20 / 26
手
しおりを挟む
季節は進んで、夏の熱気も日差しも徐々に弱まって、風が吹き抜けると、人によっては寒いと感じるかもしれない。
「怜さん!」
(ゲートで)
「怜さん!」
(食事中に)
「うわぁ、色々あんねんな、あ、これなんかどう?」
「かわいい」
と言って、商品を手に取るが、眺めて戻す。そして、なにも購入することなく、店を出る。
「なんか、ほしいもんあった?今日は、一応、記念日やから」
ベンチに腰を掛ける。
「うーん、特には、」
賢太郎さんいわく、今日は、結婚式を予定していた日らしい。もし、私が記憶さえ失わなければ、結婚一周年だったのかな。
「今日は、ちょっと奮発しても何か、怜さんが喜びそうなものをっと思ったんやけど、何がほしいんかわからんかったから。なんか、したいこととか」
怜は、海を望める観覧車を見る。
でも、観覧車とか幼稚だとかって思われたらどうしよう。怜は、「観覧車に乗りたい」と言うのをちょっと躊躇う。多分、賢太郎さんだったら、バカにして笑ったりすることはないだろうけど。
「観覧車とかどう?あの観覧車、日本一やって。アハハ、やっぱり幼稚かな?」
え?心の声、読まれた?
ただ、これで乗りたいと言い出しやすくなった。
「観覧車、乗りたい!」
「じゃぁ、行こっか」
「はい」
乗り場に到着すると、案外空いていた。平日だったからだ。
スケルトンゴンドラが回ってきたが、賢太郎が高所恐怖症だからということで次の箱に入った。(はしご車は平気らしい)
「待ち時間なく乗れてラッキーやったな」
「うん」
「・・・」
何か、話のネタを!
「あ、あれ、さっきの店、上から見るとあんな形なんや」
「本当だぁ、上から見たら変な形」
「そうやな」
「・・・」
密室で無言ほど気まずいものはない。
賢太郎は、景色より怜の方を見てしまう。怜は、下の景色を楽しんでいるようだが。
いよいよ、頂上に差し掛かろうと言うとき怜の方が口を開いた。視線は、観覧車の外、海に面する窓を見たまま。
「あの、どうして、賢太郎さんが私なんかを好きなのか、ずっと疑問に思っていて、思い出をなくして、賢太郎さんとの大切な思い出だったのに、思い出せなくて、私と話していてもつまらないんじゃないかって、私は楽しい会話をしたりするのは下手で、賢太郎さんみたいな素敵な人がどうしてって」
うつむく怜。正面に座る賢太郎は怜の膝の上、ちょこんと置かれた手に自分の手を重ねる。そして、怜をちょっと覗き込むようにして言った。
「僕の方こそ、怜さんと一緒に居てもいいのかなって、僕には何か秀でた才能があるわけちゃうけど、怜さんは皆から信頼されてて、器用だし、それに、優しくて真面目でかわいくて、、僕は怜さんの記憶とか、思い出を好きになったんじゃなくて、僕は怜さんやから好きになったんやで。やから、私なんかとか思わんといてせめて僕の前では」
ニコッと笑う賢太郎。
怜は、賢太郎の言葉が、ジワッと細胞に染み込むような感じがした。どうして、この人は、そんなことを言えてしまうのだろうか。私がほしい言葉を知っているみたいに。
「…はい」
怜は小さく返事をする。そこで、賢太郎は怜の手に自分の手を無意識のうちに重ねていたことに気づいて、慌てて手を離す。
「あ、いや、これは、その」
好きでもない男からいきなりこんなことされたらドン引きやろ!
