思い出を探して

N

文字の大きさ
上 下
15 / 26

カッコいい

しおりを挟む
映画を見た日から2か月後。

暴力的な日差しが降り注ぐなか、今、賢太郎はショックなものを見ている!!
あの、怜が他の男と歩いている!!


ここまでの経緯
賢太郎は本を買った帰り道である。週休の日だが、平日の水曜。そこで、偶然怜と男を見つけた。悪いことをしているなーとは思いつつ、心穏やかではない、とりあえず、尾行中なのである。

「怜ちゃん、どうなの最近は?お仕事でこの辺くるの?」
「・・・」
「やだなぁ、無視はないっしょ」
「・・・」
「てか、俺のこと覚えてる?大学でおんなじサークルの」
「・・・」
男は、怜の肩に手を回す。
「やめてください」
怜は手を払おうとするがなかなかしつこい。
「向こうに美味しいレストランあるから、ね、ちょっと話そうよ」
この時間、平日に出歩いていて、それで首には金色のネックレス。
「あなたと話して、私に何か有益な事でもあるのでしょうか?私はただいま仕事中ですので、これ以上迷惑をかけるようでしたら、」
「はぁ?ちょっと、儲かる話するだけなんですけど」
「興味ないので」
「ったく、なんだよその態度は!先輩にたいして礼儀ってもんがあっだろ?ちょっと、頭が切れて顔がそこそこ良いからって調子のってんじゃねぇよ。鉄女」
「調子にのっているわけでもなければ、鉄で出来た女でもありません。確かに、人体に鉄分は不可欠な栄養素ですが、それを基準でおっしゃっているのでしたら、男性の方が鉄分は多いのであなたは、鉄男となるのですか?」

怜は空気を読む能力が人より少し劣っています。
「訳のわかんねぇこと言ってんじゃねぇよ」
「具体的な数値を示して方が良かったですか?」
鉄女というのは、鉄分が含まれた女ではなく、鉄のように冷たくて、感情がなくて、靡かず、好かれず、大事にされない者というニュワンスの作者の造語です。
「いいから、こっちに来い」
「なぜ行く必要があるのでしょうか?」
「いいから来いよ」
「理由がないのであれば、あなたと会話をするだけ無駄なので事務所に帰ります」
「先輩になんて口聞いてんだ!」
足早に立ち去ろうとする怜の腕を男は強引に掴む。
「やめてください!」


会話の声は聞こえなかったが、怜のやめてください!という言葉だけ賢太郎の耳にハッキリと届いた。

「ちょっと、何をしているんですか?」
足が動いていた。
「はぁ?てめぇなんだよ?」
相手は大柄で185くらいはありそうだ。
「け、賢太郎さん?!」
「怜さんの婚約者です。彼女、すごく嫌がっていました!これ以上、手を出すのであれば警察を呼びますよ」
怜と男の間に入って、怜の盾になる。そして、良すぎる声。体型と不釣り合い。
男は舌打ちをして逃げていった。
「大丈夫?怪我ない?あの男に何かされへんかった?」
さっきまであんなに大きく見えた賢太郎が急にいつもの同じ目線の高さの賢太郎に戻る。
「大丈夫。ありがとう」
「事務所まで送ろか?」
怜は頷く。
怜の事務所までここから歩いて15分。
「ごめんな、婚約者とか言っちゃって」
「私の方こそ、助かったし、ありがとう」
「気ぃつけや、怜さんは綺麗やし、最近は何かと物騒やからな」
「さっきのは、マルチか何かの勧誘かな?」
気丈に振る舞おうとするが、まだ、怯えている怜にたくさん話しかけることはできなかった。ただ、一緒に歩くボディーガードだ。
その日、怜を事務所まで迎えに行った。
「怜さん、昼間のこともあったし迎えにきたで」
賢太郎は軽自動車の窓を開けてそこから手を振る。
「ありがとう」
怜は後部座席に乗り込む。
「もう少し、僕が早く出ていったら良かったやんな今日」
掴まれる前にタイミングならいっぱいあったはずだ。
「か、カッコ良かったよ。今日、私の前であの男をどこかへ追い払った時」
「へ?」
思わず変な声が出る。
「カッコ良かったんです!」
怜はもう一度同じことを言う。
「あ、ありがとう。で、エエんかな?」
賢太郎の中に戸惑いと嬉しい、良かった。そんな感情が込み上げる。


 家に着くと、晩御飯を食べて、風呂に入って怜はあっという間に自室に籠ってしまった。
「では、おやすみなさい」
「お、おやすみ、もう寝るん?」
時刻9時00分
こんな時間に寝るなんて小学生だろうか。
「はい」



「言っちゃった」
怜はボンボンとベッドを叩く。
なんか色んな感情が混ざっている。カッコいいって言われてもありがとうは伝わらないよね?
なんで、カッコいいとか口にしちゃったかな?
実際に少しカッコ良かったけど。いやいやいや、

あのときの賢太郎がフラッシュバックする。
《怜さんの婚約者です!》
不思議な感じだ。目の前でそう言われて、記憶を失くす以前の私が、賢太郎さんにどれだけ大切に思われていたのか分かるような気がした。

