、膝からガクンと力が抜けて、思わずしゃがみこんでしまった。
状況を整理しようとしてみても、脳の回路がうまく回っていない。
 怜は、手すりをたどり、階段を下りて、近くの営業中のスーパーに引き寄せられる。まるで、夏の虫が街頭に引き寄せられるみたいに。きっとその行動に意味はない。でも、どうしても、家にはいられない。
 振り返ってみても賢太郎さんはいない。弁明を試みて追いかけることすらしないのか。
二、三回鼻をすする怜。

「あんた、大丈夫?」
人から訪ねられるくらいに私は気付くと泣いていた。なんだろう、もう、涙が止まらない。



時は戻って、怜がゴミ置き場から帰ってくる直前。

安道先輩が起きて、水を求めたので、キッチンで水を汲んだ高田先輩。だが、若干足がおぼつかなくなった高田先輩は水で手がふさがったまま転けそうになる。反射的に高田先輩が転けないようにするためにパッと高田先輩の方に賢太郎は寄る。
「だ」いじょうぶですか?
すべてを言い切ることは出来ない。
がしゃんと水がこぼれる音がする。そして、目を開けると高田の顔が驚くほど近くにあって、口は塞がれている。それで、安道先輩は爆速で二度寝。

これは、事故だ!




 賢太郎は怜に連絡してみるが、既読すらつくことはない。電話でも怜が出てくれることはない。

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