思い出を探して

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大学

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 父に引き取られて3年。

 怜は大学に進学し、法律の勉強をしていた。大学は、北関東にある。
 将来は、父と同じ弁護士になって、不遇な立場にある人たちを助けたい。


 講義が終わって、友達と昼ご飯を食べる約束をしていたカフェテリアへ向かおうとする。
「あの、消しゴム」
 そう声が聞こえて、私は振り向く。すると、そこには、取っている特講が同じ勇元賢太郎いさもとけんたろうさんが、私のモノ消しを持っていた。
「あ、ありがとうございます」
怜は、最小限のお礼を伝える。
「あの、もし良かったら、次の特講のノート見せてもらえませんか?一昨日の授業、部活の地方大会で出られなくて」
「良いですよ」
怜は黒のリュックから、リングノートを取り出す。そして、それを賢太郎に渡す。
「ありがとうございます!コピーとったら直ぐに返します」
「じゃあ、次の授業で」
昼休みを挟んで、次の授業は、賢太郎とは一緒である。それも、少人数で、10人くらいしかその授業は被っていない。
「分かりました」
賢太郎は深々と頭を下げる。

怜は、カフェテリアへ急ぐ。
広いキャンパス内を水色のミニベロで走り抜ける。
腕時計をちらっと見る。
やっぱり、さっきの教授ったら遅れがちなんだよなー。

カフェテリアにつくと、こちらに向かって大きく手を振る友達。今日は、かしこまった服だな。いつもは、結構、ラフな格好が多い人なのに。
陽葵ひまり、お待たせ」
乱れた髪を手ぐしで直す。
「まったく、遅いなー」
友人の高田陽葵は、歳で言えば私の一つ上にあたる。昔、東京に住んでいたときに近所で仲が良かった人で、大学に入って、偶然、テコンドー部で再会を果たした。本当に、びっくりするくらい世界は狭いなと思ってしまった。
「ごめんごめん、授業が長引いちゃって」
「あぁ、もしかして、あの丸眼鏡教授?」
「そうそう」
「なら、しゃーないか」
陽葵は、レタスがとびだしたサンドイッチをパクッと食べる。こりゃ、結構待たせたんだな。
「私も、サンドにしよっかな。ちょっと、買ってくるわ」
怜はサンドウィッチを買いに、席を立つ。

メニュー表を見て、上から二つ目のサンドウィッチを注文する。
おしぼりと、お水を取ってから、席に戻る。

「怜、今日の夜って空いてる?」
「ん?まぁ、空いてるよ」
「大学近くの居酒屋で、剣道部と合コン入ってて」
「へー」
怜は、出来るだけ合コンやらコンパやらそんなものは避けていた。そもそも、大して仲良くない人と一緒に高い食事代を払ってまでして過ごすメリットが無いように思うからだ。
「一人、欠員が出ちゃって、怜、来てくれない?」
「えー!」
「お願い!3、3っていう約束だから」
陽葵には日頃、いろいろ助けてもらってるとは言えど、急な提案に困る怜。ただ、目の前の陽葵は、両手を合わせて私に頼み込んでいる。予定が無いと言ってしまった手前、断りにくい。怜は、しばし考える。
「陽葵がずっと居るなら、良いよ。行ってあげる」
「ありがとうございます!昼は、私が奢るわ」
「え、良いのに」
「まぁまぁ、こっちのお願い聞いてもらちゃってる訳だし、これくらいは」
サンドウィッチ単品の価格380円ピッタリを、陽葵は私に手渡した。この、価格であれば、奢り奢られの何かが生じることもない。怜は、380円をありがたく頂戴した。

「じゃあ、6時に時計のところで待ち合わせでいい?」
「え?今日、テコンドーあるんじゃないの?」
サークル一緒だし、別にあえて待ち合わせしなくても。
「あるんだけど、私、午後から公務員の就職説明会あるし、サークルはパスで」
そうか、陽葵はもう就職を考える段階か。大学3年だもんな。
「忙しそう、どこ志望だっけ?業界的なあれ」
「私は消防官志望。やっぱり、小学生からの夢だし、諦めきれなくて。親には、危険な仕事なんだから、止めときなさいとは言われているんだけど、まぁ、結局、働くのは自分な訳だし」
「カッコいいじゃん!」
怜は親指を立てて、ニコッと笑う。
「ありがと」

 陽葵のポケットに入れたスマホがブルブルと振動する。陽葵はスマホをチェックする。
「なんか来てた?」
「説明会一緒に行く約束してる友達が、待ち合わせ場所着いたみたい」
陽葵は左腕の時計を確認する。待ち合わせ時刻の12分前。ここからはすぐそこだ。
「早く行ってきなよ」
「ごめんね、じゃあ、6時。よろしく」
陽葵は、鞄を肩にかけて、私に手を振りながら店を出る。

 怜は、陽葵が出た後に、サンドウィッチを完食して、それから、カフェテリアを出る。

 ミニベロで、別の棟に移動。やっぱり、この学校は広い。移動だけで、この暑さの中だと汗をかいてしまう。
 教室に入ると、サーッとクーラーの冷たい空気が怜を包む。気持ちいい。
教室では、勇元くんが一人、席について、黙々と勉強していた。
そういえば、勇元くんって剣道部だったような。
勇元くんがこちらに気が付く。
勇元くんは、私のリングノートを手にもって、近づいてくる。
「ノート、ありがとうございます。助かりました。明神さんのノートってっ見やすいな」
怜は勇元くんからノートを受け取る。
「いえいえ、これで良かったんですか?」
「はい!」
そう言って、満面の笑みを浮かべた勇元くんは、思い出したように自席に置いたカバンからペットボトルのサイダーを取ってきて渡す。
「お礼です」
「良いの?」
「もちろんです。やっぱり、ノートは大事ですから」
勇元くんからのサイダーを受け取ってしまった。勇元くんはどこか満足気に微笑んだ。



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