賢太郎はそう思って焦っている。
「もう少しこのままが良いって言ったら賢太郎さんは嫌だって思いますか?」
怜は依然として窓の外の海を眺めたままボソッとそう言った。窓に薄く写る自信の顔が、微かに赤く染まり、こんな顔で賢太郎の方を向ける訳がなかった。
「、、、嫌じゃないです」
観覧車は下に着く。
「はーい、お疲れさまでした」
「ありがとうございます」
「良かったね、観覧車」
「日本一高い観覧車の頂上からの景色は凄かった」
怜はそういいながら頂上からの景色は眺めていないことに気づく。正確には、視界に入るが、視覚まで意識が回らなかった。
「僕は、見る余裕なんかこれっぽっちもなかったで」
「賢太郎さんは高所恐怖症だから」
もちろん、互いに緊張していたから景色を見逃したのである。
「はしご車は平気やねんど、ハハ」
「あの、もう少し回ってから帰らない?」
「うん、怜さんはどこみたいん?」
「向こうの建物のお店を」
指の先の建物はここから少し離れていた。
「お、良いな」
二人は、一緒に歩き始めた。
「手を繋ぎたい」
小さい声。あまりにも細い糸のよう。賢太郎は、何も言わずに手を出す。
「寒くなってきたな、もう秋って感じ」
賢太郎が季節のせいにしてくれるから、恥じらいが少し薄れるような心地がする。賢太郎さんは私よりも私の心に詳しいんじゃないだろうか。そんなことを思ってしまう。
「はい」
建物に入って、寒くはなくなったが、二人は手を繋いだままだった。
「怜さん!」
(ゲートで)
「怜さん!」
(食事中に)
「うわぁ、色々あんねんな、あ、これなんかどう?」
「かわいい」
と言って、商品を手に取るが、眺めて戻す。そして、なにも購入することなく、店を出る。
「なんか、ほしいもんあった?今日は、一応、記念日やから」
ベンチに腰を掛ける。
「うーん、特には、」
賢太郎さんいわく、今日は、結婚式を予定していた日らしい。もし、私が記憶さえ失わなければ、結婚一周年だったのかな。
「今日は、ちょっと奮発しても何か、怜さんが喜びそうなものをっと思ったんやけど、何がほしいんかわからんかったから。なんか、したいこととか」
怜は、海を望める観覧車を見る。
でも、観覧車とか幼稚だとかって思われたらどうしよう。怜は、「観覧車に乗りたい」と言うのをちょっと躊躇う。多分、賢太郎さんだったら、バカにして笑ったりすることはないだろうけど。
「観覧車とかどう?あの観覧車、日本一やって。アハハ、やっぱり幼稚かな?」
え?心の声、読まれた?
ただ、これで乗りたいと言い出しやすくなった。
「観覧車、乗りたい!」
「じゃぁ、行こっか」
「はい」
乗り場に到着すると、案外空いていた。平日だったからだ。
スケルトンゴンドラが回ってきたが、賢太郎が高所恐怖症だからということで次の箱に入った。(はしご車は平気らしい)
「待ち時間なく乗れてラッキーやったな」
「うん」
「・・・」
何か、話のネタを!
「あ、あれ、さっきの店、上から見るとあんな形なんや」
「本当だぁ、上から見たら変な形」
「そうやな」
「・・・」
密室で無言ほど気まずいものはない。
賢太郎は、景色より怜の方を見てしまう。怜は、下の景色を楽しんでいるようだが。
いよいよ、頂上に差し掛かろうと言うとき怜の方が口を開いた。視線は、観覧車の外、海に面する窓を見たまま。
「あの、どうして、賢太郎さんが私なんかを好きなのか、ずっと疑問に思っていて、思い出をなくして、賢太郎さんとの大切な思い出だったのに、思い出せなくて、私と話していてもつまらないんじゃないかって、私は楽しい会話をしたりするのは下手で、賢太郎さんみたいな素敵な人がどうしてって」
うつむく怜。正面に座る賢太郎は怜の膝の上、ちょこんと置かれた手に自分の手を重ねる。そして、怜をちょっと覗き込むようにして言った。
「僕の方こそ、怜さんと一緒に居てもいいのかなって、僕には何か秀でた才能があるわけちゃうけど、怜さんは皆から信頼されてて、器用だし、それに、優しくて真面目でかわいくて、、僕は怜さんの記憶とか、思い出を好きになったんじゃなくて、僕は怜さんやから好きになったんやで。やから、私なんかとか思わんといてせめて僕の前では」
ニコッと笑う賢太郎。
怜は、賢太郎の言葉が、ジワッと細胞に染み込むような感じがした。どうして、この人は、そんなことを言えてしまうのだろうか。私がほしい言葉を知っているみたいに。
「…はい」
怜は小さく返事をする。そこで、賢太郎は怜の手に自分の手を無意識のうちに重ねていたことに気づいて、慌てて手を離す。
「あ、いや、これは、その」
好きでもない男からいきなりこんなことされたらドン引きやろ!
