思い出を探して

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お父さん

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数日後

「怜さん、行ってきます」
「行ってらっしゃい、気をつけて」
「はーい」
今日は、賢太郎は仕事、怜は休日であった。怜は、一通りの家事を手際よく済ませると、実家に行った。電車で片道30分ほどの距離。そんなに遠くはない。

「お父さん」
「怜、珍しいな。この間までよく家に来てたのに最近は来ないから」
怜は、賢太郎がいない日は前まではよく実家に帰って、お父さんと一緒に昼御飯を食べたりしていた。それがある意味リフレッシュであり、賢太郎についての情報を仕入れる場でもあった。お父さんと賢太郎さんは、本当に仲が良いからな。
ただ、ここ2ヶ月くらい来ていなかった。お父さんに用事がないのはそうなのだが、なんか、生活に張り合いがあるというか、今までなら完全に自分の仕事はここまでと思っていたことでも、これをやっておいたら、賢太郎さんが喜ぶかなとか、これをやっておいて賢太郎さんとの時間を設けようかな そんなことを考えてしまう。恐らく、これは同棲をするなかで芽生えたいい兆候なのだろう。
 家に上がると、父は開口一番、賢太郎のことを聞いてきた。
「怜、賢太郎君がいる生活には慣れてきたか?」
「うん」
「賢太郎くんは、家でどんな感じなんだ?」
「うん、外に走りにいったり、テレビみたり、家事も積極的にやってくれるし、イビキとかも静かだし、同棲してて困ることはないよ」
「そうか、それは良かった。どうなんだ?二人で出掛けたりもするのか?」
「うーん、あんまり休日が被らないから出掛けることは少ないけど、夜一緒に映画みたりはするよ」
「そうなんだ、良いな、賢太郎くんと映画」
「え、そこ?あ、でもこの前一緒に出かけて観覧車に乗ったよ、楽しかったなぁ」
「楽しかったのなら何より」
「どこに行ったんだい?」
「神戸まで」
「そうか。去年の怜を知っているからか、不思議な感じだよ。賢太郎さんと二人で神戸に出掛けただなんて」
「まぁね」
「賢太郎くんは凄いなぁ。もうそろそろいいんじゃないか?」
「何が?」
お父さんは少し考える。父としての立場をもって娘のことにこんなことを言うのはナンセンスかも知れないな。
言うか言うまいか悩む父を見て察した怜。
「まだ、恋人に戻った訳じゃないよ」
「まだって。いずれはっていうニュアンスを含んでいるのか?」
「さぁね?」
「もう、二人ともいい歳なんだし、賢太郎くんのことを怜が気に入るなら、そういう話をしてみたって良いんじゃないか?」
お父さんは賢太郎くんのことをかなり気に入っていて、内心、娘の怜の婿には彼が良いと思っている。
「でも、記憶がないのに申し訳ないというか、なんというか」
自信なさげにそう言った怜。
「そうか。申し訳ないとは思わなくてもいいような気もするが、こればかりはお父さんからどうこうっていうのは、怜と賢太郎くんに失礼かもな」
「もし、恋人に戻れたらそのときは報告するよ」
怜が嬉しそうに笑った。
 賢太郎くんは、やっぱり凄いよ。怜を変えてくれた。怜を、幸せにしている…と、目に写る。
「それは頼むよ」
紅茶を飲む父。眼鏡がフワッと曇る。
「了解」
お父さんは、私が賢太郎さんと結婚することを本当に喜んでいたんだろうな。多分それは、私が賢太郎さんの良いところ口頭で伝えたからでも、賢太郎さんが上手く関係を築こうとした訳でもない。賢太郎さんが私と私の家族を大切に思うから、そして、私も賢太郎さんのことを信頼していたし大切に思って、ただそれだけで、幸せな空気が作られていたんだ。初めて賢太郎さんに出会ったときは、全然わからなかった。どうして、この人が私の婚約者で父もそれを許容しているのか。でも、今なら少しは分かる気がする。

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