ソーダ色の夏

N

文字の大きさ
上 下
4 / 19

無人島

しおりを挟む
無人島に旅立つ朝は、朝からドタバタと支度に追われていて、ただでさえよく眠れず疲労が溜まっている体に鞭を打って動かす。
「入るよ、紅葉」
「はーい」
蒼士が、紅葉の部屋に入る。支度の遅い紅葉を手伝いに来たのだろう。
「おはよー」
「おはよー、とか、そういう時間じゃないよ!はやく、準備して。忘れ物もしないように」
ベッドの上に散乱した服を見て、蒼士は、ため息をつく。
「あと、鞄に入れるだけだから」
「パパッとしてくれよ」
バックパッカーが背負うような、大きなリュックがパンパンになる。
「はい、これ」
「ありがと」
紅葉が、リュックにものを積めていき、蒼士が、ホテルの洗面所なんかをキレイにしたり、忘れそうな物を紅葉に渡す。
 蒼士の手伝いもあって、どうにか時間に間に合った。
「一ノ瀬くん、藤原さん、おはようございます。」
翠が、ホテルのフロントのソファに腰を掛けている。
「あ、加賀くん、おはよう」
「おはよう、あれ?大堂くんは?」
「隣の部屋なので、一緒にフロントへ向かおうと、ホテル内の電話で呼び掛けたのですが、先に行っといてくれと言われてしまって。多分、もう少しで来ると思います。」
「加賀くんは、堅いなぁ、敬語なんか使わなくても、同学年だし」
蒼士は、ニコッと笑う。
「ごめん!探し物が見つからなくて」
「大堂くん、探し物は見つかったの?」
「あれ?翠がタメ口だ。うん、見つかったよ」
大きなリュックがよく似合っている、琥珀。
「さ、全員が揃いましたね。あと、5分後にバスが来ます。降りたら、見えるところに船乗り場があるので、その船で、無人島に向かいます」
「はい」
六人の付き添いの先生は、ホテルのフロントまでだ。あとは、派遣された政府の高校生更生プロジェクト担当委員が無人島まで案内をして、万が一の時は助けてくれる。
 バスに乗り、降りると、一気に塩の香りが漂う。
「すごい!きれい」
「本当だ!」
透き通るようなきれいな海を見れば、誰でも跳び跳ねて感動するものだ。
「船に乗るよ、紅葉、蒼士」
琥珀が手招きで呼ぶ。
船内は、貸切状態。悪くない。大きな船ではないけれど、それなりに良さそうな船だ。出港時には、その土地の人が、手を振っていた。
「なんだか、すっかり、有名人になったみたいだ。」
「そうだね。」
蒼士は、子供のようにはしゃいでいる。
4人は、甲板に出て手を振り返す。
「翠、あのさ、向こうについたら、俺の事ちゃんと、下の名前で呼んでくれよ。何て言うか、そっちの方が親しみやすいし。俺、周りのやつからも下の名前で呼ばれることが多いから」
翠は少し静止してから
「わかった。琥珀  みたいな、感じ?」
照れ臭そうに聞く
「ちょっと、緊張してるな。翠。ま、でも、そんな感じだ。」
翠の背中をパンと、叩く琥珀。
 ずいぶんと港が小さく見えてきたので、船内の小さな食堂におりる。
 「二人とも、一緒に目指すってことでいいんだよな?」
 太平洋の真ん中についたペアから賞金が出る。一番最初についたペアが、5000万そこから、500万ずつ、減らされていく。ちなみに、税金は発生するが、税抜きでこの価格だ。高校生には大きすぎる金額だが、その使い道も含めて、この人なら大丈夫。という人が選ばれているのだろう。今回は、二つのペアなので、5000万と4500万、たどり着けない可能性も十分にあり得るので、なんとも言えないが、今回は4人で話し合い、4人で行動して、賞金を足して4で割るという話にまとまった。賞金はどう分けてもいいらしい。最終確認を、蒼士は行ったのだ。
  「そろそろ、着きますよ」
スーツ姿の若い女性が、4人を先導する。
 蒼士が、一番最初に、無人島の砂を踏む。
「ガチの無人島だ!」
砂は、サラサラとしていて、白色に近い色をしている。
「あちらに見えるものが、支給されている乗り物です。使っても使わなくても、どちらでもかまいません」
無人島には似合わないスーツの女性が、浜の先の方にある船らしきものを指す。
「わかりました」
「では、私どもはこれで。気を付けてください」
あっという間に、女はたった今、4人を下ろした船に乗る。
「さよなら」
4人は手を振り、船に別れを告げる。