賢太郎はそう思って焦っている。
「もう少しこのままが良いって言ったら賢太郎さんは嫌だって思いますか?」
怜は依然として窓の外の海を眺めたままボソッとそう言った。窓に薄く写る自信の顔が、微かに赤く染まり、こんな顔で賢太郎の方を向ける訳がなかった。
「、、、嫌じゃないです」
観覧車は下に着く。
「はーい、お疲れさまでした」
「ありがとうございます」
「良かったね、観覧車」
「日本一高い観覧車の頂上からの景色は凄かった」
怜はそういいながら頂上からの景色は眺めていないことに気づく。正確には、視界に入るが、視覚まで意識が回らなかった。
「僕は、見る余裕なんかこれっぽっちもなかったで」
「賢太郎さんは高所恐怖症だから」
もちろん、互いに緊張していたから景色を見逃したのである。
「はしご車は平気やねんど、ハハ」
「あの、もう少し回ってから帰らない?」
「うん、怜さんはどこみたいん?」
「向こうの建物のお店を」
指の先の建物はここから少し離れていた。
「お、良いな」
二人は、一緒に歩き始めた。
「手を繋ぎたい」
小さい声。あまりにも細い糸のよう。賢太郎は、何も言わずに手を出す。
「寒くなってきたな、もう秋って感じ」
賢太郎が季節のせいにしてくれるから、恥じらいが少し薄れるような心地がする。賢太郎さんは私よりも私の心に詳しいんじゃないだろうか。そんなことを思ってしまう。
「はい」
建物に入って、寒くはなくなったが、二人は手を繋いだままだった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?

竜王の息子のお世話係なのですが、気付いたら正妻候補になっていました
七鳳
恋愛
竜王が治める王国で、落ちこぼれのエルフである主人公は、次代の竜王となる王子の乳母として仕えることになる。わがままで甘えん坊な彼に振り回されながらも、成長を見守る日々。しかし、王族の結婚制度が明かされるにつれ、彼女の立場は次第に変化していく。
「お前は俺のものだろ?」
次第に強まる独占欲、そして彼の真意に気づいたとき、主人公の運命は大きく動き出す。異種族の壁を超えたロマンスが紡ぐ、ほのぼのファンタジー!
※恋愛系、女主人公で書くのが初めてです。変な表現などがあったらコメント、感想で教えてください。
※全60話程度で完結の予定です。
※いいね&お気に入り登録励みになります!

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

記憶がないなら私は……
しがと
恋愛
ずっと好きでようやく付き合えた彼が記憶を無くしてしまった。しかも私のことだけ。そして彼は以前好きだった女性に私の目の前で抱きついてしまう。もう諦めなければいけない、と彼のことを忘れる決意をしたが……。 *全4話
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。
その出会い、運命につき。
あさの紅茶
恋愛
背が高いことがコンプレックスの平野つばさが働く薬局に、つばさよりも背の高い胡桃洋平がやってきた。かっこよかったなと思っていたところ、雨の日にまさかの再会。そしてご飯を食べに行くことに。知れば知るほど彼を好きになってしまうつばさ。そんなある日、洋平と背の低い可愛らしい女性が歩いているところを偶然目撃。しかもその女性の名字も“胡桃”だった。つばさの恋はまさか不倫?!悩むつばさに洋平から次のお誘いが……。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる