思い出を探して

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ビール

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賢太郎が作ったチキンステーキがメインの晩御飯を食べ終わると、二人はソファに腰を掛けて映画を見る。部屋の照明を落とす。
「なんだか、部屋の中なのにデートをしているみたい」
怜がボソッと言った一言を逃さなかった。
「デート?怜さん、今、デートって言ったやんな!」
怜は、賢太郎と同じ家に住むことを同居、外に出て二人で何かすることを、記憶探し。そう言っていた。デート との認識があることは前進なのだ。

「気のせいです」
赤くなっているのは、酔っているのか、思わず口走った言葉が恥ずかしかったのか、微妙だ。口調は何時ものごとく、冷静だった。
「はは、そうやんな」
乾いた笑いが部屋にこだまする。テレビ画面では、恐竜たちがこっそりと主人公を追い詰めている。おそらく、あのちょっと性格に難ありの弁護士は最初の餌食になるんだろうな。
「この映画、面白い。有名で、見てみたかったんだけど、なかなか見れなくて」
怜は食い入るように画面を見る。制作から結構経っているだろうけど、名作はいつまでも色褪せない。その意味がわかる。
「僕が好きな映画やねん。気に入って貰えて良かったわ」
賢太郎は、ビールに手を伸ばす。思わず、グラスに入ったビールを倒してしまう。暗くして、映画館の雰囲気を出そうとした部屋が仇となった。二人は、薄手の掛け布団をそれぞれ自室から持ってきて、掛け布団を肩から下にかけて見ていた。想像はつくだろう。こぼれたビールは瞬く間に賢太郎の布団に広がる。
「わ!」
「どうしたの?」
「布団にビールこぼした!」
賢太郎は急いで布団カバーを外す。不幸にも、中までしっかりしみている。
「布団、洗ってくるわ」
布団を持って、洗面所へ。急いで洗う。ビールの臭いが、色が、ついた布団では寝たくない。賢太郎は、手際よく、布団を洗うと、洗濯機に入れる。夜の間に干すしかないか…
「あ、映画、止めてたん?」
「布団は大丈夫だった?」
「多分、はやく洗ったし、大丈夫。問題は、今晩やなさすがに、濡れた布団では寝れへんからな」
賢太郎は、苦笑いを浮かべる。季節的にはギリギリ布団なしで耐えられるだろうが、賢太郎自身が何にもかけないで寝られない性分であった。
「厚着して寝よ」
怜は夏用のタオルケットを持っているが、賢太郎は引っ越しのタイミングでそれを捨てて、今はまだ買っていない。


怜は、トントンとソファーを叩く。
「えっと?」
「せめて、この時間は」
怜は、布団を横向きにして、賢太郎が座っていた方向の布団を半分ほどめくりあげる。視線は、賢太郎を見つめる感じだ。
「し、失礼します。」
賢太郎は怜の布団にスルスルと足を滑り込ませる。
2分後
「い、嫌じゃないですか?」←緊張で敬語



「嫌、、じゃないです。」←緊張で敬語

照れ臭いやら、恥ずかしいやら、気をまぎらわすために映画をガン見。


賢太郎は、大判のバスタオルでその夜は眠った。ちょっとでも、一緒に寝る期待をした自分は、愚かしかった。
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