思い出を探して

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カッコいい

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映画を見た日から2か月後。

暴力的な日差しが降り注ぐなか、今、賢太郎はショックなものを見ている!!
あの、怜が他の男と歩いている!!


ここまでの経緯
賢太郎は本を買った帰り道である。週休の日だが、平日の水曜。そこで、偶然怜と男を見つけた。悪いことをしているなーとは思いつつ、心穏やかではない、とりあえず、尾行中なのである。

「怜ちゃん、どうなの最近は?お仕事でこの辺くるの?」
「・・・」
「やだなぁ、無視はないっしょ」
「・・・」
「てか、俺のこと覚えてる?大学でおんなじサークルの」
「・・・」
男は、怜の肩に手を回す。
「やめてください」
怜は手を払おうとするがなかなかしつこい。
「向こうに美味しいレストランあるから、ね、ちょっと話そうよ」
この時間、平日に出歩いていて、それで首には金色のネックレス。
「あなたと話して、私に何か有益な事でもあるのでしょうか?私はただいま仕事中ですので、これ以上迷惑をかけるようでしたら、」
「はぁ?ちょっと、儲かる話するだけなんですけど」
「興味ないので」
「ったく、なんだよその態度は!先輩にたいして礼儀ってもんがあっだろ?ちょっと、頭が切れて顔がそこそこ良いからって調子のってんじゃねぇよ。鉄女」
「調子にのっているわけでもなければ、鉄で出来た女でもありません。確かに、人体に鉄分は不可欠な栄養素ですが、それを基準でおっしゃっているのでしたら、男性の方が鉄分は多いのであなたは、鉄男となるのですか?」

怜は空気を読む能力が人より少し劣っています。
「訳のわかんねぇこと言ってんじゃねぇよ」
「具体的な数値を示して方が良かったですか?」
鉄女というのは、鉄分が含まれた女ではなく、鉄のように冷たくて、感情がなくて、靡かず、好かれず、大事にされない者というニュワンスの作者の造語です。
「いいから、こっちに来い」
「なぜ行く必要があるのでしょうか?」
「いいから来いよ」
「理由がないのであれば、あなたと会話をするだけ無駄なので事務所に帰ります」
「先輩になんて口聞いてんだ!」
足早に立ち去ろうとする怜の腕を男は強引に掴む。
「やめてください!」


会話の声は聞こえなかったが、怜のやめてください!という言葉だけ賢太郎の耳にハッキリと届いた。

「ちょっと、何をしているんですか?」
足が動いていた。
「はぁ?てめぇなんだよ?」
相手は大柄で185くらいはありそうだ。
「け、賢太郎さん?!」
「怜さんの婚約者です。彼女、すごく嫌がっていました!これ以上、手を出すのであれば警察を呼びますよ」
怜と男の間に入って、怜の盾になる。そして、良すぎる声。体型と不釣り合い。
男は舌打ちをして逃げていった。
「大丈夫?怪我ない?あの男に何かされへんかった?」
さっきまであんなに大きく見えた賢太郎が急にいつもの同じ目線の高さの賢太郎に戻る。
「大丈夫。ありがとう」
「事務所まで送ろか?」
怜は頷く。
怜の事務所までここから歩いて15分。
「ごめんな、婚約者とか言っちゃって」
「私の方こそ、助かったし、ありがとう」
「気ぃつけや、怜さんは綺麗やし、最近は何かと物騒やからな」
「さっきのは、マルチか何かの勧誘かな?」
気丈に振る舞おうとするが、まだ、怯えている怜にたくさん話しかけることはできなかった。ただ、一緒に歩くボディーガードだ。
その日、怜を事務所まで迎えに行った。
「怜さん、昼間のこともあったし迎えにきたで」
賢太郎は軽自動車の窓を開けてそこから手を振る。
「ありがとう」
怜は後部座席に乗り込む。
「もう少し、僕が早く出ていったら良かったやんな今日」
掴まれる前にタイミングならいっぱいあったはずだ。
「か、カッコ良かったよ。今日、私の前であの男をどこかへ追い払った時」
「へ?」
思わず変な声が出る。
「カッコ良かったんです!」
怜はもう一度同じことを言う。
「あ、ありがとう。で、エエんかな?」
賢太郎の中に戸惑いと嬉しい、良かった。そんな感情が込み上げる。


 家に着くと、晩御飯を食べて、風呂に入って怜はあっという間に自室に籠ってしまった。
「では、おやすみなさい」
「お、おやすみ、もう寝るん?」
時刻9時00分
こんな時間に寝るなんて小学生だろうか。
「はい」



「言っちゃった」
怜はボンボンとベッドを叩く。
なんか色んな感情が混ざっている。カッコいいって言われてもありがとうは伝わらないよね?
なんで、カッコいいとか口にしちゃったかな?
実際に少しカッコ良かったけど。いやいやいや、

あのときの賢太郎がフラッシュバックする。
《怜さんの婚約者です!》
不思議な感じだ。目の前でそう言われて、記憶を失くす以前の私が、賢太郎さんにどれだけ大切に思われていたのか分かるような気がした。

「カッコ良かったな…」

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