 「なんか、ワクワクするね」
紅葉が、そういうと、蒼士が激しく頷く。
「まずは、水の確保からかな?」
翠は深呼吸をして、無人島の空気を肺胞一つ一つに入れてからそう言った。
「翠、その前に俺らが使う船の方を見に行こうぜ」
すかさず、琥珀の言葉に蒼士が反応する。
「そうだな、琥珀。」
琥珀の次に蒼士が並ぶような感じで、駆け出す。別に、蒼士の足が遅いということはないのだが、差が開いて、琥珀がダントツの一番乗りでたどり着く。
「はぁ、はぁ、琥珀、足速いな。」
相当、悔しそうな蒼士。
「まぁ、運動は好きだから」
涼しい顔の琥珀。
「二人とも速いよ」
後から、翠と紅葉がたどり着く。だいたい、こんなに重たい荷物があるのに走ろうと思う神経が凄い。


  その日は、とりあえず火を起こして、水をつくって、木の実と魚を食べた。

水は、海水と鍋とコップとアルミホイルと熱で作る。鍋の中央にコップを入れる。コップを立たせて、そのコップに海水が入らないように鍋に海水を入れる。上から、鍋のサイズと同じくらいにアルミホイルを切って、真ん中をくぼませる。そして、蓋のように被せる。これを火にかければたちまち、海水は沸騰。水蒸気が発生し、アルミホイルのくぼみに水滴が集まる。集まった、水滴がコップに落ちて水ができる。
「凄いな、翠!」
蒼士が、出来上がった水を飲んで驚く。
「僕は魚を捕まえたり、木の実をとったりするのは得意じゃないから、これくらいしかできなくて申し訳ないよ。」
「でも、水があるってすっごく、大切なことだよ」
紅葉に言われて、「そうかな?」と言いたげな顔をする翠。
「無人島では、必要なものだけを集めてさっさと海に出よう」
「琥珀に賛成かな。俺も、そう思う。」

 無人島でのはじめての夜は、「どんな生き物がいるか、わからないよ」という紅葉の言葉で、二時間ごとにペアで見張りをしながら寝ることになった。
「おやすみ」
はじめは、じゃんけんで勝った、翠と琥珀が見張りだ。蒼士と、紅葉は、琥珀が持ってきたテントで寝る。まぁまぁ広い。
「紅葉、ここから、俺の方には入ってこないようにな」
薄手のタオルをぐるぐると巻いて枕にする。
「はーい、おやすみ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

コートの不死鳥

光山登(kohyama-noboru)
青春
試合での失敗、仲間の沈黙、重くのしかかる挫折。 主人公は自分の弱さに打ちのめされる。 厳しい特訓を通じて何度倒れても立ち上がり、限界を超えようともがき続ける。 逃げないと決めた主人公の葛藤と成長を描く物語。

黄昏は悲しき堕天使達のシュプール

Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・  黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に  儚くも露と消えていく』 ある朝、 目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。 小学校六年生に戻った俺を取り巻く 懐かしい顔ぶれ。 優しい先生。 いじめっ子のグループ。 クラスで一番美しい少女。 そして。 密かに想い続けていた初恋の少女。 この世界は嘘と欺瞞に満ちている。 愛を語るには幼過ぎる少女達と 愛を語るには汚れ過ぎた大人。 少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、 大人は平然と他人を騙す。 ある時、 俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。 そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。 夕日に少女の涙が落ちる時、 俺は彼女達の笑顔と 失われた真実を 取り戻すことができるのだろうか。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

【実話】友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
青春
とあるオッサンの青春実話です

恋とは落ちるもの。

藍沢咲良
青春
恋なんて、他人事だった。 毎日平和に過ごして、部活に打ち込められればそれで良かった。 なのに。 恋なんて、どうしたらいいのかわからない。 ⭐︎素敵な表紙をポリン先生が描いてくださいました。ポリン先生の作品はこちら↓ https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911 https://www.comico.jp/challenge/comic/33031 この作品は小説家になろう、エブリスタでも連載しています。 ※エブリスタにてスター特典で優輝side「電車の君」、春樹side「春樹も恋に落ちる」を公開しております。

美少女に恐喝されてフットサル部入ったけど、正直もう辞めたい

平山安芸
青春
 史上最高の逸材と謳われた天才サッカー少年、ハルト。  とあるきっかけで表舞台から姿を消した彼は、ひょんなことから学校一の美少女と名高い長瀬愛莉(ナガセアイリ)に目を付けられ、半ば強引にフットサル部の一員となってしまう。  何故か集まったメンバーは、ハルトを除いて女の子ばかり。かと思ったら、練習場所を賭けていきなりサッカー部と対決することに。未来を掴み損ねた少年の日常は、少女たちとの出会いを機に少しずつ変わり始める。  恋も部活も。生きることさえ、いつだって全力。ハーフタイム無しの人生を突っ走れ。部活モノ系甘々青春ラブコメ、人知れずキックオフ。

宝島

護武 倫太郎
青春
「ねえ、海璃。宝探しに興味ありませんか?」  僕らの住む島には、宝が眠っている。宝の地図を手に入れた海璃と拓海は久しぶりに宝探しに出かけるのだが、その宝は島の伝説にまつわる呪われた宝だった……。  第1回安田屋旅館短編小説大賞に応募し、入選した作品です。

処理中です...