思い出を探して

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陽葵と賢太郎さん

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高田 陽葵との交流は依然としてある。陽葵は、大学時代の先輩であるだけでなく、私が困った時にはよく助けてくれた人だ。怜が記憶を失っていることを知っている。
職場は賢太郎と同じ大阪郊外の消防署。
陽葵は関西に住んでみることが夢だったらしく、わざわざ東京から就職のタイミングでこっちまでやって来た。


職場にて

勇元と高田の 二人で協力する放水訓練。水の塊が勢いよく放出されると同時に、グッと押されるのを踏みとどまって、標的にしっかりと水を当てることができるように支える。
 それを終えて、休憩ついでに自販機のスポーツドリンクを買ってきて、それを持ってくる高田先輩。

「勇元くん、はい」
「あ、ありがとうございます」
カチカチッと音をたてて、蓋を開ける。
「最近、暑くない?」
「そうですね、まぁ、ほとんど夏ですから」
「特に消防服着たとき、ほんと、サウナ」
防御力を高める上では仕方にないことなのだろうが、今ならもっといい素材ありそうなのに。と、多くの人が思っている。
「冬ほどじゃないですけど、BBQと花火とかで呼ばれたりもしますしね」
隣の地区では、一昨日の夜、通報があったらしい。花火の時に使ってた蝋燭が倒れて、芝生が燃えたらしい。
「だよねー。今日のニュース見た?茨城県のキャンプ場の」
「あぁ、やってましたね。ヘリまで出るなんて結構じゃないですか?火の不始末だけで、この季節そんなにいきますか?って感じですよね」
雨の多い時期であれば、湿気が多くて燃え広がるスピードは落ちる。
「あれらしいよ、ジェルの引火剤の大量使用があったんだって」
「あぁ、絶対やめた方が良いやつ」
「ねー。なんでやっちゃうんだろう?」
「まぁ、僕もこの職じゃ無かったら、やりそうになる気持ちは分かります」
「きっと、同伴の彼女に、 早く火をつけられる俺 を見せたかったんだろうね」
「うわ、ありそう…」
「火事起こされたらドン引きだけどね」
「それはそうですね」
ハハッと笑った賢太郎。

「高田、ちょっと良いか?」
「署長」
声がした方を見る。
「二人とも勤務お疲れ様、勇元、高田借りるぞ」
「はい」
高田先輩は署長に連れられて行ってしまう。一人、休憩スペースに残された賢太郎。
入れ違いになるように、3歳年上の安道先輩がやってくる。
「勇元、ちょっと相談やねんけど」
目の前の空いている椅子に座る。
「はい」
「町内会の祭りで、出し物せなあかんの知ってる?」
「毎年、煙体験車とはしご車とか出してるやつですか?」
安道先輩は深刻そうな顔をする。
「それやねんけど、今年、消防隊員で演劇することになってん」
「え、急に?」
「そう。もともと、音楽隊押さえてたんやけど、どうしても無理みたいやねん。でも、出し物するって言っちゃったし、なんかせなあかんねん」
「はぁー、それで、演目は」
「ファイヤーバスターズ」
「え?初耳の単語なんですけど?」
「ほら、あれやん、火事の元を無くして町を守るヒーローの」
「あぁ、何年か前に高田先輩と安道先輩が小学校でやったやつですか?」
「それそれ」
「主演は前と同じで高田先輩ですか?」
安道先輩は頭を横に振る。高田先輩は、この署の唯一の女性消防士である。消防は男ばっかりというイメージを払拭し、男女共に働いているということをアピールするには高田先輩が出るので妥当かな。事務の方には、高田先輩以外にも居るけれど。
「高田に言ったら、「はぁ?」みたいな目で見られたわ。お前らでそうなったなら、お前らから出せよ、みたいな圧を感じた」
「あぁ」
想像がつかなくはなかった。
「ほんで、やっぱ、主演は勇元かなって」
「え!?何でですか?」
驚きを隠せない賢太郎。
「ほら、勇元は背も低いし、声もこの中では高い方やし、子供うけ良さそうやん?」
「先輩…」
しれっとディスを感じる。
「まぁ、町内会の祭りやん、やってや。見に来るん、子供ばっかやって。な、お願い!」
「ちなみに、僕が断ったら誰がやるんですか?」
「うーん、断られんの考えてへんかったわ。なんとかかんとかって良いながら、やるやん、勇元はさ。先輩からのお願い!」
そう言って、笑った安道先輩。
パワハラかなって思わせる。ただし、ここで僕が断って、事務の女性、僕の後輩に、この半罰ゲームが回ってしまうことを考えると、やるしかないような気もしてくる。
「どう?やらへん?」
ズイズイと近づく安道先輩。
「分かりました。やりますよ!」
「よっしゃ!ありがとう、さすが勇元。また、昼飯、奢るな」
昼御飯は、コンビニが主流だ。
「若干、割りが合ってません」
冗談混じりにそう言った。
「じゃあ、飲み物こみで」
「了解です」
「じゃ、俺、戻るな」 
「はい」


シャワーでも浴びてこようかと、賢太郎も席をたつ。
「あ、勇元くん」
ちょうど、戻ってきた高田先輩と鉢合わせる。
「そういえば、署長の話しなんだったんですか?」
高田先輩は少しの間を持ってから答えた。
「そんな大したことじゃないよ」
「そうですか…」
「あぁそうだ、今度の週休、外で会えたりする?」
「何でですか?」
「うん?まぁ、ちょっとね」
「二人ですか?」
「うん」
「すみません、怜さんに確認をとってから、返事をさせてください」
現在、同棲中であはあるが、婚約は解消し、交際関係にあるというわけではない。怜とそうすることで決定していた。だから、厳密に言えば、怜に確認をとる必要性はさほどない。ただ、その確認が賢太郎には重要なのだ。

「それなら、怜に確認済み。
良いよー  だって」
「怜さんが良いなら、行けます」
ちょっとくらい、止めてくれたって良いじゃないか、そんなことを思う。
「OK、ありがと」
高田先輩は嬉しそうに笑った。

 高田は署の廊下を早歩きで歩く、まさか、二人で、外で会えるなんて。ラッキーでハッピーだ。怜には若干申し訳ない気持ちもあるが、それより、喜びが勝る高田であった。

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