思い出を探して

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怜と陽葵

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 火事から3週間後。

男子禁制の女子会は恋バナの園である。女子会と言っても怜と陽葵だけで飲んでいる。陽葵も怜も夕方から陽葵の家で飲み始めて酔っている。そして、冷静口調だが、怜の方が結構きている。
「陽葵は、好きなの?賢太郎さんのことが」
急な質問にギクリとする陽葵。
「うーん、どうだろうなぁ、怜は好きなの?」
相手に同じ質問を返した陽葵。怜を観察する。
「、、、」
小さく頷く。
「そっかぁ、ハハ  そっかぁ、そっかぁ、私はもういいや」
「どうして?嫌いになったんですか?」
「なんか、嫌じゃんほら、嫌じゃないの?友達が同じ人を好きって、嫉妬とか?だったら、穏便な方へってね」
陽葵はテキトーな感じでそう言った。ただ、それをテキトーでは流さなかったのが怜である。
「…私だって、嫉妬はします。でも、それはつまり、私のせいで、陽葵が賢太郎さんを好きになれないということですか?」
「うーん、じゃなくて!私は、怜も大好きなの」
「私がもし、陽葵の立場だったら、そんな風に割りきれません。
どうして、同じ人を好きになったら、片方が諦めないといけないのですか?
誰かが、もしくは誰かの影響で、それが私のせいだったら諦める理由にはしてほしくないんです」
「良いじゃん、本人が言ってるんだよ?お堅いなぁ怜は。だって、普通に考えてみてよ、怜は婚約者になった。私はどう?ただ、職場が同じだけ、もう分かるじゃん」
陽葵はビールを手に持つ。
「私は、賢太郎さんとの婚約の話やそれ以前の話は覚えていません。それに、いまは、彼とは婚約はおろか付き合ってすら居ません。ですが、陽葵は賢太郎さんを近くで見て色々なことを知っています。職場の姿だって知っています。きっと、私なんかよりもずっと賢太郎さんのことを知っているはずなんです」
怜もなかなか頑固である。ただ、陽葵も怜の言い分を良しとは思わない。
「普通は、」
「普通の話ではなくて、陽葵と賢太郎さん、二人の話をしているんです。私には、どうしても理解ができません。賢太郎さんは、素敵な方です。優しくて、彼が近くにいると安心できます。好きになって当然だと思います。カッコいいですし」
顔を赤らめて付け足した言葉。
「うん?カッコよくはないよ、背も低いし、それに優柔不断で」
「色々なことを考えた上で判断してくれます」
「空気読むっていうかなんかいっつも遠慮ばっかり」
「周りをよく見ています、それに気遣いができます」
怜は真剣な眼差しで陽葵を見る。
「ハハ それな!」
「陽葵が、もし私が理由で、賢太郎さんを好きだという気持ちを封じているのでしたら、私は許しません!だって、」
「怜の気持ちはよぉぉく分かった!じゃあさ、勇元に電話かけたし、好きって言って」
もう、電話のコール音が聞こえる。
「もしもし、勇元です。」
「あ、今、怜と飲んでるんだけど、怜が勇元に言いたいことがあるんだって、勇元のよく知ってる怜だよ」
「明神怜さんと?」
前の高田先輩の言葉を聞いたあとだと、一体、どういう気持ちなのか、状況なのか考えてしまう。
「うん」
「どうして一緒に飲んでるんですか?」
「仲の良い友達だから」
怜も高田先輩もそれで納得しているのなら、僕が変に心配する必要性はない。
一体何を言われるのだろう?そんなことをぼやぁっと思いながら耳を傾ける。
「ほら、怜、」
電話越しにガタッという音がする。
「もしもし?怜さん?」
「は、はい」
「えっと、何?」
無言…
「賢太郎さんを好きだと私が言ったらどうしますか?」
「何かの罰ゲームでも受けてるん?」
「いえ、大丈夫です」
「そうやな、もしそう言われたら、まず喜ぶな」
「ありがとうございます。さようなら」
プツン電話は一方的に切られた。
一体、何だったんだ?  
当然の疑問である。


「な、分かった?勇元くんは、怜のことが、たとえ記憶をなくしていても好きなんだよ」
これでわかるだろ?っと言わんばかりの陽葵。

「陽葵は、平気なの?」
「怜が幸せになるんだよ、平気っていうかむしろめでたい?そりゃ、ちょっとは嫌だよ、でも怜が相手だったら私に勝ち目はないし、好きな人の気持ちを尊重することが大事だと私は思ってる。勇元くんの気持ちも怜の気持ちも。それに、なーんか二人が仲良くしてると、もっとやれ!って思ってる自分がいるのも事実だから。勇元くんって、怜からメッセージ来てるとなんかニタニタしてさ、怜も勇元と電話してるとき楽しそうだし」
「本当ですか?私は本当に賢太郎さんに好かれているのか分かりません」
「う~ん、確かに好かれてはいないだろうね」
「やっぱり、賢太郎さんといるときの自分を思い返してみたら、何で賢太郎さんみたいな素敵な人が私なんかをって思うことがあって」
落胆一色の怜。
「ハハ、怜って本当に鈍い、勇元は、好いてるんじゃなくて、心から愛してるんだよ」
笑いながら、怜の空いたグラスに、ビールを注ぐ。
「そうなんですか?」
「じゃないと、一緒に他人と暮らせるわけがないだろ!怜、もっと自信持てよ!私は、応援してるから」
「あ、ありがとうございます」
「よっしゃ、今日はまだとっておきのおつまみと日本酒があるし、それ開けよっか!」
「はい!」


「もしもし?勇元くん?」
「あ、はい」
「怜が寝ちゃったんだけど、迎えに来る?それとも家で寝かせといた方がいい?きっと、起きないと思うんだけど」
賢太郎は時計を横目に見る。
「すみません、今日はアルコールをとっているので迎えにいくのは難しくて、終電も終わっていますよね?」
高田は、横目に時計を見る。
「じゃぁ、明日の朝、そっちに送るわ」
「申し訳ございません。ありがとうございます」
「いいって、じゃぁ」
「はい。あの本当にありがとうございます」

電話は終わる。怜が酔っぱらって寝るなんて、見たことも聞いたこともなかった。
スースーと寝息をたてる怜にそぉっと布団をかけた陽葵。

「幸せになりなよ、怜」

「さ、私も寝るかな」
パチンと電気を切る。


 翌日の昼前、怜を車で送り届けた陽葵。アパートの下まで迎えに来た賢太郎。
「あ、賢太郎さん」
「おかえり
高田先輩、ありがとうございます。何かお礼でも」
「良いのいいの。私も楽しくなってついつい長引いちゃった感じだし」
「そうですか?」
「うん
怜、昨日はありがと、いろいろ、聞いてもらって。じゃあね」
「陽葵もいろいろありがとうね、バイバイ」
「はーい、またねー」
車の窓が上がって、陽葵の車は走り出す。

「怜さん、昨日は何を話したん?怜さんが寝るほど飲むって」
怜は昨日の会話の記憶を辿り、賢太郎には話せない内容であると判断する。
「それは、女の秘密」
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