「カッコ良かったな…」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

恋するプリンセス ~恋をしてはいけないあなたに恋をしました~

田中桔梗
恋愛
エリー王女と側近レイの二人がそれぞれ物語を動かしていきます。 初めての恋に気づくまでのドキドキ感と恋と知った後の溢れる想い。 その後、禁忌を犯してしまう二人に待っていたのは、辛い別れだった。 どのようにして別れてしまうのか。 そしてどのようにしてまた出会うのか。 エリー王女は、どんなことがあってもレイをずっと愛し続けます。 しかし王女という立場上、様々な男性が言い寄り、彼女を苦しめます。 国同士の陰謀に巻き込まれるエリー王女が取るべき行動とは。 また、恋愛とは別のところで動き出すレイの過去。 十六歳の時、記憶を一切持たないレイがなぜ国王の第一側近に引き取られたのか。 この失われた記憶には大きな秘密が隠されており、明らかになった頃には転げ落ちるように物語が暗転していきます。 関わってくる四カ国が様々な思惑で動き出し、迫りくる魔の手に覆われます。 愛する人のために命を懸けるレイは、何度も危険な目に……。 そんな中、世間知らずの箱入り娘であったエリー王女は泣いているだけではありません。 様々な経験を得ながら成長し、前を向いて歩いていきます。 これは二人が苦難を乗り越え、幸せになるための物語です。

思い出を探して

N
恋愛
明神 怜 はウエディングドレスを見に行った日の帰り、交通事故にあって記憶を失った。不幸中の幸いか、多くのことは数日中に思い出し、生活を営める。だが、婚約者だけ分からない。婚約者である賢太郎は、ショックを受けつつ前向きに、怜に向き合いゼロから好きになってもらう努力をする。 二人はどうなる…

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

宮廷画家令嬢は契約結婚より肖像画にご執心です!~次期伯爵公の溺愛戦略~

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
ファンタジー
男爵令嬢、アマリア・エヴァーレは絵を描くのが趣味の16歳。 あるとき次期伯爵公、フレイディ・レノスブルの飼い犬、レオンに大事なアトリエを荒らされてしまった。 平謝りしたフレイディにより、お詫びにレノスブル家に招かれたアマリアはそこで、フレイディが肖像画を求めていると知る。 フレイディはアマリアに肖像画を描いてくれないかと打診してきて、アマリアはそれを請けることに。 だが絵を描く利便性から、肖像画のために契約結婚をしようとフレイディが提案してきて……。 ●アマリア・エヴァーレ 男爵令嬢、16歳 絵画が趣味の、少々ドライな性格 ●フレイディ・レノスブル 次期伯爵公、25歳 穏やかで丁寧な性格……だが、時々大胆な思考を垣間見せることがある 年頃なのに、なぜか浮いた噂もないようで……? ●レオン フレイディの飼い犬 白い毛並みの大型犬 ***** ファンタジー小説大賞にエントリー中です 完結しました!

【完結】未来の息子がやってきた!?

海(カイ)
ファンタジー
 グラン国内、唯一にして最高峰の魔法学校。『ジャン・クリフトフ魔法学園』のアッパークラスに在籍しているエイデン・デュ・シメオンはクラスメイトのソフィアに恋心を抱いていた。  しかし、素直になれないエイデンはソフィアにちょっかいをかけたりと幼稚な行動ばかり…。そんなエイデンの前に突如未来の子どもだというパトリックが現れる。母親はまさかの片思いの相手、ソフィアだ。 「…マジで言ってる?」 「そうだよ。ソフィア・デュ・シメオンがぼくのママ。」 「……マジ大事にする。何か欲しいものは?お腹すいてない?」 「態度の変え方エグ。ウケる。」  パトリックの出現にソフィアとエイデンの関係は少しずつ変わるが――? 「え…、未来で俺ら幸じゃねぇの…?」  果たしてエイデンとソフィア、そしてパトリックの未来は…!? 「ねぇ、パパ。…ママのことスキ?」 「っ!?」 「ママの事、スキ?」 「………す………………」  やっぱ言えねぇっ!!

幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜

葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在 一緒にいるのに 言えない言葉 すれ違い、通り過ぎる二人の想いは いつか重なるのだろうか… 心に秘めた想いを いつか伝えてもいいのだろうか… 遠回りする幼馴染二人の恋の行方は? 幼い頃からいつも一緒にいた 幼馴染の朱里と瑛。 瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、 朱里を遠ざけようとする。 そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて… ・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・ 栗田 朱里(21歳)… 大学生 桐生 瑛(21歳)… 大学生 桐生ホールディングス 御曹司

戦神、この地に眠る

宵の月
恋愛
 家名ではなく自身を認めさせたい。旧家クラソン家の息女エイダは、そんな思いを抱き新聞記者として日々奮闘していた。伝説の英雄、戦神・セスの未だ見つからない墓所を探し出し、誰もが無視できない功績を打ち立てたい。  歴史への言及を拒み続ける戦神の副官、賢人・ジャスパーの直系子孫に宛て、粘り強く手紙を送り続けていた。熱意が伝わったのか、ついに面談に応じると返事が届く。  エイダは乗り物酔いに必死に耐えながら、一路、伝説が生まれた舞台の北部「ヘイヴン」へと向かった。  当主に出された奇妙な条件に従い、ヘイヴンに留まるうちに巻き込まれた、ヘイヴン家の孫・レナルドとの婚約騒動。レナルドと共に厳重に隠されていた歴史を紐解く時間が、エイダの心にレナルドとの確かな絆と変化をもたらしていく。  辿り着いた歴史の真実に、エイダは本当に求める自分の道を見つけた。  1900年代の架空の世界を舞台に、美しく残酷な歴史を辿る愛の物語。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

処理中です...